東京都・お台場の「日本科学未来館」(略称:未来館)は、開館15周年を迎える今年、常設展の本格的なリニューアルが実施され、4月20日より一般公開された。ここでは、19日に開催されたプレス内覧会の様子をレポートする。

日本科学未来館 館長 毛利衛氏

地球規模の問題を、最先端の科学技術で表現

同館は、今世界に起きていることを科学の視点から理解し、我々が今後どのような未来を作っていくかを共に考え、語り合う場を提供する国立の科学館。触れて楽しめる展示や実験教室、トークイベントなどのメニューを通し、日々の素朴な疑問から最新テクノロジー、地球環境、宇宙の探求、生命の不思議まで、さまざまなスケールで現在進行形の科学技術を体験することができる。2001年7月9日の開館以来、今年で15周年を迎える。

今回のリニューアルでは、展示の新設やドームシアターの新コンテンツ、展示体験を深めるナビゲーション演出や公式アプリ、アクティビティスペースの整備などが実施されるなど、オープン以来の本格的なリニューアルとなった。

内覧会は、日本人としては2人目の宇宙飛行士であり、同館の館長を務める毛利衛氏の挨拶で幕を開けた。

今回のリニューアルでは「TSU-NA-GA-RI(つながり)」をテーマに、「人類がこの先、自然災害や原発事故などさまざまな課題を乗り越え、どのように生き残っていけるか?」という地球規模の問題を、最先端の科学技術で表現したと語る。また、今回のリニューアルのメイン展示として、それぞれが思い描く未来を実現するためにどうすべきかを考える「未来逆算思考」と、東日本大震災の経験をはじめとするさまざまな災害や人災などの"ハザード"をわかりやすく表現した「100億人でサバイバル」の2点を挙げた。

これらは、2017年11月に同館にて開催される「世界科学館サミット」(世界各地の科学館ネットワークが一堂に会する国際会議=Science Centre World Summit)を見据えたものだと明かした。

未来館のシンボル的存在の「ジオ・コスモス(GEO-COSMOS)」と3階と5階をつなぐ「オーバルブリッジ」

「体験型」はもう古い!? これからは「経験型・思考型」

次に、同館 展示企画開発課 課長の内田まほろ氏が、リニューアルされた展示の概要と開発の狙いについて紹介。内田氏は「これまでの体験型はもう古い」と指摘した上で、今回のリニューアルではあえて「経験型・思考型」の展示に力を入れたという。

同館は「科学を伝える」だけでなく、「来館者が自らそれを考え、それを行動に移すことを促す」のも目的であるとし、新しい展示ではいかに「促す」ことができるかが設計のテーマであったとのこと。来館者はまず「問い」から始まり、自らそれを「考え」、そして「行動」に移す、「問い、考え、行動する」という3ステップでの閲覧方法が展示のベースとなっているうえに、「展示と展示」のつながり、「来館者と未来館」のつながり、「来館者同士」のつながりといった「つながり」がキーワードとなって設計されているなど、科学コミュニケーションの枠を広げた、世界に類を見ないユニークな科学館を目指していると語った。

3階の入り口「ミライゲート」の大型ディスプレイには、科学者やクリエイターらの「問い、考え、行動」が表示される

ディスプレイ下部は座面になっており、座って記念写真を撮影可能

アプリ「Miraikan ノート」が8つのモデルコースを提案

「問い、考え、行動する」というコンセプトが明確に

ここからは、今回のリニューアルで新たに追加された展示を個別に紹介する内覧会ツアーに参加し、各展示の担当者からの説明を受けた。1階からエスカレーターで3階に上がったところで最初に紹介されたのは、3階の「未来をつくる」の常設展入り口部分に設置された「ミライゲート」だ。5階の「世界をさぐる」常設展の入り口にも同様に「セカイゲート」が新設されている。同館では数年前より、3階が「未来をつくる」、5階が「未来を探る」をテーマとした展示が行われているが、これらのゲートは、今回のリニューアルの「問い、考え、行動する」というコンセプトを明確にし、来館者に伝えるために作られたという。また、ゲートの大型ディスプレイには、科学者や展示に関わるクリエイターらによる「問い、考え、行動する」が表示される。ディスプレイの下部は座面になっており、腰掛けて記念写真を撮ることも可能となっている。

次に、今回よりリリースされた、未来館公式の常設展を案内するスマートフォン向けのアプリ「Miraikan ノート」が紹介された。同アプリに収録されるコンテンツとして、8つのモデルコースを回りながら思ったことなどをメモできる「クレスト」(日本語版/英語版)のほか、すべての展示の見どころを音声ガイドで聞ける機能や、各展示に用意された「ビーコンセンサー」にスマートフォンをかざしてチェックインすることで、その展示に関してのヒントが表示されるということだ。なお、モデルコースをクリアすると、未来館のシンボルとなっている、有機ELパネルで地球を表現した「ジオ・コスモス」を背景に、AR技術を使った記念写真を撮ることができるという。同アプリはiOS版とAndroid版がそれぞれ用意されており、App StoreまたはGoogle Playにて無料でダウンロードできる。

ミライゲートをくぐりスグの場所にある「ノーベルQ」には、ノーベル賞受賞者による"問い"やその人のプロフィールが展示されている

ミライゲートをくぐり、最初に案内されたのは「ノーベルQ」という展示コーナーだ。未来館では、ノーベル賞受賞者が同館を来訪した際に「名誉会員」の称号を贈り、敬意を表するとともに、「来館者いつまでも考え続けてもらいたい"問い"」を直筆メッセージで提供してもらうという。これらのメッセージは従来まで1階に展示されていたが、今回のリニューアルで新たにこの展示コーナーを設け、アルファベットの「Q」をモチーフにしたフレーム内にノーベル賞の受賞理由やプロフィールなどが展示されている。

子孫たちに理想の未来を贈る方法を考える「未来逆算思考」

子孫に残したい地球を8つから1つ選びスタンプを押す

50年後の子孫たちに理想の未来を贈るには?

次に向かったのは、「あなたは50年後の子孫たちにどんな地球を贈りたいか?」という問いかけで始まる「未来逆算思考」と題された展示。これは英語の「backcasting」という単語を日本語に訳したもので、その思考法を実際に経験することで身につけようというテーマに基づいたものだ。それぞれの来館者が「理想の未来像」を思い浮かべ、それを実現するためにさまざまな障害や壁をクリアしてこうという、ゲーム形式のコンテンツとなっている。

「地球温暖化がストップした地球」、「いつまでもきれいな水が飲める地球」、「エネルギーで豊かな暮らしができる地球」、「芸術文化に満ちあふれた地球」、「ことばの多様性が守られている地球」、「いつまでも魚をたべつづけられる地球」、「誰もが健康でいられる地球」、「不平等や貧困のない地球」という8つの地球から、自分の子孫に残したいものをひとつ選び、用意された用紙にスタンプを押したら、それを守るためにすべきことを考えながら、プレイするまでの並んでいる間、未来からの視点から時の流れのさまざまな「進歩」や「障害」を避けることができる道筋をデザインする。

画面上で時の流れを進むルートを指で描くと、自分の地球が未来に送られる。資源ポイントや文化ポイントがなくなったらゲームオーバー

自分がプレイする番になったら、名前などを入力して画面上で時の流れを進むルートを指で描くと、地球が未来に送られる。その時の流れ(移動)をともに歩きながら追いかけ、障害や災害など今後起こりうるさまざまなイベント乗り越え、クリアするのが目的となっている。なお、それぞれの地球はスタート時に異なるポイントを持ち、(押したスタンプでポイントを確認できる)、資源ポイント(○印)や文化ポイント(△印)がなくなった時点でゲームオーバーとなり、ハードルを越えられなかった来館者には研究者から手紙が届く仕掛けになっているという。

3階と5階をつなぐ「オーバルブリッジ」

ジオ・コスモスの制御ルーム「ジオ・コックピット」

タッチスクリーン端末「ジオ・プリズム」

未来館のシンボル「ジオ・コスモス」のオープンな開発環境を構築

また、未来館のシンボルである「ジオ・コスモス(GEO-COSMOS)」を見渡すように3階と5階をつなぐスロープ「オーバルブリッジ」の途中には、ジオ・コスモスの制御ルームである「ジオ・コックピット(GEO-COCKPIT)」と、タッチスクリーン端末「ジオ・プリズム(GEO-PRISM)」が設置された。

ジオ・コックピットには、スマートフォンのディスプレイにも用いられる、薄くて強度の高い薄型の化学強化ガラスによって透明性と軽快感を実現している。表側の厚みはわずか1.1mm(0.55mm厚×2枚貼り合わせ)で、この大きさの家具でこの薄さの化学強化ガラスを使った作品は恐らく世界初とのこと。一方、ジオ・プリズムは、AR(拡張現実感)技術を用いて、巨大な画面上に映し出されたジオ・コスモスにさまざまなデータやシミュレーションを重ねて映し出すことができるシステムだ。

開発のコンセプトは3つあり、ひとつめが「来館者の"ジオ・コスモスに触りたい"という要望に応えること」、ふたつめはジオ・コスモスの"コンテンツを変えられない"という弱点を克服すべく「球体ディスプレイのさらなる実験を行うこと」、そして3つめが「オープンな開発環境を構築すること」。ジオ・コスモスのコンテンツ開発はなかなか難しいが、良い開発環境を提供することで、国内外の開発者や研究者やクリエイターが独自にコンテンツ開発に参加できる設計になっているという。ツアーでは、Twitterでのツイートの可視化、スーパーコンピュータで解析した詳細データの可視化、JAXAの人工衛星「しずく」が観測したデータの可視化といったコンテンツが紹介された。