公開書簡は、冒頭の文章での状況説明と、実例を出しながらのAppleの主張に分かれている。見出しは「暗号化の必要性」、「サンバーナーディーノの事件」、「情報セキュリティへの脅威」、「危険な前例」の4つからなる。簡単に、Appleの主張について、まとめていこう。

まずこの書簡は、米国政府当局がAppleに対して「同社の顧客のセキュリティを侵す」という前例のない行為を要求している、との書き出しから始まる。そして、当局の要求に対して拒否したことを表明した。このことについて、広く議論を呼びかけたい。これがAppleが書簡を公開した動機となる。

非常に簡単に言えば、FBIなどの捜査当局の犯罪捜査でAppleの製品やサービスが関わる場合、AppleはiPhoneの暗号解除を行い、捜査に協力せよ、という求めがあった。Appleはそれを断った、という話だ。その断った理由がまとめられているのが、今回の書簡である。 見出しの中にあるサンバーナーディーノの事件とは、昨年12月、カリフォルニア州サンバーナーディーノ市にある障害者支援福祉施設で、武装した3名が銃乱射を行い、14名死亡、重軽傷17名を起こした痛ましい事件だ。

犯行を行った3名はいずれもイスラム教原理主義に傾倒し、イスラム国に忠誠を誓う内容のFacebook投稿を行っていたことが分かっている。しかし米国当局の組織犯罪捜査からは発見できず、米国における対テロ捜査が不完全であることを露呈する結果となった。

Appleは書簡の中で、この事件に関する情報提供をFBIが求めた場合は、Appleが持っている情報については提供するとしている。加えて、同社のエンジニアによる支援も行うという。しかし、いわゆる「バックドア」を次期iPhone、iOSに用意しろ、という要求は受け入れられないとしている。

バックドアは、ソフトウェアやハードウェアに対して、セキュリティを回避して情報にアクセスする手段を用意することを指す。もしも政府当局が「犯罪捜査のみに活用する」と宣言していても、一度バックドアを用意すれば、その宣言が守られているかどうかをAppleがコントロールすることができなくなるし、第三者によるバックドア悪用の可能性も起きる。

Appleは、顧客の情報を自ら危険にさらす、米国企業初の前例にはなりたくない、と主張しているのだ。