既にAppleは、iPhoneの単価を高めていくという戦略に舵を切った。しかしその方針に置いて行かれているユーザーも存在する。1台のスマートフォンに600・900ドルを支払いたくない人々、そして大画面を好まない人々だ。

「iPhone SE」と呼ばれている新しい4インチのiPhoneは、こうした人々に向けられている。最新のiPhoneの性能を、小さな画面と手ごろな価格で提供しよう、というのだ。

以前に書いた通り、一度大画面を経験した人は、もう4インチには戻れないだろう。しかし、それが嫌でiPhone 5sを使っている人々に対しては、iPhoneプラットホームに引き留める役割を担うことになるだろう。

これなら、iPhone+iPadのスタイルを続けている人々にとっても、安くてコンパクトな電話と、きちんと作業ができる画面サイズのタブレット、という選択肢を安心して選ぶことができるようになる。

しかし、過去のiPhone+iPadでは、一度大画面を体験したユーザーを引き戻すには弱い。iPad側がより高い付加価値を持つようにならなければならない。そこで、「iPad Pro仕様の9.7インチタブレット」というキャラクターが威力を発揮するのだ。

PCの代替であることを明確に示すか

IDCの調査によると、2015年に日本国内において、通常のタブレット(タブレットスレート)の販売台数は709万台で前年比マイナス5.5%であったのに対し、キーボード着脱式のタブレット(デタッチャブルタブレット)は121万台で前年比80%増となっている。

それぞれのカテゴリを代表する製品は、iPadとSurfaceであったが、AppleもSmart Keyboardを組み合わせた12.9インチのiPad Proで、デタッチャブルタブレット市場に参入済みと見て構わないだろう。

デタッチャブルタブレットは、モバイル性に優れ、性能に対して価格が安く、キーボードによる入力環境が用意されている「PCの代替になり得る」タブレットと位置づけられる。

9.7インチのiPadが、デタッチャブルタブレットの市場に参入することは、iPadの修復を行う上で、有力な手立てとなるはずだ。MacとiPadを比較すると、専門的ではない作業ほど、iPadが有利になってきたという背景もある。

文書作成などはMicrosoft OfficeやAppleのPages/Keynote/Numbersが動作するため、ストレスなく問題なくこなすことができる。またMacではブラウザ経由でアクセスしているTwitterやFacebook、Instagramなどは、アプリがあるため、むしろiPadの方が快適に利用できる。

iOSがクラウドストレージをサポートするようになり、iCloudだけでなく、DropboxやOneDriveを用いたファイル管理や共有もこなせる。こうした環境整備から、「そろそろPCやMacの代替をiPadが担える」ようになってきた。

2016年春に実現する、iPhoneとiPadを持つスタイルは、3年前とは大きく異なるだろう。おそらく仕事をしようとなると、iPhone、iPadに加えて、PCやMacも持ち運んでいたのが3年前だとすれば、パソコンがなくても不便がない世界が現在、となるはずだ。

Appleが、小型のiPhoneと、デタッチャブルタブレットとしてのiPadをどのように売り込んでいくのかは、イベント以降の打ち出し方次第ではあるが、パソコンからの移行を促すと、面白いのではないだろうか。

松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura