世界最大のクルーズ会社、米カーニバル傘下の米プリンセス・クルーズが日本市場に乗り出して今年で4年目。潜在需要の高さを背景に日本のクルーズ市場の開拓を図っている。しかし、日本のクルーズ熱はまだそれほど高まっているとはいえない。それでも同社には余裕が持てるある事情が存在するのだ。

プリンセス・クルーズの客船ダイヤモンド・プリンセス号。全長290m、全幅37.5m、全高62.5m。船内のエレベーターで16デッキまで移動可能(最上階は17・18デッキ)。乗船すると巨大ビルの中にいるような感覚に陥る

クルーズ船は富裕層向けの旅行

クルーズ旅行と聞いて何を思い浮かべるだろうか。船内にはフィットネスクラブ、プール、ジャグジー、スパ、バーラウンジがあり、エンタテインメントショーも開催、船内ではジャケット着用が求められることもある。こんな言葉を並べられれば、富裕層向けの旅行というイメージがついてもおかしくはない。

ダイヤモンド・プリンセス号の船内。写真左上:プール、右上:スカイデッキ、左下:フィットネスクラブ、右下:アトリウム

そんなクルーズではあるが、日本ではふじ丸が就航した1989年が「クルーズ元年」とも言われ、業界ではクルーズ人口100万人を目指していた時期もあった。しかし、ふじ丸は2013年に引退、現在、稼動している日本籍船は「飛鳥II」「にっぽん丸」「ぱしふぃっくびいなす」の3船に限られ、船の数を見ると、一定層の需要は獲得しつつも、大きな広がりは見せていない。利用者数も、それほど増えていない。

国土交通省海事局調べによると、外航クルーズ(乗船地、下船地、寄港地のいずれかに海外が含まれるもの)を利用する日本人乗客数は、2014年で約13万7000人、1989年の約5万8000人から増えているものの、海外と比較すると乗客数の伸びは微々たるものだ。たとえば、世界一のクルーズ需要がある米国は年間1000万人近く利用しているとされている。米国と比較すると、日本ではクルーズ旅行を楽しむ文化が根付いたとはいいにくい状況だ。

そうした中で日本発着便をスタートさせ、日本市場に期待を寄せるのが、世界最大のクルーズ船会社、米カーニバルコーポレーション傘下の米プリンセス・クルーズである。

外資がクルーズ船市場に名乗り

日本発着便開始のきっかけについて、プリンセス・クルーズのエグゼクティブ・ヴァイス・プレジデントのアンソニー・H・カウフマン氏は「海外でクルーズ旅行を体験した日本人からの強い要望があり、期待に応えた」と話す。同社は2013年に保有するサン・プリンセス号の日本発着クルーズをテスト的に実施。日本での市場拡大余地が大きいと見て、以後、ダイヤモンド・プリンセス号の日本発着便をスタートさせた。

日本発着便の開始にあたり、単に船旅を提供したわけではない。ダイヤモンド・プリンセス号に、寿司、日本酒が楽しめるレストランを用意し、ラーメン、そば、うどんといった馴染みの料理も食べられるようにした。日本式大浴場も備え、約100人の日本語を話せるスタッフも乗船し、外資系クルーズ船とは思えない充実したサービスを提供している。

「Kai Sushi」で寿司や日本酒が楽しめる

船内ではそばも食べられる

日本式大浴場の泉の湯。湯船だけでなくサウナも用意されている