【インタビュー】

ライフサイエンス分野に特化した画像解析で研究者をサポート - 着実に成長する東大発ベンチャー エルピクセル

 

ライフサイエンスに特化した画像解析サービス

東京大学 本郷キャンパスの一角にある「アントレプレナープラザ」には、同大学との関わりが深いベンチャー企業が集う。そのうちのひとつが、ライフサイエンス分野の研究者に向けた画像解析サービスを提供するエルピクセルだ。

東京大学アントレプレナープラザ

画像解析を利用した技術には、衛星データや地理情報を解析するための技術や、製品や部品の個体を識別する技術などさまざまなものがあるが、同社はライフサイエンス分野の画像解析に特化しているのが特徴だ。エルピクセル 代表取締役 島原佑基氏は、「ライフサイエンスだけでいいのか? とよく言われますが、医療、製薬、農業など、ライフサイエンス業界は、それだけでGoogleのような会社が作れてしまうほど、とても広い。むしろ絞りきれていないと感じているくらいです」と説明する。

大学院時代に「メンブレントラフィック」という細胞内の物質輸送システムに関する研究を行っていたという島原氏。研究室では、顕微鏡で観察される細胞内のタンパク質や脂質の動きを画像にして解析するソフトウェアを開発していた。生物系の研究者は数学が苦手で、画像処理も不得意だという人が多く、研究室ではたくさんの共同研究が行われていたという。「そのニーズに耐え切れず、会社にした」(島原氏)というくらい、その需要は大きい。

エルピクセル 代表取締役
島原佑基氏

「現在、学術論文の9割には画像が掲載されていると言われています。三大科学誌『Nature』、『Science』、『Cell』の過去3年分を調べたところ、一番多い画像は電気泳動の結果を撮影した写真でした。また、蛍光顕微鏡、および蛍光ではない顕微鏡で撮影した画像がそれぞれ4割くらい。重複しているものも考慮すると、全論文の半分程度は顕微鏡画像が載っているといえるでしょう。生物学者と顕微鏡画像の処理は、切っても切れない関係にあります」(島原氏)

ライフサイエンスに精通していて、なおかつ画像処理に明るい人材は少ない。同社はAdobeと共に研究者向けの画像処理の講義を行っているが、そこで約3300名の参加者に対し「画像処理は必要ですか?」と質問したところ、約9割は必要であると答えたという。しかしながら、「大学で画像処理を学ぶ機会はありますか?」という質問に"YES"と答えたのはたったの3%。画像処理について教えられる人材が大学にほとんどいないというのが現状だ。

そこで同社は画像処理に関して、Webでの情報発信やeラーニング教材の開発も行っている。ライフサイエンスの分野において、画像処理技術の需要にサービスの供給が追いついていないのは、日本だけでなく海外でも同様だ。島原氏は「世界中に教育活動を行っていきたい」と、画像処理に関する教育活動についても積極的な姿勢を示している。

現在、同社の主力事業は、研究機関・企業との共同研究やシステムの受託開発だというが、今年の夏には画像解析のデファクトスタンダードとなるような、クラウド上で利用できるソフトウェアをリリースする予定だ。ライフサイエンスにおける画像解析は案件ごとに特化しており、ソフトウェアとして一般化することは難しいという印象だが、島原氏は「最初からすべてを解決しようとは思っていません。細胞個数のカウントの自動化、細胞面積の計測、動きのトラッキングといったニーズの大きいところから、まずは広げていきたいと思っています」と説明している。

大学発ベンチャー、成功の秘訣は?

エルピクセル オフィス内の様子。天井が高く、生物系のウェットラボにも対応可能な仕様になっている

大学発ベンチャーのなかでも東京大学発の企業は日本で一番多く、現在約200社程度が存在している。しかしながら、一時期のベンチャーブームが過ぎ去り、ピーク時には年度あたり約250社まで増えた大学発ベンチャーの新設数は、2013年度時点で52社にまで減少。ここ数年は横ばい傾向にある。大学発ベンチャー設立のハードルはどこにあるのだろう。

「事業化の大きなハードルは“人”ではないでしょうか。私は起業する際にあまりハードルを感じなかったのですが、その理由は周りに強力なパートナーがいたから。逆に、それがなければうまくいかなかったと思っています」(島原氏)

同じ研究室の助教とポスドクと共に同社を立ち上げた島原氏だが、「3人とも副業として会社を始めたのも成功の要因として大きかったのでは」と分析。1年目は3人全員が人件費ゼロで活動し、結果的に利益の一部を大学へ寄付するまでになったという。「仕事はひとつにしなければいけないとか、副業はダメだとか、日本の人は変にまじめなところがありますが、飲み会やスポーツに費やしている時間を、おもしろいことをやるという感覚でビジネスに当ててもよいのではないでしょうか」(島原氏)

こうして“カジュアル”に起業したというエルピクセルだが、着実に成長を続けている。同社の目標は、大学と企業の架け橋となるような研究所を作ることだ。

この研究所について島原氏は、「触媒を与えると軌道に乗るようなすばらしい技術は周りにたくさんあります。我々がまずきちんと成功して、そこから得られたノウハウを持って、技術シーズの活用をエンカレッジしていけるようになったらおもしろいですね。大学発ベンチャーのハードルはすごく高い。アカデミアから企業に行くことに抵抗を感じる人が多いのが現状です。研究者にとって、ベンチャー企業は大学よりも自己実現できる良い場所だということをきちんと示して、ここに来れば優秀な研究者たちが集まっているんだと思ってもらえるような場所にしていきたいです」と語る。

同社サービスへのニーズは日本国内のものだけにとどまらない。海外からも引き合いが多く、近々ジョイントベンチャーを立ち上げ、海外拠点を作る予定だ。エルピクセルの今後のさらなる飛躍に期待したい。



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