NTTドコモは5月13日に役員等の異動を発表した。この中で、現社長の加藤薫氏は6月に開催される株主総会を持って任期満了で退任し、新社長に現副社長の吉澤和弘氏が就任することが明らかにされた。

加藤薫現社長(左)と吉澤和弘現副社長(右)

ドコモの新しい方向を示した加藤社長

任期満了で退任する加藤社長は、2012年6月に前任の山田隆持氏から引き継ぐ形で社長に就任。「スピード&チャレンジ」をキャッチフレーズに、山田体制では叶わなかったiPhoneの販売を実現させたり、2015年度にはMNP転出が大幅に減少するなど、ドコモの弱点だった部分の改善に取り組んできた。

iPhone導入の実現と「+d」によるスマートライフ領域への注力が大きな成果となった加藤社長

また、2015年には中期戦略として「+d」を発表。他業種とのコラボレーション(ドコモは「協創」と表現)により、特にドコモが「スマートライフ領域」と位置付けるヘルスケアなどの事業分野において、通信事業にとらわれない新たな価値創造を目指すとしている。スマートライフ領域事業は順調に成長しており、今後IoTでの展開や5G時代におけるドコモの舵取りをしっかり行ってきたという印象だ。

一方で、2014年には料金プランが不評で大幅な減収減益を招いたり、インド・タタとの提携事業解消で巨額の損失を計上するなど、すべてが順風満帆とはいかなかった。とはいえ、全体で見ればドコモの体質改善を実現し、顧客満足度の向上やネットワークの強化を実現してきており、その業績は及第点以上だったと言えるだろう。

携帯電話の歴史とともに歩んできた吉澤新社長

新社長に就任する吉澤和弘副社長は、岩手大学工学部を卒業後、旧電電公社に入社。NTT時代には1987年に初の携帯電話(TZ-802)サービスの開発に携わっている。以降、NTTドコモでは経営企画や法人営業などを経て、現在は加藤社長の下、技術・デバイス・情報戦略を担当している。

日本初の携帯電話サービスではネットワーク設計などを担当していたという吉澤新社長

座右の銘は「失意泰然 得意淡然」(物事がうまくいかないときは、落ち着いて時期を待とう。うまくいっているときは、驕らずに慎ましい態度でいよう)。法人営業時、システムダウンなどのトラブルに遭遇した際にはこの座右の銘を思い出し、素早く対応策を考えてアクションに移すよう心がけてきたという。また、TZ-802開発時にはパートナーや他人のアイデアにしっかり耳を傾けてイノベーションにつなげるという考え方を育んできたという。

今後は、まずは2016年度の予算達成を最重要課題としつつ、「+d」の推進や5Gなどの技術開発、それに顧客基盤の拡大と満足度の充実といった、現体制の経営方針を引き継ぐかたちとなる。総務省のガイドラインによってスマートフォンの販売が停滞しつつあり、移動体通信事業そのものの方向性が改めて問われる時代になっているなか、加藤社長が「スポーツマン」と評する吉澤新社長が、これからどのように経営手腕を発揮していくかが注目される。