2015年6月に、カシオ計算機の社長に樫尾和宏氏が就任してから、約9カ月が経過した。現会長の樫尾和雄氏から27年ぶりの社長交代。そして、創業メンバーである樫尾四兄弟から、新たな世代へとバトンが受け継がれた新体制でのスタート。樫尾和宏社長は「カシオファンの期待を超える、カシオらしいモノづくりを最も重視したい」と語る。

時計事業偏重の事業構造からの脱却に向けて、新規事業の創出は長期的なテーマ。新規事業に関する大きなトピックとして、樫尾和宏社長がコンセプトの段階から取り組んできたという、Smart Outdoor Watchが3月25日に発売されている。経営の観点からは、2017年度に売上高5,000億円、営業利益750億円の目標達成が、社長としての最初の指標となるだろう。今年50歳となった樫尾和宏社長は、どんな舵取りを行うのか。

―― 社長就任から約9カ月を経過しました。その間、どんなことに力を注いできましたか。

カシオ計算機 代表取締役 社長
樫尾和宏氏

樫尾氏「新たな経営基盤をいかに作るかが、いまのカシオ計算機に課せられた最大のテーマです。2017年度(2018年3月期)までの3カ年計画では、売上高5,000億円、営業利益は、2014年度の約2倍となる750億円を目指しています。

しかし、利益の大部分は時計事業によるものであり、時計以外の領域が、必ずしも軌道に乗り切れていないところがあります。時計以外の既存領域および新規領域を、いかに伸ばしていくか。そこに力を注ぐ必要があります。

これまでのカシオ計算機の成長は、いわば『カシオらしい』製品を世に送り出すことで成し遂げてきたことを振り返れば、新たな時代に向けて、カシオらしい製品を生み出していけるのか、ということも重要なポイントです。ただ、これらの取り組みは、9カ月間ですぐに結果が出るものではありませんから、その点では、まだ何もできていないというのが正直なところです(笑)」

―― 27年ぶりの社長交代は、社内ではどうとらえられましたか。

2018年度へ向けたカシオ計算機の新3カ年計画(2015年5月12日に行われた樫尾和宏社長の就任会見から)

樫尾氏「私が入社してから25年ですから、初めて社長交代を経験した社員も多いですね。ただ、27年ぶりの社長交代というよりも、57年間にわたる創業家による経営から、次の世代に変わったという点の方が大きいといえます。

私は最近、カシオらしい製品が出ていないということを感じていました。カシオファンをはじめとする社外からの強い期待を感じますし、社内においても、なんとかしなくてはならないという気持ちも感じます。カシオの製品を待っていただいている多くの方々から、『カシオらしい』といっていただくことが我々の目指す最大の資産であり、我々にとっては、最大の褒め言葉です。他社にはできない製品を作り、他社と同じものは作らない。それを実現する執念や、熱い思いを、カシオのエンジニアは持っています。

先ごろ発表したSmart Outdoor Watchや、セパレートスタイルのデジタルカメラ『EXILIM EX-FRシリーズ』、自分撮りの機能に優れ、中国市場などで人気の『EXILIM EX-TRシリーズ』なども、そうした製品だといえます。新たな世代へと変わったことで、私がきっかけとなって、より強い製品、よりカシオらしい製品が出せればいいと考えています」

―― 最近、カシオらしい製品が登場していない理由はなんでしょうか。

樫尾氏「カシオらしい製品とは、『オハイオ』という言葉で表現できます。おもしろいモノ、初めてのモノ、意味があるモノ、驚きのあるモノの頭文字を取ったものですが、これらのすべてが入っていないとカシオらしい製品とはいえません。

とくに、『意味がある』という点が重要だと考えています。我々が目指している最終的なゴールは、使っていただくことです。ユニークな製品というだけではカシオらしくありません。お客さまに対して新たな使い方を提案でき、そこにカシオファンが生まれたときに、初めてカシオらしい製品が提供できたといえます。

一見して目立たない機能でも、これがあるから使いやすいというのもカシオらしさのひとつです。カシオらしい製品とは、カシオファンと一緒になって作り上げるものであり、そのファンに対して、カシオは先回りして、期待を超える、新たなものを提案していく。その繰り返しが重要です。

ここ数年は、なにに使うのかがわからないままに、製品化していたものがあったように感じます。意味があるというところにまでたどりついていない、あるいは途中で諦めてしまった製品もあります。ヒットしていないということは、使っていただいていないということですから、そこに、カシオらしい製品が出せていないという反省点があるわけです。

たとえば、電子楽器のキーボードで採用した光ナビゲーション(編注:鍵盤が光って弾く順序を教えてくれる機能)は、ピアノやオルガンの学習をするにはいいのですが、あれだけでは、残念ながら初心者が手軽に弾けるようにはならないでしょう。光ナビゲーションをいまの時代に合ったやり方に進化させることが必要だと思います。本当に電子楽器が弾けて、誰でも気軽に音楽を楽しめるということができないか。そこに、カシオらしい挑戦があります。

カシオ計算機の社是である『創造 貢献』は、これまで世の中になかった新たなニーズを開発し、それを使ってもらい、それが文化になることで、社会貢献すること。そこに、本来の目的があります。売れることがゴールではありませんし、製品を作ることがゴールでもありません。そして、文化はブームではありません。文化として長く定着し、それを守ることが、カシオらしいということにつながります。

G-SHOCKはその典型といえる製品です。G-SHOCKは時計であって時計でない製品。市場動向に影響されない製品です。いま一度、カシオはどんな製品を出すべきなのか、カシオファンの期待を超えるモノづくりをしていくためにはどうするか、ということを再定義することも、私の役割だと考えています。ユーザーの視点やニーズをとらえた、カシオらしい製品を創出し続けるための新たな風土づくりにも取り組みたいと考えています」