KDDI研究所は2月25日、災害などで孤立してしまった地域で安否連絡するための実証実験に成功したと発表した。

この実証実験は、同研究所が総務省より受託した「無人航空機を活用した無線中継システムと地上ネットワークとの連携及び共用技術の研究開発」の一環で行われた。"無人航空機"は固定翼機と、いわゆる"ドローン"などの回転翼型のマルチコプターを指し、報道陣向けに行われた実験では、後者のドローンを利用した。

安否連絡は、孤立地域に残るユーザーのスマートフォンからEメールを送信することで行う。孤立地域では、通信環境が途絶される恐れがあるため、無人航空機によって、Eメールデータを蓄積し、ネット環境のある遠隔地で蓄積したデータを送信することで、孤立者が送信したい相手に安否を知らせることが可能になる。

通信が途絶したからといっても、すぐに通信環境を復旧できるわけではないため、こうした取り組みが必要となる

Eメールはメールデータをサーバーからサーバーへ受け渡すため、一旦無人航空機内に保管できることから、こうした仕組みが可能となっている

スマートフォンでは、ネットに接続していることを前提としたメールアプリが動作しているため、通信途絶地域では、そのままメールを送信することができない。そこで同研究所では、自治体などに配置することを想定した「メッセージ保管装置」を用意。この装置では、通信環境がない場所でもメールサーバーとして機能する小型サーバーによって、ドローンが到着するまでメッセージを保管する。また、このサーバーは、通常のメールは送信できない環境でもメールを送信できるよう、専用のメールアプリを用意しており、独自のメールアドレスを付与する。Androidの場合はapkファイルを、iOSの場合はプロファイルを配信することで、それぞれ利用できるようになる。

報道陣向け実証実験ではマルチコプターが用意された

地上のメッセージ保管装置。ドローンが到着するまで、各自のスマートフォンにアプリをダウンロードし、メッセージを小型サーバーに送信して保管する

専用アプリを利用する以外は、通常のメールと同じ操作を行う

無人航空機がサーバーに接続された通信装置上空に到達すると、自動的にデータを送信する。通信にはWi-Fiを利用しており、上空およそ150mの無人航空機までデータの送信が可能となる。通常のWi-Fi運用では、1カ所のアクセスポイントの周囲で利用するため、指向性アンテナを活用するケースは少ないが、この実験では上空の限定された方向に電波を飛ばすため、特別に指向性をもたせたアンテナを製作した(放射角は45度)。

説明を行ったKDDI研究所 執行役員でアクセスネットワーク部門長の竹内 和則氏によると、報道陣向けに行われた実証実験こそドローンであったため、「アンテナ真上でホバリングできる」ことから、安定して通信できるものの、遠距離飛行などを想定した固定翼機の場合、滞空するためには旋回行動をとらねばならず、半径150mをぐるぐる回り続ける必要がある。そのため、指向性アンテナによって、電波強度を保ちつつ、放射角を定めることで、安定した通信を確保したのだという。

上空でホバリングするマルチコプター

ドローン下部にアンテナと、メール保管サーバーが備え付けられている

なお、無人航空機によって収集されたメールは、孤立者が送信する一般のメールアドレスに送信されるため、受信者側が特別な設定を行う必要がない。無人航空機が、受信側の「メッセージゲートウェイ」が設置してある場所に到達することで、自動的に配信が行われる。このメールを受信した連絡相手が返信する場合には、送信者に割り当てられたメールアドレスに返信するだけで、再びドローンが孤立地域に向かうことで、そのまま同アドレスに返信が行われる。

メッセージゲートウェイ

無事に届いたメール

実用化の課題は「無人航空機の運用」

KDDI研究所 執行役員でアクセスネットワーク部門長 竹内 和則氏

記者説明会で竹内氏は実用化について「技術的にどうこうというよりも、UAVなどの無人航空機の運用が法律によってどのように規定されるかを考えねばならない」と慎重な言葉を口にする。例えば、高度150m以上で無人航空機を飛ばす場合、現状の法律では飛行の許可を申請しなければならない。また、災害時には有人飛行機も含めて運用するケースが想定されるため、接触事故を避ける意味でも「ビジョンを持った運用をする必要がある。試験的なところを含め、徐々に実用化への道筋を整えていきたい」としていた。

KDDIでは、陸上で衛星通信をバックホール回線に据えた車載型基地局や、電源を喪失しても、太陽光発電などで継続的に運用できるトライブリッド基地局を運用しているほか、船舶上に基地局を設置して、沿岸部の孤立地域に通信環境を構築する実証を行っており、無人航空機を活用した取り組みも、災害対策の一環となる。今回の実証実験は、2013年度の研究開発課題に基づいて行われたため、今年度末をもって一旦の終了を迎える。

LINEやFacebookをはじめとするコミュニケーションサービスによって利用機会の減っているEメールだが、通信が途絶した場合にはこうした仕組みが存在しなければ、被災者個々人が、身近な人へ連絡する手段を効率的に、安価に用意することは難しい。このシステムをどういった地域の自治体が必要とするのか、竹内氏が指摘するように無人航空機の運用面の課題もあるが、いざという時の備えが必要な日本においては、この「伝書鳩」のような存在は必要なのかもしれない。