カメラや家電、車など高価なアイテムを購入する前には、製品カタログを見ながら検討する人がほとんどだと思う。メーカーも重要な販促ツールと位置付けているわけだが、ここ最近、「キヤノンの製品カタログがスゴい!」と販売店やネットで話題だ。その背景をキヤノンマーケティングジャパン カメラ商品企画第一部の吉澤直久氏にうかがってみた。

EOS 80Dとカタログ。タイトルの「The Light of the World」はキューバを愛した作家・アーネスト・ヘミングウェイの短編集から

そもそもは2014年10月発売の「EOS 7D Mark II」が驚きだった。カメラの性能も革新的でスゴいのだが、製品カタログがなんと7種類にも及び、周囲をアッと言わせた。鉄道、航空機、野鳥、野生動物、スポーツ、モータースポーツのジャンル別6種類と統合版で計7種類。各ジャンルとも第一線の著名写真家が撮影した写真をふんだんに掲載するという力の入れようだった。

その後も新製品をリリースするたびに好評を得てきたが、今年3月に発売された「EOS 80D」も登場して早々、その製品カタログが大きな話題となった。

一般的な製品カタログは左開きで横書きなのに対し、EOS 80Dの製品カタログは右開きで縦書きのスタイル。雑誌に近いテイストだ。これまでは24ページもしくは28ページが平均的なページ数だが、EOS 80Dの製品カタログは48ページと2倍のボリュームである。

内容も今までのものとはまったく異なる。立木義浩氏がキューバで撮影した写真を全体の半分以上、29ページまで掲載し、一見すると写真集に思える仕上がりになっている。「製品を知ってもらう上でカタログはWeb同様、とても重要なツールになる。今回はかなり力を入れて、いっそ雑誌のようにしてしまおう」(吉澤氏)という流れで、このカタチに仕上がったそうだ。

製品カタログが話題になったこともあり、EOS 80Dは発売までの間にEOS 70Dよりも日数進捗的に多くの予約を獲得。上々なスタートを切れたそうだ。

雑誌のテイストを意識して作られており、読み物も用意されている

通常、表4 (裏表紙) にはスペック表が掲載されているが、こちらにも立木義浩氏の写真をドドーンと配置。多くの人が手に取りやすい

立木氏のコラムが掲載されている。雑誌的な味を出すために同氏の意見を取り入れ、あえて沈んだ色調のまま写真を印刷しているという裏話も

EOS 80Dの製品カタログの初版部数は30万部だったが、販売店から続々と追加オーダーが入り、すでに27万部を配布完了。実際に大手量販店から、「1日に2回補充を行うほど、カタログが急速に減っています」「お客様から『良いカタログだね~』との声、多数いただきました」「雑誌の別冊特集みたいでいい」といった声が寄せられるほどの人気ぶりだという。

当初の予定では初版がなくなり次第、通常の製品カタログに切り替えるはずだったが、要望に応えて重版を決定。6月いっぱいまで入手できるよう増刷するとのことだ。

EOS 80Dの製品カタログを担当したキヤノンマーケティングジャパン カメラ商品企画第一部 商品企画第二課 吉澤直久氏 (右)。「ページ数も多く、コストもかかるのですが」と苦笑するが、反響が大きかったため増刷を決定。すでにEOS 70Dの総配布数を上回っているそうだ

カメラのターゲット層に明確に訴求するため、製品カタログはデザインはもとより、大きさや形に至るまで、さまざまな工夫が凝らされている