レトルトカレーの定番商品として長く消費者に支持されている「ボンカレー」。初めて発売されたのは1968年で、以来ブランドの歴史は48年にもなるという。長い歴史の中で、ボンカレーのマーケティングはどのような変遷を遂げ、時代のニーズに応えてきたのか。また長く愛されるブランドを守るために、変えなかった価値はどこにあるのか。大塚食品 製品部 レトルト担当プロダクトマネージャーの垣内壮平氏にお話を伺った。

大塚食品 製品部 レトルト担当プロダクトマネージャーの垣内壮平氏

48年貫いてきた、ブランドのアイデンティティ

レトルト食品というものがまだ一般消費者に知られていなかった1968年当時、初代ボンカレーの登場は、現在は家庭の食生活に欠かせないアイテムとなっているインスタント食品の歴史が始まった瞬間だった。以来、家庭における食生活の嗜好性の変化や競合他社の登場による食品市場の変化など様々な紆余曲折があったはずだが、垣内氏はボンカレーが歩んできた48年を次のように語る。

「ボンカレーは登場以来、現代社会の多忙化や女性の社会進出など、社会の変化がもたらす時代のニーズに合わせて消費者に受け入れられてきました。しかし、商品が持つ根本的なコンセプトは大きく変えていません。“誰が作っても美味しくできる、定番の味”というブランドのアイデンティティを貫いてきたのです」

ただ現在は、市場の環境は初代が発売された当時とは大きく異なる。消費者のライフスタイルは変化し、選択肢も多様化。レトルト食品に求められる価値は、“家庭の味を簡単に再現できること”から“外食に負けない本格的な味を実現すること”に変化してきている。簡便さだけでなく、満足度を求められるようになってきたのだ。

初代ボンカレーから10年遅れて登場し、現在は主力商品となっている「ボンカレーゴールド」は、初代から続く昔ながらのカレーの味は守りながら、よりレストランのカレーを意識して開発したのだという。そして、クオリティの高さにこだわった「ボンカレーネオ」(2009年発売)や、素材や製法にこだわり従来品と比べて2倍の手間を掛けて生産するという「Theボンカレー」(2015年発売)など、簡便さだけではなく高い満足度を提供する商品も展開した。

「時代の変化に合わせて、レトルト食品にもバリエーションや本格感を求められるようになってきました。外食、コンビニ弁当、スーパーの惣菜など、ライバルが多様化したことで、消費者ニーズも変わったのです。初代から続く変わらない味を中心に据えながら、進化も追求しています」(垣内氏)

ボンカレーのラインナップ。後ろ左からボンカレーネオ(オリジナル、欧風、インド風)とTheボンカレー。手前の初代ボンカレーは沖縄地区のみで販売している

“レトルト食品のスタンダード”を追求するマーケティング

垣内氏によると、ボンカレーのブランディング戦略も満足度や高い質感を求める消費者ニーズの変化に合わせて、手軽さや親近感から品質の高さや本格感を訴求する方向へと変化してきたのだという。しかしそれでも、“誰が作っても美味しくできる、定番の味”というボンカレーの根本的な価値は崩すことなく、そのアイデンティティを貫いてきたのだという。

この点について、垣内氏は「ボンカレーは、歴史のあるブランドに恥じない安定した品質こそが価値であり、世の中に様々な味わいのカレー商品があるなかで、いつでも戻ってくることができる“ほっとする味”を目指している。時代に合わせた付加価値を打ち出しながらも、あくまでレトルトカレーのスタンダードを作ることを目指し、業界をリードする存在でありたい」と説明。他社が様々なバリエーションの商品を展開して広く消費者ニーズの取り込みを目指す一方で、ボンカレーはあくまでも“レトルトカレーの王道”というポジションに相応しいブランド展開を目指しているのだ。

48年間、時代のニーズに応えながらも“レトルトカレーの王道”をリードしてきた

垣内氏によると、ボンカレーはコアターゲットを絞っていない商品だが、核家族化や単身者の増加によって一人で食事をするシーンの増加に伴い、ブランディングのターゲットは一般家庭から共働き世帯を中心とした消費者に設定しているという。「いま最も忙しい人たちの課題を解決する商品としてブランディングを展開している」と垣内氏。これも、ボンカレーが初代から一貫して貫いてきた点だ。

この方針を具現化するような商品の変化が、2013年にボンカレーゴールドに導入した「レンジ調理」の採用だ。これまで、ボンカレーは鍋にお湯を沸かして湯煎で温める必要があったが、その手間を省略するために2000年頃からレンジ調理を研究し、箱ごとレンジに入れて温めることができるようになったという。以来、レンジ調理は業界内に浸透し、現在ではレトルトカレー市場の1割がレンジ調理を採用した商品だという。

「いかに手軽に作れるかを追求したレンジ調理ですが、ただ容器を変えれば良いという単純なものではありませんでした。容器の素材や調理法が変わると、中身の味も変化してしまうのです。そのため、ボンカレーゴールドをレンジ調理にリニューアルするにあたっては、容器や調理法を変えても同じ味わいが実現できるよう、中身を完全に作り直しました」(垣内氏)