リサイクルロボット「Liam」の衝撃

プライバシー保護の主張に続いて「環境」と「ヘルス」、2つのイニシアチブのアップデートを行った。この3つを続けたのは、おそらく意図的な演出である。環境とヘルス、2つの取り組みの具体的な成果が、プライバシー保護で挙げた「社会的責任」と「パーソナル・デバイス」の価値の説明になっているのだ。3つで全体の1/3近い時間になったが、見応えのある内容だった。トピックとしては地味なので、公開されているキーノートビデオを見た人の中には新製品が続々と登場した後半まで飛ばした人もいるかもしれないが、Appleに関心があるなら、今回のイベントで見るべき部分は最初の1/3である。

一昨年にAppleは、同社の世界中の施設の電力を再生可能エネルギーでまかなえるようにするという大胆な目標を掲げた。それから2年が経過し、すでに米国や中国など23カ国では100%再生可能エネルギーを実現しており、全体でも93%に達しているそうだ。データセンターは全て、太陽光や風力、水力などクリーンエネルギーのみで稼働している。森林資源の保護についても、Appleは再生紙または持続可能な森林からの資源で、パッケージに使用してる紙の99%をまかなっている。

ソーラーファームを置けない場所で、いかに100%再生可能エネルギーするか? 中国の四川省ではヤクの牧場を活用

地上を使えないシンガポールではビルの屋上を活用して100%再生可能エネルギーを達成

またリサイクルに関して「Liam」というR&Dプロジェクトを初公表した。Liamは、回収したiPhoneを分解し、材料をリサイクルできるように仕分けるロボットだ。リサイクルされた材料は現時点ではソーラーパネルの材料や工具などに使われているが、将来的には製品への利用を目指している。

1年間に120万台のiPhoneを分解・分類できるLiam

環境問題に配慮したリサイクルプログラム「Apple Renewプログラム」を用意

AppleはLiamがiPhoneを分解するビデオをYouTubeで公開しているので、ぜひともチェックしてみて欲しい。解体が難しいiPhoneを、実になめらかにバラバラにしてしまう。これだけ分解が上手ければ当然、組み立てもできるだろう、リサイクルだけではなく、中国の工場の労働環境など製造に関する問題を解決する取り組みも進んでいるんだろうなぁ……と想像が膨らむ。

Appleは1年前に、難病研究を支援するオープンソースソフトウェアフレームワーク「ResearchKit」を発表した。そのインパクトは大きく、ResearchKitを活用したパーキンソン病研究のネットワークは、24時間とかからずに過去最大規模に拡大した。また区別しにくかった2型糖尿病のサブタイプについても、豊富なデータから効果的な治療への道すじが開けようとしている。

難病研究において、ResearchKitによる研究は短期間にかつてない規模に広がっており、これまで不可能だった実態の解明や新たな発見に研究者を導いている

今年同社は「CareKit」を発表した。ResearchKitが医療研究用のデータ収集を目的としたiPhoneアプリを構築できるソフトウエアフレームワークであるのに対して、CareKitは患者のケアをサポートするiPhoneアプリの構築を可能にする。たとえば、健康管理プランの記録、症状や投薬治療の追跡といったことを簡単に行えるようになり、患者が自身の健康状態をより深く理解し、効果的な治療や健康管理に役立てられるようになる。

多くの病院では、手術後の患者が回復過程に一枚の説明書を渡されるだけで、十分にケアされないまま回復プログラムに取り組んでいる

CareKitを活用したTexas Medical Center(TMC)のアプリでは、CareCardを通じて患者がその日にやるべきことや注意事項を把握でき、モニタリング・データに基づいた回復プログラムを効率的にこなせる

モバイルデバイスメーカーやPCメーカーは環境保護に配慮するべきだが、100%再生可能エネルギーの実現にこだわり、リサイクルテクノロジの発展にまで多大な投資を行う必要はあるだろうか? 答えは「No」である。しかし、10億台以上ものデバイスが利用されているAppleが主導すれば、Apple製品の利用が環境保護を変える仕組みにつながり、いずれ社会を変えるきっかけになる。世界を良い方向に導く「社会的な責任」をAppleは負っている。

ReseaerchKitが難病研究の進歩を加速させられているのは、iPhoneがパーソナルなデバイスであるからだ。もしプライバシーが保護されていないデバイスであったら、研究に協力する人はずっと少なくなっていて、爆発的な研究データの増加は得られなかっただろう。Appleが暗号化やプライバシー保護を徹底している価値が、この1年間のResearchKitの成果に現れている。