Apple Music経由での再生が増えたことも理由ではあるが、Macのハードディスクに音楽ファイルそのものが入っていないからといって、普段の音楽聴取体験に特段不便も変化もない。それだけ、音楽を聴く環境が、Wi-Fiやセルラーなどでインターネットにつながっている環境だということだ。

iCloudミュージックライブラリでは、Macから音楽ファイルを削除できる点に加えて、iPhoneからでも、Apple Music以外の音楽ライブラリにアクセス出来ることがメリットだ。Macに接続しなくても、1曲単位で必要な楽曲をダウンロードして、オフラインで聴くことができる。

Appleは、iTunes Storeで、「音楽を購入する」という行為を、「音楽を聴く『権利』の購入」という形に変えてくれたように思う。しかしApple Musicとそれに付随してくるiCloudミュージックライブラリによって、「音楽を聴く権利をモバイル化した」と表現できるだろう。

SpotifyやPandoraなど、始めからストリーミング主体でサービスを展開してきた企業にとっては、音楽のモバイル化は当たり前の話と考えているだろう。ユーザーにとっては、PCでもスマートフォンのアプリでも良いので、とにかくネットにつながって、サービスから音楽を流してくればよいだけだからだ。つまり、これらのサービスにおいては、はじめから音楽はモバイル化されていたのだ。

しかしAppleには、iTunesユーザーや、iTunes Storeユーザーがおり、彼らは自分で音楽を所有してきた。そして、iPodやiPhoneに同期して、楽しんできた。こうしたユーザーに対して音楽をモバイル化するために、Appleは様々な手順を踏んでいく必要があった 。 iTunes Radioでストリーミング音楽を試しつつ、Appleにとって重要だったのは、iTunes Matchだと感じた。このサービスで、iTunes Storeのカタログを活用し、膨大なiTunesユーザーの音楽をクラウドへ持ち込むテストをしてきたといえる。

Apple Musicは、購読型ストリーミングサービスの部分がよりフォーカスされるが、Appleにとって力を入れているのは、Apple Musicの1つの機能であるiCloudミュージックライブラリの方だろう。これにより、ユーザーが所有している音楽をモバイル化することができ、Apple Musicを受け入れてもらうだけの素地を作ることを実現したのだ。

松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura