2月17日に打ち上げられたH-IIAロケット30号機には、主衛星であるX線天文衛星「ひとみ」(ASTRO-H)のほかに、3機の超小型衛星が相乗りしていた。同日開催された記者会見には、3機の代表者も出席していたので、本レポートではこの超小型衛星について注目する。主衛星とロケットについては、前回のレポートを参照して欲しい。

H-IIAロケット30号機に相乗りした3機の超小型衛星(C:JAXA)

ロケットの余剰能力を利用して打ち上げるのが相乗り衛星である。JAXAの相乗り衛星の枠組みとしては、有償と無償の2種類があるが、今回搭載した「ChubuSat-2」(名古屋大学)、「ChubuSat-3」(三菱重工業)、「鳳龍4号」(九州工業大学)の3機はいずれも無償。有償の米国衛星8機も搭載が決まっていたが、準備が間に合わずこれはキャンセルされた。

主衛星の分離後、3機の超小型衛星は5分間隔で分離。正常に分離したことは、ロケットからの信号および映像で確認された。以降の運用はJAXAではなく、それぞれの衛星側で行うことになるが、いずれの衛星も電波を出していることが確認できたようだ。今後、コマンドを送って状態を確認していく必要はあるが、まずは第一関門を突破といったところだろう。

ChubuSat-2のミッションは、放射線の観測と、アマチュア無線の中継だが、面白いのは、主衛星の役に立つことをやろうとしていることだ。ひとみにとってはノイズとなる中性子とガンマ線を検出し、ひとみの観測をサポートするという。検出器には、宇宙での実績が無い浜松ホトニクス製半導体光センサーと古河電子製GAGGシンチレータを使用した。サイズは約63×56×55cm、重さは約50kg。

名古屋大学が開発した「ChubuSat-2」(C:JAXA)

名古屋大学理学研究科の山岡和貴特任准教授

ChubuSat-3は同-2の兄弟衛星だが、ミッションは全く異なる。ChubuSat-3の特徴は、大口径の高分解能カメラを搭載していること。氷河や海岸線の変化を観測し、地球温暖化の状況を調べる。またこのカメラを地球周回軌道へ向け、デブリ(宇宙ゴミ)の観測にも挑戦する。まずは軌道が分かっているデブリの撮影を試みるが、未知のデブリの発見も期待しているそうだ。サイズは約63×55×63cm、重さは約52kg。

三菱重工業が開発した「ChubuSat-3」(C:JAXA)

三菱重工業宇宙事業部宇宙機器部の出原寿紘氏

ChubuSat衛星は今後、4号機、5号機と開発を続け、将来のビジネス化も見据えているという。衛星を売るのかサービスを売るのか、具体的なところはまだ検討している段階とのことだが、三菱重工業の出原寿紘氏によれば、同社が衛星を開発して販売する可能性もあるとのこと。

鳳龍4号のメインミッションは軌道上での放電実験。衛星が故障する原因の1つとして考えられているのが放電現象である。たとえばJAXAの過去の衛星では、環境観測技術衛星「みどりII」が運用を断念したのは、放電現象が原因だった可能性が高いとみられている。しかし、実際に宇宙空間でそれを直接観測した例が無いということで、放電電流の計測と、放電による発光の撮影を狙う。

また鳳龍4号の開発メンバーは、18カ国からの総勢約50名と、非常に多国籍なのが特徴だという。メインミッションの放電実験以外にも、真空アークスラスタの軌道上実証や、ボーカルシンセサイザーによる地上への音楽配信など、多様なミッションが用意されているのも面白いところだ。サイズは約45×42×43cm、重さは約10kg。

九州工業大学が開発した「鳳龍4号」(C:JAXA)

九州工業大学大学院修士課程の福田大氏

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