月間アクティブユーザー(MAU)が1200万人を突破したInstagram。メインユーザーは10代~20代とされており、日本に定着して5年前後が経つFacebookやTwitterと比較して、まだまだ認知度向上半ばという印象もあるだろう。

一部には、「若者文化に上の世代(30代以上)が入ってくると、それまでサービス普及の牽引役となっていたメイン層が離れる、その状況にInstagramが入りつつある」という声もあるが、2015年10月に公開したMAUが810万人だったのに対し、約半年で1.5倍に拡大した状況を考えると、まだまだその勢いが止まることはないだろう。

一方で、Webサービスプラットフォームに欠かせないものと言えば「広告」だろう。サービス事業者は、慈善事業として消費者にサービスを提供しているのではなく、当然、営利企業として食べていかなければならない。無料サービスであれば、なおのこと、マネタイズは「広告」に依存することになる。

Instagramはその点、非常に優位なポジションにある。というのも、それぞれのユーザーが"自分の世界を造って人に見せる"プラットフォームだからだ。もちろん、FacebookやTwitterでもそういう趣きはあるだろう。特にTwitterは趣味、嗜好を全面に出したアカウントも多い。

一方でInstagramは、テキストベースではなく、ビジュアルベースで他ユーザーとのコミュニケーションを図ること、写真フィルターによって、誰もが簡単に雰囲気ある写真を作れる(盛れる)ことから、高品位な自己ブランディングが可能になる。これは、広告を出稿する企業にとってもプラスに働く。

言い方を悪くすれば"盛りたい、意識高い人が集まる"プラットフォームだからこそ、そうした層にアプローチしたい企業にとっても、アピールがしやすい場になる。もちろん、1200万のMAUがいるから、露出効果もそれなりに大きい。そこで、広告という手法ではなく、ネイティブ投稿によってファン層を拡大する選択肢も入ってくる。

これは、芸能人がプライベートをTwitterではなく、Instagramで投稿するケースが増えているのも無縁ではない。芸能人という立場は、プライベートも自身のキャラクターを確立することが1つの仕事と言っても過言ではないし、Instagramであれば、その見せ方が簡単になるのだ。お笑い芸人ながらにエッジの効いた投稿が多く、人気を博す小藪千豊さんのような例もあるが、彼もまた、Instagramを上手く使っている一例となるだろう。

マリノスとインスタグラマー

芸能人に近い立ち位置で、Instagramを活用する例もある。それがスポーツ選手(チーム)だ。4月10日に、明治安田生命Jリーグの横浜F・マリノス VS 浦和レッズの試合が行われたが、この試合はインスタグラマー向けの「#エンプティ(Empty)プロジェクト」の開催の場でもあった。

エンプティプロジェクトは、試合前のスタジアムが空の状態を撮影しようというもので、横浜在住のインスタグラマーが呼ばれ、フィールドの上はもちろんのこと、試合前のロッカールームなど、さまざまな場所を撮影して楽しんだ。

誰もいないスタジアム、ロッカーを撮影するインスタグラマー。ロッカーで一番人気は元日本代表の中村俊輔選手のケージだった

試合終了後には、囲み取材が行われるブースにもおもむき、来日していたInstagramの共同創業者であるケビン・シストロム氏(CEO)とマイク・クリーガー氏(CTO)や選手などとの記念撮影も行っていた。

Instagram共同創業者のケビン・シストロム氏と記念撮影するインスタグラマー

同じく共同創業者であるマイク・クリーガー氏(左)とシストロム氏は、日本に数日間滞在し、さまざまなInstagramに関連したイベントに参加していた

選手とも対話したシストロム氏とクリーガー氏

インスタグラマーだけでなく、この日は一般来場者も楽しめるよう、ハッシュタグ「#fmarinos」を付けてInstagramに投稿すれば、写真がスタジアム内で放映される仕掛けも行われた。これもまた、写真を第一にしたInstagramならではの楽しみ方であり、非常に多くの観客が、自身の席からフィールドを写した写真を投稿していた。

横浜マリノス 広報室の吉久 潤氏は、こうしたInstagramの魅力について、「試合時の迫力のある選手写真や、普段の何気ない表情の写真をファン・サポーターの方々に楽しんでいただける、貴重な場」と語る。また、ハッシュタグでチームのことを知ることができるため、海外のファンであっても写真を通じてリーチできる点も大きな魅力だと付け加えた。

マリノスでは、SNSというツールが「お客さまにとって誰かと共有したいという価値のある情報・コンテンツであれば、お客さまに能動的に拡散してもらえる」というメリットがあることから、マリノスとの接点がない層にもアプローチできることを重視しているという。広告についても昨年末に、Facebookのリード広告を実施。国内でスポーツチームの利活用例があまり存在しなかったことから、シティ・フットボール・グループ(傘下にマンチェスター・シティなど)の事例を参考にした。

「スポーツチームであっても」というよりも、"スポーツチームだからこそ"、Instagramという存在は、数ある媒体の中の1つというよりも、ブランディング施策の一環としての立ち位置に準ずるようになっている。また、Instagramとしても「(日本でどのようにInstagramを広げるかという問いに)スポーツチーム・選手や、芸能人のオフィシャルアカウントを増やしていきたい」とマイク・クリーガー氏が語ったように、ファンが付く存在である彼らを必要としているようだ。