ドコモの強みをパートナーに還元

農業ICTに参入しているIT企業はほかにもあるが、ドコモの強みのひとつとして、上原氏はやはり無線インフラの存在を挙げる。

「たとえば広大な露地栽培で、電気も通っていないため、現地には無線技術でしかリーチできないでしょう。またドコモでは畜産(肉牛)向けのICTサービスも販売していますが、対象が生き物なだけに動いてしまうため、これも無線でしか対応できません。大きなハウスや植物工場、果樹園でも、有線を引き込めない場所もあります。ドコモは日本全国の人口をカバーするネットワークを持っていますから、どんなところにも対応できます」

【事例1】稲作農業における生産性の向上等を目指した取り組みを新潟市、ドコモ、べジタリア、ウォーターセルの4社共同で実施。水田に通信モジュール搭載のセンサを設置し、水位・温度・外気温・湿度を管理。べジタリアの専用アプリからこれらのデータを確認、農業従事者の負担を軽減できる。写真は同プロジェクトにおける通信モジュールとセンサ。ドコモは同プロジェクトを主導し、通信インフラを提供、販売面でも支援する(画像提供:NTTドコモ)

【事例2】活用事例は稲作農業だけにとどまらない。多数の圃場を所有する農業従事者の作業効率の向上も見込むことができる。本事例においてもドコモは通信インフラ、販売面で支援する

【事例3】牛の分娩事故は畜産農家に大きなダメージとなる。リモートが提供するサービス「モバイル牛温恵」は分娩の細かな経過や発情の兆候を検知してメールで通知。この通信部分、販売面でドコモが関わる(図版提供:NTTドコモ)

店舗ネットワークも重要な存在

ドコモが全国に展開する支社・支店の営業ネットワークも重要な存在だ。家族単位のクローズドな規模のビジネスが多い農業に対して、携帯販売の既存の顧客に対しては営業担当者が直接農家を訪問してサポートもできる。ドコモでは、全国の支社・支店を横断し、女性社員が独自に「アグリガール」というプロジェクトを作って農業ICTの普及に力を入れており、独立系パートナーにとってはこうした巨大なバックアップ体制も魅力に映るだろう。「今は生産支援ICTに力を入れていますが、さらに決済手段や流通までもお手伝いできるのがドコモの強みです。簡単に実現できるとは思っていませんが、得意な領域であればなんでもやっていきたいですね」。

「+d」ではドコモ自身が提供するサービスもあるが、特に生産支援系の製品については、独立系ベンダーが開発したICTパッケージに対し、ドコモが様々な形で支援する方向となっている。こうしたノウハウについてはベンダーのほうが詳しいため、餅は餅屋というわけだ。