集客戦略を立案する組織が不可欠

大学スポーツの観客層として思い浮かぶのは、出場校の在校生、卒業生、その親類縁者といった人々だが、興行としての成功を狙う場合、一般客をいかに呼び込むかが重要となる。知名度が高く、ブランド化している六大学野球、早慶戦、ラグビーの早明戦といったイベントでも、一般客を集めるための仕掛けが十分ではなかったという日本の大学スポーツ界だが、間野教授は「逆に(集客の)余地があるということ」との見方を示した。

「強くなければ(競技水準が高くなければ)人は観に来ない」と強調したアシックスの尾山氏。自社で保有するスポーツ工学研究所のノウハウや、選手の自主トレーニングに活用可能なアプリなど、早稲田大学の競技水準向上に活用可能なアシックスのリソースは多そうだ

スポーツイベントの集客は1大学(1チーム)単位で進めても効果が薄いので、「リーグ全体で集客していくという改革に取り組めるかどうかが重要になってくる」(間野教授)。複数の大学を巻き込んで集客戦略を練るためにも、大学スポーツを一元的に管理・統括する組織が日本でも必要となってきそうだ。

日本版NCAA設立の早道は

日本版NCAAのような組織については、間野教授も「あったらいいと思う」と必要性を認める。大学スポーツに関する既存の組織は、種目ごとに個別で活動してきた歴史があるため、合従連衡には困難が予想される。スポーツ庁が音頭をとるなど、明確な方針の下で新たな組織を作る流れに期待したいところだ。先行するアシックスと早稲田大学が中心となり、企業、大学、政府などを巻き込んでいくような方向性も考えられる。

大学スポーツが商業的な色彩を帯びることに対する社会の反応も気になるところだが、収益については「学生の奨学金に回したり、財政的に厳しいマイナースポーツの強化に使ったり」(間野教授)と様々な使途が考えられる。NCAAのような組織が日本にできた場合は、資金の流れを明確にし、大学スポーツに参加する人と観る人の双方が納得できる事業モデルを構築することが必要になるだろう。

大学スポーツの産業化に向けて種をまくなら、東京オリンピックの開催を控えた今は時期としても悪くなさそうに思える。先行するアシックスと早稲田大学の取り組みが、日本の大学スポーツ界を取り巻く環境をどのように変えていくかに注目したい。