【レポート】

最強生物「クマムシ」の最先端研究を知るならココしかない! - 「第1回 クマムシ学研究会」に参加してみた

「クマムシ」という生物をご存知だろうか。"ムシ"と呼ばれているが、昆虫ではない。分類学的にいうと緩歩動物門に属する動物の総称が、クマムシ(=緩歩動物)である。クマムシは4対の脚を持った体長およそ1mm未満の小さな動物で、陸、川、海など、私たちの身のまわりに多く生息している。乾燥や温度、圧力、放射線などに対する耐性能力が非常に高く、「最強生物」の呼び声が高い。

このクマムシに特化した研究会「クマムシ学研究会」の第1回目が4月10日、慶應義塾大学日吉キャンパスにて開催された。

慶應義塾大学 先端生命科学研究所 特任講師/オンラインサロン・クマムシ研究所 所長の堀川大樹氏。「クマムシ博士」として知られている

主催者の一人である慶應義塾大学 先端生命科学研究所 特任講師/オンラインサロン・クマムシ研究所 所長の堀川大樹氏によると、国内では2006年に一度だけ、クマムシに関する研究会が東京大学で開催されたことがあるというが、今後、定期的にクマムシに関する研究会を行っていくために、慶應義塾大学先端生命科学研究所 荒川和晴特任准教授、慶應義塾大学医学部の鈴木忠准教授とともに「クマムシ学研究会」と称し、研究会を立ち上げた。堀川氏は同研究会について、「クマムシの研究者が全国からほぼ集結している状態。"クマムシの今"を知るならここしかない」と語っている。

同研究会では、クマムシに関する研究を行う研究者をはじめ、大学・大学院生、高校生までの全14名が登壇し、自身の研究成果について発表した。

国立極地研究所 辻本惠特任研究員

講演のトップバッターを務めたのは、南極の極限環境に生きるクマムシの研究を行っている、国立極地研究所の辻本惠特任研究員。南極の生き物というと、ペンギンやアザラシなどをイメージしてしまうが、これらの動物はふだん海で生活しており、繁殖の時期のみ陸に上がってきているだけ。実際には、トビムシ、クマムシ、線虫といった小さな生物のみが南極の極限環境に生きているといえる。辻本氏はこのうち、南極に生息するクマムシの繁殖について調べ、ほかのクマムシと比較して南極に生息するクマムシの卵の孵化率が非常に高く、また年老いても繁殖能力があまり落ちないことを見出した。南極において、繁殖可能な夏の時期は1~2カ月程度。孵化率の高さと、年老いても繁殖能力が衰えないという南極のクマムシの2つの特徴は、南極という厳しい環境における繁殖に非常に有利であるといえる。

また辻本氏は、1983年の11月に南極で採取され冷凍で保存されていたコケを解凍し、30年以上クリプトビオシスという無代謝状態にあったクマムシの蘇生・繁殖に成功させたことについても発表した。同成果については、今年1月に弊誌でも取り上げている。

・30年以上前に南極で採取されたクマムシが蘇生して繁殖! - 極地研

この成果について辻本氏は、「-70℃で5年間凍っていた南極のクマムシが生き返った事例があったので、30年凍っていたものが蘇生したのはそこまでは驚かなかった」とコメントしている。

会場内ではクマムシグッズも販売されており、人だかりができていた

プロの研究者や大学生・大学院生たちに混ざって、高校生研究者も2名登壇した。成蹊高校1年生 稲留直紀氏は、クマムシの「窒息仮死」についての研究を行っている。今回は、杉並区の歩道脇のコケに生息していたクマムシの一種を、使い捨てカイロと脱酸素剤を用いて酸素濃度を減らした密閉容器内に曝露し、クマムシを窒息仮死状態にさせた。その後、仮死状態のクマムシを容器から出して復活させるという実験を行ったところ、低酸素環境への曝露時間が長くなるほど、復活までにかかる時間が長くなることがわかったという。今後は「窒息仮死の維持限界時間や種間の違いなどを調べていきたい」としている。

また今回、同研究会に参加したのは、クマムシを専門としている研究者だけではなかった。コケ植物(蘚苔類)を専門に研究を行っているという高知大学 理学部 松井透教授は、高知県内各地のさまざまなコケ植物を住処としているクマムシの数や種について調べた。特定のコケ植物にしか生息していないクマムシ、逆にさまざまなコケ植物から発見できるクマムシなど、それぞれのコケやクマムシにおいて特徴が見られたという。また、機械工学が専門の日本工業大学 機械工学科 梅崎栄作教授は、クマムシのその特徴的な歩き方について着目。血管内を走行するマイクロロボットへの応用を見据え、8本足で歩くクマムシの動きについて詳細に解析を行った結果を発表した。

高知大学理学部 松井透教授はコケ植物の研究者

今回の研究会は一般にも公開されており、無料で聴講することができた。そのため、約100人の参加者のうち、半数以上は一般の人たちであったという。こういった学会や研究会は、研究者や学生のみを対象としている場合が多く、今回の研究会のように、一般の参加者が最先端の研究や第一線で活躍する研究者たちと直接触れ合うことのできる機会は滅多にないだろう。堀川氏によると今のところ、クマムシ学研究会は原則として毎年開催していく予定であるという。少しでもクマムシという生物に興味を持った方は、次回、ぜひ参加してみてはいかがだろうか。

研究会の最後には特別ゲストとして特大"クマムシさん"が登場



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