東京地下鉄(東京メトロ)は、日比谷線茅場町駅と千代田線赤坂駅を対象に「駅周辺開発における公募型連携プロジェクト」を2016年4月1日(金)から2021年3月31日(水)までの5年間実施する。

東京メトロはこのプロジェクトについて、「当社でバリアフリー施設の整備実施を検討する駅に隣接する土地・建物所有者や建物の建替え、開発等を計画される方から駅との接続を前提とした開発についてご提案いただき、開発に向けた協議を共に行っていくことにより、ご提案いただいた方と当社双方にメリットのある開発を実現していきたいと考えております。 」と説明している。いったいどういうことだろうか。

地下への出入口を道路に作れない!

茅場町駅の既設出入口。歩道上に階段がある、典型的なスタイル。 (出典:東京地下鉄)

文京区役所の建物内に作られた地下鉄出入口。都営大江戸線春日駅の建設時には、独立した出入口はひとつも作られなかった。 (筆者撮影)

地下鉄の出入口と言えば、歩道に地下への階段が設置されているというのが典型的なイメージだろう。ところが近年建設された地下鉄には、こういう出入口がほとんどないことにお気付きだろうか。東京の場合、東京メトロ副都心線や都営地下鉄大江戸線は、歩道上の出入口が少ないのだ。

新しい駅の出入口はほとんどが道路上ではなく、隣接する敷地に駅の換気所などを設置して、そこに納まっている。また、隣接する建物の1階に地下鉄の入口があったり、建物の地下1階が駅と直結していることも多い。

中でも都営大江戸線の春日駅は、駅独自の地上出入り口がひとつもない。大江戸線春日駅から地上に出るには、都営三田線の春日駅や東京メトロの後楽園駅の出入口を利用するか、連絡通路でつながった文京区役所の建物内を利用するしかない。春日駅と書かれた出入口もあるので気付きにくいが、都営大江戸線建設時に新設された独自の出入口はない。

こんなことになっているのは、歩道を広く使いたいという時代の流れになっているからだ。車椅子やベビーカー、自転車などが歩道を通行する場合、歩道上に地下鉄出入口があるとそのぶん歩道幅が狭くなってしまう。そうならないよう、道路を管理している国や都は、特に歩道を広くとった都市計画道路や駅前広場でもない限り、歩道上への出入口設置を認めなくなってきている。

バリアフリーには土地が必要

赤坂駅の既設出入口。エスカレーターはあるがエレベーターはない。(出典:東京地下鉄)

こういった理由から、新設の駅では道路に隣接する場所に駅出入口を設置することが多いのだが、既存の駅はそのままで良いというわけにもいかない。それはバリアフリー化工事をしなければならないからだ。地下の駅には必ず階段があるが、古い駅は地面から浅いことも多く、建設当初はエスカレーターやエレベーターがなかった駅も多い。

既存の駅にエスカレーターやエレベーターを設置しようとすると、出入口の拡大が難しい。ときどき、エスカレーターが地上まで繋がっていなくて地下1階ぐらいの深さから階段で地上へ出なければならない、なんて中途半端な出口を見掛けるが、あれは道路上にエスカレーターの幅が確保できなかったのだ。

エスカレータは健常者には便利な施設だが、歩行が困難な人や車いすの人にはエレベーターが必要だ。東京メトロでは全ての駅に最低1つ、エレベーターで移動できるルートを確保しようとしているが、1か所では地上出入口が不便な場所ということもありえる。道路を挟んで両側にあった方が便利といった状況もあるだろう。また日比谷線茅場町駅は線路を挟んで2つのホームがある「相対式」のホームなので、エレベーターは両側に設置しなければならない。

とはいえ、エスカレーターやエレベーターのために近くのビルを買収し、取り壊すのも大変で、地価の高い都心ではなかなか進まない。そこで出てきたのが「このあたりに地下鉄の出入口を新設したいのだけれど、ビルを建て替えたり土地を提供したりしてくれる人はいませんか」という呼び掛けをすることというわけだ。

ビルと地下鉄が一体で「まちの顔」に

ビルなどの地下に地下鉄駅が直結している場合、ビルのオーナーやテナントは「地下鉄駅直結」と宣伝できるという大きなメリットがある。もちろん、ビル内の広々としたエスカレーターなどを利用して地上へ出られるのは実際に便利だ。また鉄道側は、ビルと接続する部分だけを建設すれば、エスカレーターやエレベーターはビル側で建設し管理してもらえる場合もあるだろう。ビル、鉄道、利用者の全員が得をする。

また、改札口などが地下にある地下鉄駅は、地上には階段しかないので存在感が薄いことも多い。一方、商業施設などが入ったビルの1階や地下が駅のエントランスになっているような場合は、施設全体が駅の一部と感じられて存在感が強くなる。東京メトロも、バリアフリーだけでなく「まちの顔」となる開発をうたっている。

東京メトロでは近隣の建物の建て替えや開発と協力し、「まちの顔」となる駅出入口の設置を目指していくという。募集期間は5年間だが、開発計画が決定した時点で募集を停止する予定だ。