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ガリガリと、一心不乱に爪を研ぐ猫の表情は真剣そのもの。猫の爪は人間のように一枚の爪が伸びるのではなく、新しい爪が下から生えて重なっていきます。ガリガリと爪をとぐことで、上に移動した古い爪が剥がれ鋭い新しい爪が現れます。爪を鋭く保つことは、狩りにも有利ですし、それによって木に上手に登ることができます。

実は、猫の爪とぎはマーキングをするためにも行われます。肉球の汗腺から分泌される匂いが爪をといだ場所に残るんですね。また、剥がれ落ちた古い爪が地面に落ちることで、匂いだけでなく視覚的にも他の猫に「ここが自分の縄張りだ! 」ということを主張します。

爪とぎから家や家具を守るには

ただ、そうはいっても、愛猫に家の柱や家具で爪とぎをされては家がボロボロになってしまいます。できれば、猫には安価で交換しやすい素材のもので爪をといでほしいものです。

猫に強制的に「ここでやりなさい」といってもまず成功しません。希望の場所で爪とぎをしてもらうには、より理想的な爪とぎ場所を用意するか、してほしくない場所のとぎ心地を下げる必要があります。布団に粗相をしてしまう猫の解消法に似ていますね。

替わりの爪とぎグッズを用意する

まずは替わりの爪とぎを用意しましょう。

もしあなたの愛猫が壁紙で爪とぎをしていたら、愛猫は爪をとぎながらストレッチをするのが好きなのかもしれません。よって、(1)壁紙に似た素材で、(2)同じくらいの高さのものを用意しましょう。同じ理由で、例えばもし猫がカーペットで爪とぎをするようならば、床に固定するタイプのものを用意する必要があります。

現在、猫が爪とぎをしている場所に似たものを用意しないと、せっかく買ったのに使ってくれないことがあるので注意しましょう。

猫が好む爪とぎ素材

爪とぎを選ぶ際のポイントは次の3つです。

・安定しており、激しく爪をといでも動かない
・適度な抵抗があり、爪が掛かる(木材や段ボール)
・適度な高さにある(猫が存分にストレッチすることができる)

猫が嫌う爪とぎ素材

また次のような爪とぎは猫が好んで使ってくれません。

・不安定で爪とぎをすると本体が動く
・引っ掛かりがなく滑る
・爪とぎの高さがあまりなく、ストレッチできない(特に大きい猫)

爪とぎグッズを買ってきたら……

新しく買った爪とぎグッズにマタタビを散布することは、一定の効果があります。新しいものに対する猫の警戒心を軽減させるからです。そして、新しい爪とぎグッズは猫がよく爪とぎをする場所の近くに設置しましょう。

やってほしくない場所のとぎ心地を下げる

次に、やってほしくない場所のとぎ心地を下げましょう。以下の方法があります。

・両面テープ
古典的な方法ですが効果的です。爪とぎをしてほしくない柱の角などに両面テープを貼ります。猫は手がべたつくことをとても嫌い、そこで爪をとがなくなります。粘着力が強力すぎると、家具そのものがダメージを負ったり、猫が怪我したりするので、気をつけて下さい。しばらくテープを貼っておき、猫が学習するとそこではしなくなります。

・引っ掛かりをなくす
木製の家具や柱は厚めにニスを塗ると、爪が掛かり辛くなるのでとぎ心地が下がります。壁紙には透明のカッティングシートを貼る方法もあります。もし家の設計時から猫を飼うことを決めている場合は、引っ掛かりが少ない壁紙を選ぶと良いでしょう。

・猫除けグッズ
近づくと風が発生する装置や、猫が嫌うにおいのスプレーなどもあります。スプレーは猫にとって嫌なにおいが部屋に残るので、あまりオススメしません。また風発生装置はシャイな猫だと風を怖がりすぎることがあり、ストレスの原因になります。性格を見極めて検討しましょう。

もしかしたら不安があるのかも

もし爪とぎをする場所が特定の場所ではなく広範囲に広がっていたり、ドアや窓の近くに集中していたりする場合は、猫が不安になっている可能性があります。何かに不安があると、身を守るために過剰なマーキングをするからです。

この場合は、不安の原因となる問題(外猫、外部の音、不仲な同居猫の存在など)を解決しないと爪とぎ行動はおさまりません。

原因を特定するのは簡単ではありませんので、かかりつけの獣医師に相談することをオススメします。また、不安を軽減させるための猫の人口フェイシャルフェロモン(フェリウェイ)を散布することで爪とぎが減ったという報告があります。

新しく設置した場所と、昔の場所で爪とぎをしてしまう場合

今までといでいた場所でやらないようにさせることを成功させるには、時間と根気が必要です。結局、前の場所と新しく設置した爪とぎの両方で爪とぎしてしまう場合は、まずは爪切りをして家具へのダメージを減らしましょう。

また、ソフトクローといって、ビニール製のキャップを爪につける方法があります。爪切りよりも家具へのダメージはさらに少ないですが、猫によっては嫌がってすぐに外してしまうこともあります。

抜爪術といって、外科的に爪を取り除く方法もあります。しかし、倫理的な理由から、英国では法律で禁止、米国では条例で禁止されている州があります。日本では特に法的な制限はありませんが、決して安易に行ってはいけません。どんな手術なのか、どのような影響が出るのか十分に理解した上で、獣医師と十分に協議をし、判断をしなくてはいけません。

最後に

猫が爪とぎをすることは自然な行動なので、決して叱らないようにしましょう。怒られても、猫は混乱するだけです。もし爪とぎの原因が外部からのストレスであった場合、叱ることでさらに状況が悪化することも考えられます。

人間側が猫の気持ちを理解することが、爪とぎ問題の解決の手がかりになります。爪とぎで困っている方は「どんなんとこで爪をとぐのが好きなのか? 」「どんな素材が好きなのか? 」愛猫の立場に立って対策を考えましょう。

■著者プロフィール
山本宗伸

獣医師。猫の病院 Syu Syu CAT Clinic で副院長を務めた後、マンハッタン猫専門病院で研修を積み今年帰国。現在2016年6月に猫専門動物病院 Tokyo Cat Specialists開院に向けて準備中。ブログ nekopeidaも毎月更新中。