【レポート】

世界最高の衝突性能を目指す加速器「SuperKEKB」が始動 - 宇宙誕生の謎の解明なるか

 

高エネルギー加速器研究機構(KEK)は3月2日、つくばキャンパス(茨城県つくば市)に建設した電子・陽電子衝突型加速器「SuperKEKB」が試験運転を開始し、ビームの周回と蓄積に成功したと発表した。今後、さらに調整を進め、早ければ2017年末にも電子ビームと陽電子ビームの衝突を実施。2018年秋頃より本格的な実験を開始する見込みだ。

SuperKEKBの全体図(画像提供:KEK)

SuperKEKBは、1周3kmという大きな2本の真空リングの中で電子と陽電子を周回させ、それを衝突させる装置。陽電子は電子の反粒子なので、衝突すると対消滅し、このとき、B中間子と反B中間子を生成する(そのため"Bファクトリー"とも呼ばれる)。この中間子が崩壊する様子を詳しく調べることで、宇宙誕生の謎の解明に挑む。

KEKではこれまで、SuperKEKBの前身となる加速器「KEKB」を使った衝突実験が行われてきた。KEKBは1999年に衝突実験を開始。B中間子と反B中間子の性質の違い(CP対称性の破れ)を観測し、いわゆる「小林・益川理論」の正しさを証明、両氏のノーベル物理学賞の受賞(2008年)に貢献した。

衝突型加速器の性能を表す指標の1つとして「ルミノシティ」がある。ルミノシティは衝突の頻度を表す数字で、ルミノシティが高いほど、たくさんの衝突が起こるということになる。KEKBは2001年に、世界最高のルミノシティを実現していた。

従来のKEKB。SuperKEKBと同じく、電子・陽電子衝突型の加速器だった

重要なキーワードは「ルミノシティ」。これで衝突回数が決まる

現在、素粒子物理学の世界では、これまでの標準理論を超える"新しい物理法則"を発見しようと、研究が進められている。そのためには、標準理論から予想される結果と、実際の測定結果との間の僅かな差を見つける必要があり、これには大量の衝突反応のデータが必要となる。KEKBといえども、全く性能が足りなかったという。

そこで、KEKはSuperKEKBへのアップグレードを決定。2010年6月にKEKBの運転を終了し、2010年より、SuperKEKBの建設に着手していた。この強化により、ルミノシティは40倍。稼働後数年をかけて、得られるデータ量は50倍となる見込みだ。測定器も、より高性能な「Belle II」に更新する。建設の費用は314億円。

注目する事象はめったに起きないため、大量の衝突データが必要

ルミノシティの世界トレンド。大体10年で10倍になっているという

この高いルミノシティを実現するため、考えられる方法は「ビームサイズを小さくすること」と「ビーム電流を大きくすること」の2つだ。

SuperKEKBの2本のリング(電子リング/陽電子リング)の中では、それぞれ、ほぼ光速の電子と陽電子の塊(バンチ)が逆向きに周回。2本のリングは衝突点でX字型に交差しており、ここで衝突が起きるはずなのだが、問題は、電子も陽電子も極めて小さいため、ほとんどが衝突せず、素通りしてしまうということ。

衝突を増やすためには、電子/陽電子の密度を高くするか、電子/陽電子の数を増やすしかない。SuperKEKBでは、この両方を改良。KEKBに対し、衝突点におけるビームサイズを1/20に絞り込み(密度が20倍)、ビーム電流を2倍に高めることで(数が2倍)、合計40倍というルミノシティを実現しようというわけだ。

リング内の様子。1m間隔で電子/陽電子の塊が周回している

ルミノシティを高める方法。電子/陽電子の密度と数を上げる

また、SuperKEKBでは世界で初めて、「ナノビーム大角度交差衝突方式」と呼ばれる新方式を導入した。SuperKEKBは周回するビームサイズを小さくした上で、衝突点でさらに小さく絞っているが、どうしても衝突点の両側でビームが膨らんでしまう。両端が膨れる形から、これを「砂時計効果」と呼ぶ。

正面衝突に近いと、衝突点の中心からずれた場所でも衝突が起こってしまうが、精密な測定のためには、なるべく狭い範囲で衝突が起きて欲しい。離れた場所で起きた衝突は、逆に測定に悪影響を与えてしまう。だが、2つのビームを大きな角度で交差させれば、砂時計効果があっても、衝突範囲を限定できる。これが新方式のメリットだ。

衝突点でビームをさらに絞るが、砂時計のように両端で膨らむ

衝突範囲を限定するため、ビームを大きな角度(約5度)で交差させる

現在のSuperKEKBはまだフルスペックではなく、今後、段階的に整備を進める。まず2016年6月までのフェーズ1運転では、安定してビームを蓄積できるよう調整。その後、1年ほど運転を中断し、Belle II測定器を衝突点に導入する。また、衝突点でビームを絞るための超伝導電磁石の設置も行う。

公開された「Belle II」測定器。まるでビルの工事現場のようだ

奥のコンクリートの中に電子リング/陽電子リングが入っている

Belle IIは巨大な測定器。サイズは8m立方で、重さは1,400トン

隣にある「エレキハット」という設備で、観測データを読み込む

導入時には、この穴の中心が衝突点となる。中心部の検出器は未設置

円筒形の超伝導ソレノイド電磁石により、内部に強力な磁場を作る

2017年秋よりフェーズ2運転を開始。Belle IIにはまだ一部の検出器が未設置であるものの、衝突実験を開始し、観測データの取得を開始する。半年ほど運転した後、再び停止し、もっともデリケートな検出器をBelle IIに設置。2018年秋より、本運用となるフェーズ3運転を開始する計画だ。

KEK加速器研究施設の赤井和憲教授によれば、「KEKBも設計ルミノシティに到達するには数年かかっており、SuperKEKBのチューニングもある程度の期間が必要」だという。新技術を導入したこともあり、様々な困難も予想されるが、順調にいけば、目標のデータ量には2024年ころ到達する見込み。

KEK素粒子原子核研究所の後田裕教授は、「ビームを継続的に周回できたのは重要なマイルストーン。Belle IIを導入して実験するのを心待ちにしている」とコメント。「すぐに目標通りの性能が出るわけでは無いが、その間もデータを取り続ける。解析で何か見つかればすぐに報告したい」とし、成果に期待した。

KEK加速器研究施設の赤井和憲教授

KEK素粒子原子核研究所の後田裕教授

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