NTTは、2016年2月18日・19日の両日、東京都武蔵野市にある「NTT武蔵野研究開発センタ」で「NTT R&Dフォーラム2016」を開催するにあたり、2月16日、事前にプレス向けに内容を公開した。

このフォーラムは、同社が研究・開発する最新技術を紹介するもので、今年のテーマは「2020とその先の未来へ」だ。

プレス向け内覧会では、まず、同社代表取締役副社長 研究企画部門長 篠原弘道氏が、最近話題となっているAIについて、同社の取り組みを説明した。

講演するNTT 代表取締役副社長 研究企画部門長 篠原弘道氏。篠原氏は別会場から、イマーシブテレプレゼンス技術「Kirari!」によるプロジェクションマッピング技術による3D虚像リアルタイム中継で講演を行った

篠原氏はAIについて「今の人間の知能と比べるとできないことが多くある。われわれは、人の能力を補強し、引き出すことを目指している」と、AIは人の代わりをするためではなく、補助する目的で開発しているという開発思想を説明した。

NTTでは、「Agent-AI」、「Heart-Touching-AI」、「Ambient-AI」、「Network-AI」という4種のAIの開発を行っているという。

「Agent-AI」は我々が想像するAIに近いもので、人が発する情報を読み取って、その意図や感情を理解したり、膨大なデータに基づき推論したり、ロボットの身振りや手振りを通じて、人との対話を実現したりするもの。

「Agent-AI」

具体的には、コンタクトセンターなど業務支援や介護ロボット、医療データ解析による診断支援などが該当する。

「Heart-Touching-AI」は、本人も気づかないような深層心理・知性・本能を読み取り、心地よい人間社会を創出するためのもので、脳科学の領域に近いという。

「Heart-Touching-AI」

「Heart-Touching-AI」の活用例としてフォーラムで展示されていたのは、こどもの発達段階にぴったりの絵本を抽出するシステム「ピタリエ」。何か本を検索したい場合、同じ著者のほか、使われている語句・画像の特徴、出てくるキャラクタや作品テーマなどが同じかどうかで類似図書を検索する。図書館等で目的の本がなかった場合に、代わりの本を推薦するシステムとして利用できるという。

絵本検索システム「ピタリエ」

「Ambient-AI」は、IoTの領域に近く、人、モノ、環境を読み解き、瞬時に予測制御するもので、観光ルート案内や交通渋滞解消などの用途で期待されているという。

「Ambient-AI」

「Ambient-AI」を利用したシステムとしてして展示されていたのは、イベント会場やテーマパークの混雑状況を加味して、効率的に周る巡回ルートをレコメンドするシステム。このシステムでは、人流などのセンサ情報から近未来を予測し、集団の先行的誘導を行う部分でAIが利用されているという。

巡回スケジュールナビゲーション

10,000人による検証実験では、体験できたアトラクションが減少した人は1,000人程度であったのに対し、増えた人は3,300人程度と、ある程度効果が確認できたという。

動的巡回誘導の効果

「Network-AI」は、複数のAIや有機的につながり成長し、社会システム全体を最適化するもので、研究・開発はこれからの分野だという。

「Network-AI」

同社では、これらの技術をハードウェアを提供する企業とのコラボレーションにより、頭脳として提供する。

たとえば、パナソニックとは、「映像サービスの革新」や「ユーザーエクスペリエンスの進化」を目指し業務提携。スタジアムにおいて、観客の好みの映像を楽しむことができるサービスや、臨場感あふれる映像を日本のみならず世界に届けるサービスのほか、映像モニタリングシステムとサイバーセキュリティ技術等をベースに、安心・安全な暮らしを支える分野での新たな提案を行っていく。

トヨタとは「ぶつからない」を学習する車の研究を行っている。トヨタの考える人工知能を使った将来の運転支援のコンセプトを、NTTのエッジコンピューティング技術と高信頼無線技術と、PFNのぶつからない事象を学習するディープラーニング技術とその分散処理技術を用いて実現。

フォーラムでのデモンストレーションでは、自動車模型を使用し、各車が走行することで時々刻々変化する周囲環境に対して、衝突回避の動きを、エッジサーバで動作するPFN社の人工知能で学習(車同士がぶつかると、それはよくない事として学習。それを回避するようにする)。複数の車が学習した内容を他の車と共有することで、学習に必要な時間の短縮も実現する。

「ぶつからない」を学習する車のデモ

「ぶつからない」を実現するためのインフラ

公式アプリを通じた先端技術を体感

またNTTは、講演スケジュール、展示内容、会場地図のほか、「かざして案内」や「混雑マップ」「Wi-Fi強度マップ」など、NTT研究所の最先端技術を体感できる公式アプリを提供。

かざして案内では、スマホのカメラでモノや掲示物を撮影すると、画像認識技術「アングルフリー物体検索技術」を用いて、サーバに登録済みの画像と照合。マッチした場合、内容の詳細、おすすめ動画紹介、周辺マップ、展示パネルを端末で閲覧でできる。この技術は、観光案内等で利用できるという。

公式アプリ

スマホでカメラで撮影すると、撮影したモノの内容の詳細を表示

かざしたランキングも見ることができる

また、同アプリには、会場の混雑状況とアプリ利用者自身の現在地が反映された「混雑マップ」により、効率的な回遊を支援するほか、ユーザから電波の受信強度や通信速度等の情報を随時収集し、変動する無線環境の傾向を把握できる「Wi-Fi強度マップ」も搭載する。

「混雑マップ」

混雑マップでは、直近30分前のデータから10分後の人流を予測・可視化しており、人身事故などの突発事象による混雑などを人流予測、サイネージによる情報提示による誘導も目指している。