【レポート】

日本人ほど一緒に働きやすい人はいない - 日本で飲食チェーンを経営するスリランカ人の働き方

 

実業家の家庭に生まれ、何人もの親族が海外で起業する姿を見てきたというアリさん。そんな彼が選んだビジネスフィールドは日本でした。親戚が経営する会社で実績を残すだけでは満足せず「いつかは自分でビジネスを」と夢見ていた彼が成長分野として目を付けたのが日本のハラル市場。世界を股にかけ活躍する国際ビジネスマンが語った、日本初のハラル専門飲食チェーン開業秘話とは?

アリさん/スリランカ出身、横浜在住/ハラルチェーン店 MFM日本代表/30歳

■これまでのキャリアと今の仕事について教えてください

スリランカの首都コロンボで高校卒業まで過ごし、その後日本に渡りました。実家は企業家の家庭で、おじが1997年から日本で中古車の輸出を行う「神戸モーター」という会社を経営していたこともあり、何度か休暇で訪れた日本に良い印象を持っていたんです。2005年から東京・麻布にあるテンプル大学でビジネスマネジメントを専攻すると同時に、おじの会社を手伝い始めました。

神戸モーターは、日本で仕入れた中古車を海外へ輸出しています。大学在学中から同社の業務を手伝い、卒業後は幹部として働いていますが、特に思い出に残っているのは大学4年生の時に担当した新規国参入ですね。学校では卒業に向け授業やレポート作成に励み、帰宅後、夜も更けてからバングラデシュの市場リサーチという生活。時には授業中にビジネスの電話がかかってくることもあり大変でしたが、非常にやりがいもありました。その後も仕事は順調でしたが、いつか自分自身でビジネスを立ち上げたいという思いはずっと持っていたんです。

そんな折、2014年にニュージーランドのオークランドへ中古車市場調査に行った際に、ハラル専門のマクドナルドの存在を知ったのです。ハラルとは、ムスリム(イスラム教徒)の戒律で「許された」「合法な」という意味を持つ、主に食に関する基準。一般的には豚肉、酒がNGと知られていますが他にも細かい規定があり、ムスリムにとって「ハラル対応店であるか否か」も食事をする上で重要な要素なのです。私自身がムスリムで、日本で食事する際に非常に不便を感じていたので「日本で新たにビジネスをするならこれだ!」と直観的に思ったんです。世界展開しているファストフード店数社に日本でのハラル店開業に向けオファーを出し、先方に興味も持ってもらえましたが、まだムスリム人口・需要が少なすぎるという理由で、実現には時間がかかりそうでした。

つまずきかけていた時、マレーシアに本拠地を持つハラル専門飲食チェーン「マンハッタン・フィッシュ・マーケット(MFM)」を友人がスリランカで開店したことを思い出したんです。すぐにシンガポールにあるMFMのヘッドオフィスに電話し、こちらの考えを伝えました。先方も乗り気で「電話だけでは私たちの良さを伝えきれない。こちらに視察に来ないか?」とトントン拍子で話が進み、その週末にはシンガポールへ飛んでいました。それが2014年6月のことでした。

在住ムスリムや旅行者だけでなく、日本人にも人気のMFM池袋店

■日本で初のハラルチェーン店、立ち上げに当たり苦労はありましたか?

シンガポールでMFM側に話をすると私たちの情熱が伝わり、すぐに日本進出プロジェクトが動き出しました。MFMはチェーン展開している国も数も、今までオファーしていたチェーン店よりは少なかったこともあり、堅苦しいルールが少なく、とてもフレンドリーでやりやすく、そういう意味では苦労はなかったですね。

ただ契約書にサインした瞬間に、「自分たちは日本国内でのビジネス経験がほとんどない」ということに気付いたんです(笑)。そこからは本当に大変でした!

飲食店経営の経験もないので、何から手をつけたらいいのか分からない。とにかく「英語が話せて飲食の知識もある優秀な日本人を探さなければ!」と思い、外国人が行きそうなレストランに客として赴き、気に入ったマネジャーに「こういう店を始めるつもりだが、うちにこないか?」とまさに体当たりで直談判。8月にやっと現池袋店の店長を務める藤原に出会うことができました。

10月には藤原や私を含め、4人でMFM運営のイロハを学ぶためマレーシアに研修へ。研修は通常6週間ですが、私は物件探しや工事契約などの業務が残っていたため2週間で日本へ戻り、マレーシアに残ったスタッフは現地での研修を終えた後に、日本に居る私とメールや電話で新店舗のレイアウト案など詳細をつめました。全てが同時並行で進んでおり、明け方4時頃までメールをしているという日もざらでした。

また日本では、まだまだハラル食材を手に入れることが難しくい上に、日本の税関ルールは厳しいので、食材の調達にも非常に苦労しました。結局、開店の2週間前にMFMのヘッドシェフが来日し、日本で手に入る食材でレシピを作りなおすなどして、2015年3月に何とか開店までこぎつけました。

■現在のお給料はどうですか?

ファミリービジネス以外の経験がないので、比べることは難しいですが、お陰様でMFMと同時進行で行っている輸入車ビジネスも好調なので、頂いている給料には満足しています。

■今の仕事で気に入っているところ、満足を感じる瞬間は?

3月23日に日本初のハラル専門チェーン店としてMFMが池袋にオープンした時は、やはり感激しましたね。オープンはMFMのヘッドオフィスへ日本から電話をした日から、たった半年後のことだったので、この期間は目の回るような忙しさでしたが、当日の充実感でその疲れは吹っ飛びました。

そして在住・訪日ムスリムの方々から「安心して食事をすることができる数少ない場所だ」と感謝していただけるのも、とてもありがたいです。今まで日本はなかった価値を新たに紹介でき、日本政府にも少なからずハラルの知識を提供できたのではないかと思っています。

■逆に今の仕事で大変なこと、嫌な点は?

私自身の問題なのですが、日本語ができないことです。もちろん日本語へ訳してくれる優秀なスタッフは沢山いるのですが、実際にビジネス交渉する時に、直接自分の言葉で100%自分の思いを話すことができないということにストレスを感じます。やはり、通訳を通してはパッションが伝わりにくいと思うんです。MFMを広めてゆくためには、これから私が頑張って日本語を勉強しなければなりませんね(笑)。

■日本人のイメージは? あるいは理解しがたいところなどありますか?

日本人は指示したことは必ず行うし、プロ意識も高く、会社やプロジェクトへの忠誠心も高いですね。こんなに働きやすい人たちには、他の国では会ったことがありません。日本に進出する企業にとって、そういう意味で人の問題は皆無と言って良いと思いますし、これは日本が世界に向けて発信できる武器だと思っています。

逆に悪い点を挙げさせていただくとすれば、ルールや既成概念に捉われすぎてフレキシブルに考えられないことでしょうか。ビジネスでは常に相手の要望を聞き、お互いにとって最善の方法を提案してゆくことが求められると思いますし、タイミングも重要です。日本人は「ルールなので出来ません」「確認しないとできません」とよく口にするので、せっかくのチャンスを逃していると感じてしまいます。あまりルールばかりを口にするので、他国の投資家が「それなら他を当たるよ」と思って他のアジア諸国へ逃げてしまうのは、もったいないことだと思っています。

■最近TVやラジオ、新聞などで見た・聞いた日本のニュースは何ですか?

いつも気にしているニュースは2つ。1つは外国為替相場です。最近の円安はMFMに関係するインバウンドという意味ではありがたい側面もありますが、神戸モーターが行う中古車の輸出では打撃ですね。

もう1つはオリンピック関連のニュースです。世界中の人々が訪れる五輪開催に向け、日本政府も空港や駅などの公共施設にムスリム用の祈りスペースを整備するなど対応に追われています。オリンピックを機に、ハラル文化も広まるでしょうから、MFMにとって追い風です。

世界を股にかけて活躍する彼にとって、ラップトップは手放せないマストアイテム

■あなたの「マストビジネスアイテム」を教えてください。

ラップトップですね。データも全て入っているので、なくなると本当に大変です。神戸モーターの仕事では、出張で頻繁に海外を行き来します。ラップトップとネット環境さえあれば、どこに居ても日本に居るのと変わらない環境で仕事をすることができる時代なので、ありがたいですね。

■休日の過ごし方を教えてください

週末は家族と一緒に過ごします。妻はスリランカ人ですが、今は1歳の息子と3人で横浜に住んでいるんです。息子と一緒に公園で遊んだり、お台場など都内の観光地に遊びに行ったりと、異国にありながら心落ち着ける貴重な時間です。プライベートで池袋のMFMに食事に行くこともありますよ。

■将来の仕事や生活の展望は?

ハラル文化と共に、MFMを日本に根付かせたいですね。今後は郊外のショッピングモールなどへの展開も考えており、既に大手小売りチェーンと2号店オープンに向け具体的に話を進めています。ハラルではアルコールがNGなので、夜の営業が難しいという側面があるのですが、車で訪れるモールではお酒を飲まないシチュエーションも多く、店にもお客様にもメリットがあると考えています。MFMをチェーンブランドとしてしっかり育ててゆくことで、日本でムスリム文化・ハラル食に関する知識を広げ、ハラル旅行者や在日ムスリムがより快適に日本滞在を楽しめる一助となれば最高です。

週末は家族とゆっくり過ごす

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