3月26日、北海道新幹線の新青森=新函館北斗間がいよいよ開業する。2015年3月14日に開業した北陸新幹線は旅客流動を2倍に増やし、その一方で東京=富山/金沢間の航空需要に大きな影響を与えたが、北海道新幹線は本州=道南の交通をどのように変えていくのだろうか?

3月26日、北海道新幹線の新青森=新函館北斗間が開業となる

業界勢力図が大きく変わることはない?

新函館北斗までの新幹線は東京から1日10往復、他地点も含めると13往復が運行される。所要時間は4時間~4時間半だ。新幹線には「4時間の壁」と言われる、航空機とのすみ分けの境界線が存在する。運輸業界ではこれを超えると航空から旅客をシフトさせることは難しいとされており、函館はギリギリのところにあるわけだ。この「4時間の壁」を西に転じると、東京=広島がひとつの基軸となる。

函館市内へは新函館北斗から在来線の乗り継ぎを使わねばならず、新幹線の実質的な移動時間は4時間半~5時間になる。一方、航空の場合、東京駅から函館駅までは約3時間半~4時間(JR+モノレール40分、羽田移動・待ち時間40分、飛行時間1時間20分、函館空港移動・待ち時間50分)と1時間程度短い。運航便数は航空が1日8便、新幹線が10便とほぼ拮抗(きっこう)しているので、時間だけで見ると少しは新幹線も航空需要を摘み取ることができそうだ。

もうひとつの競争要素が運賃だが、北海道新幹線は青函トンネルの維持費などがあり、東京=函館間は2万2,690円に設定された。一方、航空側は3月現在の羽田=函館線を、JAL/ANAともに普通運賃3万7,890円、エア・ドゥは普通運賃3万1,590円に定めているが、1~3日前購入の割引運賃を使うと2万円前後となっている。事前に予定が立てられるなら、空港までのアクセス料金も踏まえても、運賃面では航空に軍配があがりそうだ。

これらを見ると、函館における「航空から新幹線へのシフト」は小さいものにとどまると考えるのが妥当だろう。北海道に就航するエアライン数社の路線担当の話を聞いても、異口同音に「北海道新幹線開業によって何か手を打つ、ということは考えていない」とのことだった。

羽田=函館間の飛行時間は1時間20分。それを踏まえて東京駅から函館駅までの時間を考えると約3時間半~4時間となる

「一度は乗ってみたい」に応える片道商品

しかし、旅行需要は所要時間と費用で自然に旅客数が決まるだけではなく、特に需要規模が幹線のように大きくない路線では、旅行会社の販売方針に左右される要素は少なくない。新規開業で最も旅行意欲を刺激され、「一度は乗ってみたい」「時間・費用に大差がなくなるなら試してみたい」という層は多くいるだろうから、旅行会社の商品設定も活発化する。

最も可能性のあるのは「片道は新幹線」という商品設定だ。実際3月4日には、JALとJR東日本が片道使い商品での販売提携を行うことが発表された。と言っても、当面は両社が空港・駅で優位を持つ青森・三沢と函館を組み合わせた東京向け商品が多いようだが、道南の人々にとっても、これまでなかなか行きにくかった日光など南関東への旅行も増えるきっかけになるのではないか。

夏のハイシーズンに向け、北海道新幹線は旅行会社にとっては格好の新商品として活用されるだろう。総需要のパイが拡大することで鉄道・航空双方にとってプラスの相乗効果がもたらされ、インバウンド旅客を含めた様々な魅力的ある旅行商品が開発されることに期待したい。

このため、新函館北斗までの新幹線開通はすぐには大きな旅客流動の変化はもたらさないと思われるが、新幹線が札幌まで開通すればいろいろな変化が起こりうる。ただし、実現は2030年とも言われているので、現時点ではなかなか考察がしにくいように思われるが、航空と鉄道(新幹線)の間にある旅客流動の「分担率」も踏まえて見てみたい。