ループを並べるタイプの音楽制作ツールは、他にも沢山あるんですけど、GarageBandはその精度の高さも特筆すべきだと思います。洗練された、使いやすい、見やすい、遊びやすい、クリエイテヴィティが湧くようなプラットフォームとしては、何よりも優れているのではないかと。

「Remix FX」は指先やApple Pencilを使って、効果の量などが調整できる。ジャイロセンサーを利用して、iPadを傾けてみても面白い

フィルタ、リピーター、エコー、レコードスクラッチなどの効果が得られるRemix FXはシアトリカルでありながら、これもまた「野生」を感じる機能です。ジャイロセンサーを利用して、iPad Proを傾けるとエフェクトの量が変わるなんていうアイディアは最高です。体の延長としてiPadを感じられるというか。MVでも僕がiPad Proを高く掲げて踊りながら操作しているカットを確認できますが、こんな風にフィジカルなコントロールができるのも大きな特徴です。皆さんも恐らく、同じような体験が得られると思いますが、興奮しすぎてiPad Proを投げ飛ばさないよう、くれぐれもご注意を!

シンセサイザーやピアノなどには約3オクターブ分の鍵盤が表示される

Apple Pencilを利用してドラムのパートを打ち込むのもおススメ

iPad Proでっていうことも指摘しておくと、まず、ユーザーインターフェイスが最適化されており、キーボードには約3オクターブ分の鍵盤が表示されるようになってます。それに、Live Loopsのグリッドではより多くのセルをタップことができます。個人的には、Apple Pencilを使って、Remix FXの効果の量を変化させてみたりとか、前回も紹介しましたが、ドラムのパートを打ち込むのに、スティックに見立てて画面を叩いてみたりするのがおススメです。Apple Pencilでは繊細なコントロールが可能で、微細な動きも捉えてくれるので、細かいニュアンスを表現するのに非常に向いています。そもそも、リアルタイムでこれだけの作業をさせるには相当なCPUのパワーが必要なはずなんですが、感度のよさ、レスポンスの早さも驚異的です。これはデスクトップクラスの64ビットアーキテクチャを搭載したA9Xチップに依るところが大きいのでしょう。

ユーザーインターフェイスからのビジュアルフィードバックも興味深いです。Remix FXを操作すると表示されるパーティクルのアニメーションは見ていてとても楽しいのですが、GarageBandをリアルタイムで操作しているところを大きなスクリーンに投影するといったパフォーマンスが生まれてきても不思議ではないですね。映像作家のSHOWMOVさんにも、ちょっとGarageBandを触ってもらったのですが、初めて使った感想として「どこにでも持って行けて、すぐカッコいい音楽が出てくるからワクワクする」というコメント頂きました。

SHOWMOVさんへのデータの受け渡しはAirDropで

タイトルにもなった"No Cables"というコンセプトですが、今回、データの受け渡しもAirDropで行っています。曲のデータを書き出して、SHOWMOVさんのiMovieで利用できる形式で受け渡します。1分くらいの曲なので、あっという間に転送が終わりますね。SHOWMOVさんがiPhone 6s Plusで撮った4Kの映像素材もAirDrop経由でiPad Proに流し込んでいます。4Kの素材がiMovieでそのまま利用できるのも便利とSHOWMOVさん。音も映像もシームレスに扱えるというのは大きなアドバンテージなのではないでしょうか。

今回の制作ではAirDropを利用しましたが、離れた場所に居る者同士だったらiCloudを使うのが良いです。これまた便利で、共有するのも簡単です。世界中どこでも誰とでも創作に取りかかれるってスゴいと思いません?

ケーブルをもし使うとしても、これからはLightningケーブル1本のみで、全てのデータを送出できるような状況も生まれてくるんじゃないでしょうか? フェスティバルの大きなステージで、這っているケーブルがLightningケーブル1本だけって、状況を想像するとちょっと面白くないですか?

映像の編集はSHOWMOVさんがiMovieで作業

映像のほうもサクサクiMovieで編集できます。ご覧頂いたとおり、その場で映像を取り込んでガンガン編集を進められるというのもiPad Pro+iMovieならではです。トランジションやフィルタも装備しているのはもちろん、iPhone 6sシリーズで撮った4K映像をすぐ編集できるので、これから映像制作をはじめたいという方にはとても良いアプリなのではないかと思います。ただ、歌っている口の動きと後から取り込んだオーディオの歌をあわせるという、いわゆる「リップシンク」を行うのは難しいです。iOS版のiMovieではフレーム単位(詳細は省きますが1/30秒と思ってください)での編集はできないので、どちらかというと、ざっくりしたイメージ中心の映像制作向きかもしれません(SHOWMOVさん談)。

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いかがだったでしょうか? 本プロジェクト、ケーブル無しにして、予算も無し、制作期間も殆ど無しの状態で進めてきました。無い無いづくしでも、これくらいまでは追い込めるので、皆さんも是非トライしてみてください。iPad ProでなくてもiPad Air 2やiPad mini 4などのiPadファミリーでも同じことができるので、この春から何か新しいことを始めたいと考えてらっしゃる皆さんに、強力にプッシュしたいですね!!

小川翔平(おがわ・しょうへい) a.k.a. SHOWMOV
1988年広島県福山市生まれ。16歳でダンスをはじめ18歳から渋谷のCLUBに拠点を移し、22歳までの6年間ダンサーとして活動。
23歳から独学で映像制作に取り掛かり、"SHOWMOV"(ショウモブ)としてキャリアをスタート。映像に関しては、興味があることや楽しい事は何でもするというチャレンジ精神の持ち主でもある。
現在はミュージックビデオや動画公告の制作などディレクターとして幅広く活躍中。ダンスを通じて得た"動きで感情を表現する"作風を身上としている。
2015年に株式会社SHOWMOVを設立。主なクライアントは「UNIVERSAL MUSIC」「avex」「BEAST MUSIC」「CyberAgent」など。
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Jeff Miyahara(じぇふ・みやはら)
1977年ロサンゼルス生まれ。日本と韓国のハーフという多文化・多言語的なバックグラウンドを持つ。少女時代、東方神起、SOL(BIGBANG)、シェネル、Boyz II Menなど海外アーティストの作品を手がけつつ、日本では SMAP, JUJU, J-Soul Brothers, 西野カナ、安室奈美恵、山下智久、ONE OK ROCK等の数多くのアーティストのプロデュース/クリエーションに携わる。
2013年にはクリス・ハートを新人発掘、初アルバム「HeartSong」はロングセラー作品となり、「第55回日本レコード大賞 企画賞」を受賞している。
アップルに関する知識、造詣も深く、Macintosh 512Kを手にして以来、さまざまなアップル製品を使用しており、サウンドプロダクトの現場でもMac ProやMacBook Proなどを広く活用している。
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