【レポート】

火星探査機「エクソマーズ2016」危機一髪? - ロケット分解、破片が襲う

 

3月14日に打ち上げに成功した欧州とロシアの火星探査機「エクソマーズ2016」(関連記事:欧露の火星探査機「エクソマーズ2016」打ち上げ成功 - 火星の生命探る旅へ)。しかしその成功が、実は危機一髪だった可能性がもちあがった。探査機を打ち上げたロケットが何らかの原因で分解し、その破片が探査機を襲ったのではないかと見られているのである。

今のところエクソマーズ2016に問題は見られず、順調に航行を続けているが、心配の種がすべて消えたわけではない。

ロケットから分離されるエクソマーズ2016の想像図 (C) ESA/ATG medialab

地上から撮影されたエクソマーズ2016とその周囲に浮かぶ謎の物体 (C) ESA/OASI

ブリースM

「エクソマーズ2016」は3月14日に、カザフスタン共和国にあるバイカヌール宇宙基地から「プラトーンM」ロケットで打ち上げられた。ロケットは順調に飛行し、打ち上げから約12分後に、ロケットの第3段から「ブリースM」上段が分離された。

ブリースMはプラトーンMロケットにとって第4段にあたる部分で、長時間宇宙で活動でき、また複数回に分けたエンジン噴射ができる能力をもっている。それを活かし、人工衛星を目標の軌道に正確に投入したり、複数の衛星をそれぞれ別の軌道に投入したりといった芸当ができる。そのためロケットの第1~3段とは区別し、これ単体で独立した、別のロケットとして扱われている。

エクソマーズ2016の打ち上げでは、プラトーンMの第3段から分離された後、ブリースMは4回に分けたエンジン噴射を行った。これにより、地球周辺を脱出し火星へ向かう軌道に乗る。打ち上げから探査機分離までは約10時間30分という長旅だった。

ブリースMは3月15日5時6分(日本時間、以下同)に4回目のエンジン噴射を終え、慣性飛行をはさみ、その約9分後の5時15分にエクソマーズ2016を分離した。

エクソマーズ2016を搭載したプラトーンM/ブリースMロケットの打ち上げ (C) ESA-Stephane Corvaja, 2016

エクソマーズ2016分離の瞬間の想像図。左がブリースM上段 (C) ESA/ATG medialab

この段階では、ブリースMとエクソマーズ2016は非常に接近した状態で飛んでいる。そのため、もし何かの弾みでどちらかがエンジン噴射が、あるいは何らかのガスの噴射といった動きをしてしまうと、追突・衝突をする可能性がある。また、両者はともに火星に向かう軌道に乗っているため、このままではブリースMも火星に到着、地表に墜落する可能性がある。詳しくは後述するが、これは非常に都合が悪い。

そこでブリースMは、探査機を分離した直後に、2回に分けた逆噴射を行い、エクソマーズ2016との間の距離を取るとともに、火星衝突を避ける軌道に退避することが計画されていた。

しかし、それはどうやら実施されず、そればかりかエクソマーズ2016の周囲に、謎の物体が飛んでいることが判明したのである。

奇妙な物体を伴って

エクソマーズ2016の打ち上げは、世界各地の天文台で追跡が行われていた。ロケットがどのように飛ぶかはあらかじめわかっているため、それを望遠鏡で追跡することで、今後、地球に接近する小惑星などを追跡する際の予行練習になる。

その追跡に参加していたうちのひとつである、ブラジルのOASI天文台は、エクソマーズ2016の周囲に、少なくとも6つの謎の物体が浮かんでいるのを発見した。

地上から撮影されたエクソマーズ2016(中央の一番明るい点)と、その周囲に浮かぶ謎の物体(GIF動画)。少なくとも6つの物体が、エクソマーズ2016とほぼ同期して飛んでいることがわかる (C) ESA/OASI

これは奇妙なことだった。エクソマーズ2016もブリースMも、この段階で何か部品を分離することはない。つまり本来なら、エクソマーズ2016とブリースMの、2つの物体しか写らないはずだった。

また、これらの物体がエクソマーズ2016の周囲を飛んでいるということは、この物体はエクソマーズ2016から発生したか、あるいはブリースMから、エクソマーズ2016と火星への衝突を回避するための逆噴射を行う前の段階、つまり両者の相対速度差がほとんどない段階で発生したものであると考えられた。

ただ、エクソマーズ2016からの通信により、探査機の状態が正常であることは確認されている。もし、これらの物体がエクソマーズ2016から発生したものであるなら、何らかのエラーを示すか、そもそも信号が遅れない状態に陥っているはずだった。

つまりこの物体は、ブリースMがエクソマーズ2016を分離した直後に、さらに衝突回避のための噴射を行うよりも前の段階で、何らかの理由で爆発か分解を起こし、その際に発生した破片である可能性が高いと考えられる。

予想される最悪のシナリオ

地上から撮影されたエクソマーズ2016とその周囲に浮かぶ謎の物体 (C) ESA/OASI

エクソマーズ2016も、このブリースMの成れの果ての物体も、時々刻々と地球から離れて行っており、地球から観測することはできない。また米軍は軌道上の物体を監視しているが、地球から離れすぎていると探知できない。そのため、いつ、どこで、どういうことが起きたのかを知る方法はない。

ただ、ブリースMはこれまでにも、軌道上で分解する事故を何度か起こしている。最近では今年の1月16日に起きており、原因は不明だが、日光でタンクが温められて、残っていた推進剤が蒸発、そしてタンクが破裂したのではと考えられている。ただ、このときすでに、ブリースMと衛星との間は大きく離れていたため、大きな問題にはなっていない(もっとも、発生した破片が、後に他の衛星などと衝突する可能性は残る)。

しかし、今回の場合は悪いことに、エクソマーズ2016や火星との衝突回避のための噴射を行うよりも前の段階で起きたと考えられるため、いくつかの懸念が考えられる。

破片がエクソマーズ2016を襲った可能性

ブリースMがエクソマーズ2016との衝突を回避するための噴射を行うよりも前に分解したということは、すぐそばにエクソマーズ2016がいたということになる。つまり分解によって発生した破片が、散弾銃のように探査機を襲った可能性がある。

ただ幸いなことに、日本時間3月23日現在、エクソマーズ2016は順調に航行していると発表されている。ただ、影響のない範囲で、あるいはまだ起動していない機器などが損傷を受けている可能性がないわけではない。

エクソマーズ2016のセンサーへの影響

もうひとつの懸念は、探査機のセンサーの誤作動である。エクソマーズ2016をはじめ、人工衛星や探査機には「スター・トラッカー」という装置が搭載されている。スター・トラッカーは、目立つ恒星や星座をカメラで見て、星図と照らし合わせて、自分の位置を確認し、姿勢や位置を知ることができる。

しかし、探査機にとっては、写っているものが本当に恒星なのか、それとも恒星に見えるだけの別のものなのかを判別することができない。そのため、探査機の周囲に本来はあるはずのない破片が浮かんでいると、それを恒星と見間違い、正常な判断ができなくなる可能性がある。

ただ、前述のように、今のところエクソマーズ2016は順調に飛行している。また、破片は拡散し、遅かれ早かれ時間が経つにつれて探査機の周囲から離れていくため、誤作動する危険も徐々に下がっていくため、それほど大きな心配にはならないだろう。

ブリースMが火星に衝突し、火星の環境を汚染する可能性

ブリースM上段 (C) Khrunichev

組み立て中のエクソマーズ2016(左)とブリースM上段(右) (C) ESA - B. Bethge

おそらく最大の懸念は、ブリースMが火星に衝突し、地球の微生物が持ち込まれてしまう可能性である。

世界最大の宇宙科学の学会である宇宙空間研究連絡会議(COSPAR)では、火星に着陸することを目指した探査機は、地球の微生物などを持ち込まないよう、打ち上げ前に高温にさらしたり、紫外線を当てたりして滅菌処理すること、また着陸せず、火星の周囲を回る探査機の場合は、滅菌しなくてもよいものの、打ち上げから20年以内に火星に落下する確率を1%以下にすること、といったことが定められている。

ブリースMは探査機ではなくロケットだが、いったんは火星に向かう軌道には乗るため、このうちの後者に該当する。そのため火星に落下しないよう、前述のようにエクソマーズ2016を分離した後に、逆噴射を行って軌道を変えるはずだった。

しかし、それが行われていなければ、ブリースMは火星に落下する可能性がある。もちろんブリースMは滅菌処理されていないため、地球の微生物が持ち込まれる可能性もある。

将来、火星探査で微生物が発見されたとしても、それは火星で生まれたものではなく、ブリースMによって持ち込まれた地球の微生物だったということがあるかもしれない。

もちろん、そうなる可能性は限りなく小さい。そもそも火星に衝突しないかもしれない。またブリースMは火星までの道中で、真空と強い放射線にさらされ続け、火星の大気圏に突入した際には高温にもさらされる。落下時には強い衝撃もかかる。たとえブリースMが火星に落下したとしても、付着した微生物が生き延びられる可能性は小さい。

ただ、微生物の中には意外にタフなのもいる。かつて、減菌されていない無人の月探査機が月に着陸し、その約2年後にアポロ計画で部品を地球に持ち帰ったところ、その中で微生物が生き続けていたということもあった。COSPARのルールは、万が一にもこうしたタフな微生物を持ち込んで、その星を汚染しないようにという目的で定められている。


いったいブリースMに何が起きたのか、今となっては誰にもわからない。今の段階でエクソマーズ2016に何の問題も出ていないのは良いニューズである。しかし、実際に何が起きたのかという謎とともに、小さいながらも心配を伴いながら、エクソマーズ2016は火星に向けて航行を続けることになる。

宇宙を航行するエクソマーズ2016の想像図 (C) ESA/ATG medialab

火星に到着したエクソマーズ2016の想像図 (C) ESA/ATG medialab

【参考】

・Did the New Russia-Europe Mars Mission Narrowly Escape a Launch Disaster?
http://www.popularmechanics.com/space/rockets/a20044/exomars-narrow-escape-launch-disaster/
・Space in Images - 2016 - 03 - Spotted in space
http://www.esa.int/spaceinimages/Images/2016/03/Spotted_in_space
・ESA - Robotic Exploration of Mars: ESA PR 07-2016: ExoMars on its way to solve the Red Planet's mysteries
http://exploration.esa.int/mars/57619-exomars-on-its-way-to-solve-the-red-planets-mysteries/
・ExoMars launch updates / ExoMars / Space Science / Our Activities / ESA
http://www.esa.int/Our_Activities/Space_Science/ExoMars/ExoMars_launch_updates
・COSPAR PLANETARY PROTECTION POLICY
http://w.astro.berkeley.edu/~kalas/ethics/documents/environment/
COSPAR%20Planetary%20Protection%20Policy.pdf

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