インターネットイニシアティブ(IIJ)は4月8日、独ベルリン・フィル・メディア(Berlin Phil Media GmbH)との間に、ベルリン・フィル・メディアの映像配信サービス「デジタル・コンサートホール」においてストリーミングパートナーとなるスポンサーシップ契約を、2016年1月1日付で締結したことを発表した。世界最高峰のオーケストラであるベルリン・フィルの演奏を、ハイレゾで配信するサービスを展開する。

IIJの高い技術力とベルリン・フィルのコンテンツ力が合体

IIJは日本における最初の商用プロバイダサービスを開始するなど、インターネットサービスの草分け的存在だが、1990年代末~2000年代前半にはニューヨークからYMOの演奏を生中継したり、サイトウ・キネンフェスティバルの生中継を行うなど、ストリーミングサービスについても古くから展開してきている。今回、独ベルリン・フィル・メディア社と提携し、高品質の音楽配信サービスを開始することとなった。デジタル・コンサート・ホールによるハイレゾ配信は日本市場で先行スタートし、オンデマンド配信の開始は4月8日から。また、ベルリン・フィル・メディアから提供されたコンテンツを、ネットラジオ番組を通じて4月16日より配信する。価格は、1年契約が149ユーロ(約18,500円)、30日券が19.9ユーロ、7日券が9.9ユーロ。また月額支払いのサブスクリプションプランも用意され、こちらは月額14.9ユーロとなる。

発表会に登壇したIIJの鈴木幸一会長。日本のインターネットサービスの生き証人であり、熱心なクラシック音楽ファンでもある

IIJの鈴木幸一会長は、今回のサービスは動画と同じくらいの帯域を音楽だけに費やす画期的なハイレゾ配信サービスであると紹介。IIJは配信技術について世界でも有数の技術を持っており、今後はあらゆるメディアの配信に対応してくとした。また、今後予定されている4K放送についても触れ、現在の電波帯域では、4K放送は1.5局分程度しか飛ばせないと指摘。「総務省には静かにしていろと言われますが」と会場を沸かせつつも、将来は4K以上の放送はネット配信が中心になっていくと予想し、配信サービスについては今後も注力していくことを明らかにした。

ベルリン・フィル・メディアのオラフ・マニンガー氏は、ベルリン・フィルは音楽をライブで配信してくことについて伝統的に注力してきたとし、世界初のステレオ録音や、カラヤンの時代に始まった映像つきの演奏記録、ソニーと組んでCDの仕様を策定するなど、演奏内容をその時々の最高の形で視聴者に届けることを追求してきたことを紹介した。また、IIJとの提携では、IIJの技術力を高く評価しており、またIIJが持つオープンな姿勢、革新性が欠かせないとした。

マニンガー氏はベルリン・フィルの主席チェロ奏者でもあるが、8年前からベルリン・フィル・メディアの代表としてコンテンツ配信について研究してきたという

今回の提携で日本でもスタートする「デジタルコンサートホール」サービスは、1年を通じて約50回開催される、ベルリン・フィルの定例コンサートをインターネット中継で視聴できるというもの。2010年にサービスを開始して以来、これまでに約400回のコンサートを配信しており、その全てがアーカイブとしてオンデマンド再生できる。またコンサート以外にも演奏家へのインタビューやドキュメンタリー、エデュケーションプログラムなど1,000本近くのコンテンツがあり、これまでに2,000万人がアクセスした人気コンテンツだ。

さらに日本独自のサービスとして、ベルリン・フィルが自主レーベル「ベルリン・フィル・レコーディングス」で販売しているチクルス(特定の作家の作品を連続して演奏すること)タイトルを3つ、これは年間契約しているユーザーには無償で公開する。このコンテンツはハイレゾ配信となり、データは24bit/48KHz~192KHz、1.5Mbps~3.5Mbpsから選択できる。

マニンガー氏はドイツに続いて日本でサービスを開始する理由として、日本はインフラが整っており、ベルリンフィルの人気も高く、クオリティに対する要求が高い、理想的な環境であると指摘し、ハイレゾとはいえオーディオのみを提供することがどう受け取られるかをよく見てみたいと語った。

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デジタルコンサートホールは月額換算でも1,500円超と、有料コンテンツとしても高額な部類に入るが、家にいながらにして世界最高峰との誉れも高いベルリン・フィルの優れた音楽をハイレゾで楽しめるというのは非常に魅力的だ。最高音質も含めてフルに楽しむためにはパソコンとUSB-DAC、それなりのスピーカーが別途必要になるが、ひとまずCD以上の音質=ハイレゾという程度でよければ、多くの市販パソコン(Windows、Mac双方)で48KHzでの再生が可能だ。近い将来、スマートフォンアプリでもハイレゾ対応で楽しめるようになるとのことなので、モバイルDACを持っているユーザーは楽しみにしておきたい。