東京都・早稲田の洋食屋「キッチン エルム」が2月20日に閉店することになった。34年にわたって、早稲田大学の学生の胃を満たしてきた同店。現在、学生時代に親しんでいた多くの卒業生が駆けつけて、「最後にもう一度味わっておこう」と長蛇の列を作っている。閉店2日前の2月18日、同店に直撃した。

洋食屋「キッチン エルム」の店内は常に満席だ

34年の歴史を持つ早稲田の洋食屋

メニューは基本的に500円前後。学生の味方だ

東西線早稲田駅から歩いて10分。早稲田大学から程近いところにあるキッチンエルムは、店主の山口勝見さんがひとりで切り盛りしている洋食屋。安くてボリュームがあるメニューをそろえており、いつも店内はおなかをすかした学生であふれかえっていた。

店内には、「エルムの掟」と呼ばれる特殊なルールがある。「食べ終わった食器はカウンターの上におく」「水はセルフサービス」「昼時の混雑時は、グループで入店するとメニューを統一しなければならない」の3つだ。このルールを守らないで、山口さんに怒られてしまった学生もいるという。

学生時代に週に2回は行っていたというOBのOさん。「水をとりにいこうとしたら、『注文してから水をとりなさい』とおやじさん(山口さん)に注意されたことがありました」と当時の思い出を語る。ほかにも、「友達を連れて行ったとき、オムライスを食べたかったのに、多数決に負けてカルボナーラを注文しました」など、ユニークなエピソードを持っている人もいた。

「エルムの掟」

人気商品の「カルボ(カルボナーラ)」はエルム独自の味

人気メニューは「カルボナーラ」(税込480円)。熱したフライパンでバターを溶かし、タマネギやピーマンを炒める。その香ばしい匂いは店の外まで漏れるため、「腹ペコで並んで待っているのが辛かった」と当時を思い出して話す人もいた。野菜を炒めたら溶き卵とゆでたパスタを入れ、さらに炒めて出来上がり。味が濃く、学生の胃にはもってこいのボリュームだ。

人気メニューの「カルボナーラ」(税込480円、写真は100円追加した大盛り)

学生からは、「カルボナーラではなく、焼きそばでは?」という声が上がることもあるが、「普通の"カルボナーラ"ではなく、"エルムのカルボナーラ"は卒業した後もなぜか食べたくなる」というファンが多い。筆者が入店したときは、ほぼ全員が口をそろえて「カルボ(カルボナーラ)大盛りで」と注文していた。

ハムやピーマンなど、一緒に炒められた具材がよく絡んでいる

店主の山口さんによると、あまりの人気で、17時を過ぎると品切れになってしまうこともあるという。「みんながカルボナーラの大盛りを注文するから、フライパンが重くてしょうがない。お店の外にはずっとお客さんが並んでて、フライパンを振り続けるのはしんどいんだぞ」と笑顔混じりで話してくれた。

大盛りの「カルボナーラ」を調理する山口勝見さん

キッチン エルムの営業時間は10時30分~19時だが、品切れの場合は早めに店を閉める場合がある。特に開店直後は約40人が店外で待っており、およそ1時間の待ち時間が必要だ。その行列のほとんどが早稲田大学の関係者で、いかに同店が愛されていたかが分かる。中には、Facebookで閉店を知って、兵庫県から有給をとって駆けつけてきた卒業生もいた。

この看板を見られるのもあとわずか

外には「キッチン エルム」の味を求める人がずらっと並んでいる

20日の閉店まであとわずか。あの味を忘れられないという人は、ぜひ早稲田に寄ってほしい。