スペイン・バルセロナで2月25日まで開催されていた「Mobile World Congress 2016」では、「IoT」が大きなテーマの1つとなった。

IoT向けのLTE規格「NB-IoT」などの標準化も始まり、高速・低遅延などの要素を持つ5Gが登場すると、人だけではなく、"人とモノのためのネットワーク時代"が本格化する。通信インフラ大手のEricssonは「通信事業者にとってIoTは大きなチャンス」と喧伝する。今回、同社のクラウドとIP部門でIoTを担当するBo Ribbing氏に話を聞いた。

M2MとIoTの違いは?

EricssonでクラウドとIP部門DCP担当営業開発トップのBo Ribbing氏

――企業における導入など、IoTの現状について教えてほしい。

IoTは社会と企業、人々の生活を変える大きなチャンスとなる。企業であればプロセスの効率化によるコスト削減だけでなく、新しいサービスを創出することで収益増が見込める。

IoTの前提は"接続性"だ。IoTアプリケーションや端末、業界全体の共通土台となる重要な要素となる。われわれは、IoT接続のデバイスの数が現在の50億台から、2021年に150億台まで増加すると予想している。

ただ、IoTのコンセプト自体は「M2M(マシン間通信)」などとして20年ほど前から存在する。これまでは火災報知器やスマートメーターなどから小容量のデータが送られているにすぎなかったが、現在は、デバイスから送信されるデータ量が大きくなっている。

デバイスメーカーは自社製品をネット接続に対応することで、「さらなるバリューが得られる」ことにに気づき始めている。ネットワークが"ユビキタス"になったこともあり、「もっとデータをやり取りしよう」という方向にある。家庭用のアラームであれば、これまでは警告を発信するだけだったものが、「何が起きたのか」ということまでわかりやすくなる。例えば、「現場の様子の写真も一緒に送る」といった用途がある。また、自動車分野においても活用が進んでおり、インフォテインメント(Information<情報>とEntertainment<娯楽>の造語)などに関連したトラフィックが増えている。

――IoT分野におけるEricssonの戦略は?

(顧客である)通信事業者と一緒になって、IoTの潜在能力とメリットを企業や社会にアピールし、提供していく。われわれは"通信"と"接続"のプロであり、いいポジションにいると思っている。

製品としては、2011年より「Device Connection Platform(DCP)」を提供しており、すでに20社以上が利用している。買収したTelenor Connexionの技術を土台としているが、重要な特徴が"クラウド"、つまり"as a Service"として提供している点だ。クラウドにして、オペレーターと提携して各社のネットワークをアグリゲーションしている。これにより、グローバルに展開する製造業は、世界中でサービスを利用できる。

このように、クラウドでIoTプラットフォームを提供する企業はEricssonとJasper Wireless(Cisco Systems傘下)ぐらいだろう。機能としては、加入管理や課金、ポリシー管理、プロビジョニング、オーダー管理、接続モニタリング、デバイス管理など、必要なものを一通りそろえている。

Jasperとの大きな違いは、Ericssonのコアネットワークを統合している点で、加入管理などのBSS(Business Support System)だけでなく、コアネットワークも備える。

――DCPでは、国際ローミングはどのように提供されるのか?

IoTサービスはコンシューマー向けのサービスとは異なり、BtoBのボリューム契約となるため、通常はグローバルローミング・モデルで契約する。つまり、1個のSIMにより、世界中でサービスを利用できる。

だが、先述のようにIoTでのデータ容量が増えているため、ローカルのネットワークサービスを契約するほうがメリットを生む例も出てきている。また、国によっては特定のデバイスに対し、自国のSIM利用を義務付けているとこともある。この問題を解決するのが「eSIM」だ。リプログラマブルなSIMカードで、工場で製品を製造する際にeSIMを入れておけば、どの地域に出荷してもネットワーク上でプログラミングが可能だ。この機能は2016年中に一部で提供を開始し、2017年に拡大する予定だ。

SIMを管理できるポータル。現在契約中の通信事業者、利用状況が表示されている

――IoTではどの業界にフォーカスしているのか?

自動車や運輸・物流、ITS、公共事業(電気、水、ガスなど)、公共安全や国家保安、メディアの6業界で、コラボレーションを進めている。

――IT側の統合なしにはIoTのメリットが得られない。ここでの取り組みは?

ネットワークの機能をAPIの形でエクスポーズしている。企業はAPIを経由して、SIMカードやデバイスのアクティベーションやデアクティベーションが可能になる。

これは接続に関する話だが、ITの課題の多くはプロセスに関するものだ。デバイスがネットワークにつながると、プロセスを変化させる必要がある。最終的にはIoTによりコストを削減したり、新しいサービスを立ち上げたりしたいはずだ。

そこで、EricssonはMWCで「IoT Transformation」をロンチした。サービス側の機能を利用して、企業がITをベースにオペレーション変革を支援するというものだ。われわれには変革を実現する技術があり、企業の変革を支援できる。

――IoTは無線技術と通信インフラが主体であるEricssonの事業にどのような影響を与えるのか?

会期中はAmazon Web Services (AWS)との提携を発表しており、ITベンダーとの協業も重要になってくる。

IoTは2つの点で、われわれの事業に影響を与える。

1つ目は「通信事業者との関係性」だ。通信事業者はこれまでコンシューマーをメインターゲットに据えていたが、法人市場も無視できない状況にある。接続性をマネタイズにつなげるという観点から、変革期にある通信事業者をサポートする。

2つ目は、(通信事業者を挟まない)企業との関係性の構築。ケースによっては、通信事業者よりもEricssonのほうが企業の求める機能を持っていることがあると思う。

通信事業者はネットワークの運用と接続性の提供ではプロだが、EricssonはIT領域で提供できるものを多数そろえており、継続して強化を進めている。接続の部分だけではなく、IT、プロセスでも支援できる。ここは、われわれにとって新しいビジネスとなる。