「働く人の幸せを考えない企業に、持続的な成長はあり得ない」。社員とお客様をともに幸せにする経営改革、ソーシャルシフトを提唱しているループス・コミュニケーションズの斉藤さんに、読者のお悩みにアドバイスしていただきました。あなたが前向きな明日を踏み出せる一助となりますように。

<著者プロフィール>
斉藤徹
株式会社ループス・コミュニケーションズ代表。1985年、日本IBM株式会社入社。1991年2月、株式会社フレックスファームを創業。2005年7月、株式会社ループス・コミュニケーションズを創業し、ソーシャルメディアのビジネス活用に関するコンサルティング事業を幅広く展開。20年を超える起業家としての経験とビジネスに関する知見に基づき、ソーシャルシフトの提唱者として「透明な時代におけるビジネス改革」を企業に提言している。著書に『BEソーシャル社員と顧客に愛される5つのシフト』『ソーシャルシフト これからの企業にとって一番大切なこと』(日本経済新聞出版社)など多数。

寄せられたお悩み

突然、新設の部署に人事異動されました。自分では特に何かを期待されて配属されたとは思えず、ここにいるメンバーも事務的に振り分けられたように思われます。同期の社員たちが各自の持ち場で充実して仕事をしているのを見ると、なぜ自分だけこのような部署に配属されたのだろうか? 人事部門は何を考えて配置しているのか? そう考えると空しい気持ちになり、モチベーションが上がりません。

今の部署で楽しむ工夫を

会社に勤める人にとって、配属先はじつに重要な問題ですよね。「なぜこんな部署に配属されたのだろう」と悩みながら働いていても空しいだけし、仕事にも力が入らないでしょう。働き手からすると人生における大切な転機なのですが、経営視点から見ると配属先を振り分ける合理的な業務プロセスにすぎません。しかも「各部門の人材ニーズにいかに応えるか」を主眼としており、配属される本人にとっては寝耳に水のケースも少なくありません。

私も会社員時代、異動には何度も悩まされました。私の時代は大量採用の真っ盛り、同期入社が1,000人以上もいたので、配属は機械的にならざるを得ません。最初の配属は米国人が半分ぐらいの部署でした。英会話のできない私にとって会議など心細くて針のむしろです。その後、他部門に移って心機一転がんばろうと思った矢先に、今度は畑違いの新設部署へ……。活躍している同期を横目で見ながら焦りを感じたものでした。ですので、相談者の方の気持ちも痛いほどわかります。

気分が滅入ってやる気にならず、頭の中で嫌な思いが何度も繰り返されてしまう。そんな時には、私はいちど冷静になって「いったい自分は何に苦しんでいるんだろう」と自分の心のなかを観察してみるようにしています。例えばこのケースでは、こんな思いがうずまくのではないでしょうか

・なんで私がこの部署に配属されるんだろう
・がんばっていたのに私は評価されていなかったのか
・同期の充実した仕事ぶりがうらやましい
・未来に対する漠然とした不安もよぎる

このように、本来の意図と葛藤しあう雑念が頭の中を渦巻いてしまうことを「心理的エントロピー」と呼びます。心理的エントロピーが増大すると、心の中はどんどん無秩序になり、不安・嫉妬・怒り・恐れなどが増してゆきます。そして、これらの雑念こそ人間を不幸にする最大の元凶なのです。あなたの心を苦しめて生活のパフォーマンスを落とす、悪意に満ちた落書きのようなものです。

私は自分の心を観察した後には、大きな消しゴムを想像し、頭のなかからその落書きをゴシゴシと消してしまうことにしています。そうすると気持ちがすっきりしてきて、だんだんシンプルな現実が見えてくるでしょう。あなたは「新しい部門に配属された」だけなのです。

例えば、もしあなたが新入社員でれば、その配属先を違和感なく受け止めていたでしょう。むしろ、イチからスタートできる新設部門での仕事に、やる気を持って取り組んでいたのではないでしょうか。あなたを悩ませていたものは「配属そのもの」ではなく「配属に対するあなたの反応」にあったことがわかります。そしてあなたの反応は、あなただけが自由に決めることができます。あなたは、自分自身の幸せのために反応を選択できる権利を持っているのです。

そのことに気がつくと、気持ちが少し前向きになってきますね。では続いて、今の現実に対して「自分で変えられること」に集中してみましょう。会社の人事は自分では変えられないけれども、自分自身が幸せに仕事をするために、今の部署でどう楽しく過ごすかを考えてみるのもいいですね。

・イチから人間関係を築くチャンスなのだから、積極的に声をかけてみる
・配属になった人たちに興味とリスペクトを持って接してみる
・新しい仕事に興味を持ち、自分の新たな専門性をどう築くかを考えてみる
・前の部門の人たちとも交流を深め、両部門の橋渡しの役目を担う

人間の持つ心理に「返報性の原理」というものがあります。他人から何か施しを受けるとお返しをしなくちゃと思う心理のこと。あなたの好意がヒトに伝わると、そのヒトはあなたに好意を返すのです。あなたも、あなたに好意を持った人には好感を持ちますよね。新しい職場で好感をもたれたかったら、先手をとって相手に興味や好意を持って接してみたらいかがでしょう。それが新しい職場での人間関係の明るい第一歩となるといいですね。明日があなたに優しい一日になりますように!