【レビュー】

京大総長から野性的発想術を学ぶ - 『京大式おもろい勉強法』

日野瑛太郎  [2016/02/19]

山極寿一『京大式おもろい勉強法』(朝日新聞出版/2015年11月/720円+税)

現京都大学総長の山極寿一氏は、世界的なゴリラの研究者である。山極氏が京都大学の総長に選出された際には、新聞やテレビなどでも話題になったので覚えている人もいるかもしれない。

2014年10月に山極氏が総長に就任した際、とある新聞は「現場で汗水流して働いていた技術者を、突然社長の椅子に座らせたようなもの」と報じたという。それだけユニークな人選だと感じた人が多かったということだろう。

本書『京大式おもろい勉強法』(山極寿一/朝日新聞出版/2015年11月/720円+税)は、そんな山極寿一京都大学総長が、自らの知的発想術について解説した本である。ただし、本書をよくある勉強法や発想術の本だと思ってはいけない。タイトルは「勉強法」となっているものの、内容としては「いかに生きていくべきか」といった人生論のほうが近い。書かれていることも自身の体験に裏打ちされたユニークなものばかりで、「ありがちな本」に飽きている人はとても面白く読めるのではないかと思う。

大学はジャングル

本書の冒頭で、著者は大学を「ジャングル」と称している。ジャングルは生物多様性の最も高い場所で、その中で多様な生き物がニッチを構えて共存し、複雑な関係を保ちながらひとつの生態系を築いている。大学も、専門分野が異なる多くの研究者たちがそれぞれ研究費を与えられながら、独自の研究を行っている。みんなが同じ方向を向いているというわけではない。この点が、ジャングルにとてもよく似ていると筆者は指摘する。

そのようなジャングルで日々様々な研究を行っている研究者(筆者のたとえを借りれば猛獣)の能力を最大限に引き出すためには、リーダーは「統治」ではなく「調整」に徹しなければならない。文部科学省の最近の方針は、国立大学における総長の権限を強化しトップダウンの体制を敷くことだが、山極総長はあえてそれとは逆のやり方を取ろうとしている。このことから、山極総長が「大学だからこそできること」を重視していることがよく伝わってくる。

「おもろい」という発想

2014年10月に著者が京都大学の総長に就任した時につくったキャッチフレーズは、「おもろいことをやりましょう!」だったという。この「おもろい」という言葉はタイトルにもあることからわかるように、本書のひとつのテーマになっている。

著者によると、「おもろい」は「面白い」は違う概念だという。「おもろい」という言葉には、自分だけが面白がるのではなく、創造的な発想を練って相手に「それ、おもろいな」と興味を持たせるように伝える、つまり「対人力」のようなものが裏に隠れている。独りよがりの思考をするのではなく、他者との対話の中で、時には相手の意見にも耳を傾けながら「お! それ、おもろいやんか」と相手と共に考えをふくらませていく。このような共同作業が「おもろい」という言葉の中には含まれている。

ここでいう対話はティベートとは違う。どちらが正しいか白黒つけたり、自分の意見で相手をやり込めるようなやり方ではない。対話では自分の意見はもちろん主張するものの、相手の意見にもよく耳を傾け、それを取り入れて意見が変化することもしばしばある。そうやって共同作業でさらに「おもろい」ことを提案していくのが、京都のサロン文化にも通じているという。

「議論が大好き」だという人がたまにいるが、そういう人はロジックで相手を完膚なきまでに叩きのめすことが少なくない。しかし、そういうやり方は敵もつくるし得るものもほとんどない。それよりも、対話を通じて共に「おもろい」ことを考えていったほうが、きっと実りは多いだろう。

「親しさ」と「信頼」は違う

著者の山極氏は京都大学の総長である以前に世界的なゴリラの研究者というだけあって、本書のいたるところでゴリラやアフリカの話が出てくる。「勉強法」に別に興味がなくても、実はこれを読んでいるだけでかなり面白い。学者と聞くとどうも頭でっかちなイメージがあるが、本書の著者の山極氏は完全な行動派であり、言葉のひとつひとつが体験に基づいていてとても説得力がある。

本書を読んでいてとても素敵だと思うのは、著者が調査対象であるゴリラや、現地の方々とつねに真摯な態度で接しようとしていることが伝わってくることだ。これは単に相手と「親しい」間柄になることを意味しているわけではない。本書の中に、ケニアで家を留守にした間にメイドから大金を盗まれた日本人研究者の話が出てくるが、著者の言葉を借りればこれは「信頼関係を築いていたのではなく、独りよがりに相手に親切にしていただけ」だという。親しくなることと、信頼することはまた別だ。著者の人とのつきあい方は、日本にいる僕たちにとっても参考になることが多い。

本書を読むと、日常生活の送り方、その中でも特に対人関係について深く考えさせられる。「勉強法」と聞くと暗記の仕方とか計画の立て方とかそういったことが頭をよぎるが、本書の「勉強法」はそれよりも一歩引いた、生きていく上で必要な勉強法である。他人との関わり方について少しでも悩んだことがある人は、読んでみるときっと色々なことが学べると思う。

<著者プロフィール>
日野瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)がある。

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