日本マイクロソフトは2月9日、東京エレクトロンデバイスなど9社と協力して「IoTビジネス共創ラボ」を発足したことを発表した。Microsoft AzureをベースとしたIoTソリューションの開発促進や、共同検証結果を発表するセミナー開催など、各企業がマッチングする場を提供する。登壇した日本マイクロソフト 代表執行役 会長の樋口泰行氏は、「Azure IoT Suite」による迅速な共同検証の支援で、スモールスタートから本格導入までスムーズに行えるとアピールした。

左から、アクセンチュア デジタルコンサルティング本部 執行役員 統括本部長の立花良範氏、アバナード デジタルリード シニアディレクターの山中理恵氏、テクノスデータサイエンス・マーケティング 執行役員 常務の岡本裕之氏、電通国際情報サービス グローバルビジネス推進本部長 執行役員の伊藤洋氏、東京エレクトロン デバイス IoTカンパニー カンパニープレジデントの八幡浩司氏、日本マイクロソフト 代表執行役 会長の樋口泰行氏、ナレッジコミュニケーション 代表取締役 CEOの奥沢明氏、日本ユニシス 総合マーケティング部 部長の森口秀樹氏、ブレインパッド 代表取締役 社長の佐藤清之輔氏、ユニアデックス 常務執行役員 マーケティング本部長の庭山宣幸氏

日本のICT産業を語る上で「IoT(Internet of Things)」は、今もっとも注力しなければならない分野である。米国のように官民一体となってIoT事業を推進しなければならないのは、誰の目にも明らかだ。このことを改めて強く感じさせたのが、日本マイクロソフトが2016年2月9日に開催した「IoT分野の新たな取り組みに関する共同記者発表会」である。

東京エレクトロンデバイス IoTカンパニー(幹事社)、日本マイクロソフト(事務局)、アクセンチュア、アバナード、テクノスデータサイエンス・マーケティング、電通国際情報サービス、ナレッジコミュニケーション、日本ユニシス、ブレインパッド、ユニアデックスの計10社が協力して「IoTビジネス共創ラボ」を発足したことを発表した。登壇した東京エレクトロンデバイス IoTカンパニー カンパニープレジデントの八幡浩司氏は、「IoTのエキスパートによるエコシステム構築や、プロジェクトの共同検証によるノウハウ共有、先進事例の共有によるIoT導入の促進といった目的を持って、各企業がエコシステム的に協力しあう。自由な議論から生まれる発想を活かしたい」と発足理由を語る。

IoTのエコシステム構築やノウハウ共有などを目的とする「IoTビジネス共創ラボ」

東京エレクトロン デバイスの八幡浩司氏。同社は幹事社を務める

そもそも東京エレクトロン デバイスは、産業用エレクトロニクス製品の設計や開発、半導体電子デバイスおよび情報通信機器の販売や保守を行う企業として、さまざまなデバイスを世に送り出してきた。日本マイクロソフトとは23年前から組み込み分野で付き合いがあるというから、Windows Embedded CompactがまだWindows CEと呼ばれていた時代までさかのぼる。そこで東京エレクトロンデバイスと日本マイクロソフトが中心となって、ビジネスソリューション開発やサイエンス分野など幅広い専門分野に声をかける形で、IoTビジネス共創ラボの発足に至った。

IoT分野における未来予測はIDCやGartnerの調査結果が顕著だが、八幡氏は2020年までにIoT接続数は250億(Gartner)、市場売り上げ規模は1.7兆ドル(IDC)を引用し、「数字だけではピンと来ないが、我々が関わるすべてのものがインターネットにつながる世界を想像してほしい。より良い行動指針を提示する未来が訪れる」とIoTで変わる未来を語った。また、McKinsey&Companyの調査結果である"IoTがもたらす価値の70パーセントはB2Bシナリオから"についても、「正しい予測だ。我々も同様に始める」という。

各調査会社によるIoT市場の予測値

さらに日本国内のIoT市場についても言及し、「(IDC Japanの調査結果によれば)現在のICT市場は25兆円だが、そのうちIoT市場は9兆円。今後はIoTが市場全体を牽引し、年12パーセントの成長率がある」と説明した。特にサーバーやストレージ、分析ソフトウェアなどが成長分野となり、IDC Japanの調査結果では4年後の2019年には16兆円まで拡大する。この7兆円の部分を参画する企業たちで盛り上げようというのが、IoTビジネス共創ラボの存在理由だ。

日本国内におけるIoT市場の成長率

IoT導入で問題視されるのがセキュリティや投資対効果、そして人材不足である。この点についてはMicrosoft Azureで解決することが可能であると八幡氏はいう。記者からの他社製パブリッククラウドの導入について検討しなかったのか、という質問に対して、「(東京エレクトロン デバイスの調査によれば)あらゆるモジュールを持っているのはMicrosoft Azureだけだった。顧客がオンプレミスサーバーでデーターを管理している場合も、データーだけをPower BIに投げるなど柔軟なシナリオに対応できる」と、日本マイクロソフトを協業パートナーに選択した理由を説明した。さらに日本国内にデーターセンターを保有している点も大きいという。

八幡氏が語るMicrosoftプラットフォームの魅力

IoTビジネス共創ラボではプロジェクトを検証するため、5つのワーキングループを設けることを明らかにした。各分野に特化した「製造ワーキンググループ(リーダー: 東京エレクトロンデバイス)」「物流・社会インフラワーキンググループ(リーダー: ブレインパッド)」「ヘルスケアワーキンググループ(リーダー: ユニアデックス)」の3つに加え、ビジネスインパクトがあるIoTシナリオを検討する「ビジネスワーキンググループ(リーダー: アクセンチュア)」と、多様なデーターを分析、活用する「分析ワーキンググループ(リーダー: ブレインパッド)」が脇を固める。八幡氏は「ホワイトボードに書き殴りながら議論を進めたい」と語った。

日本マイクロソフト 代表執行役 会長の樋口泰行氏は、「IoTはクラウドとデバイスを結びつけることで高い付加価値を生み出せる。弊社は後出しジャンケンが得意な会社だが、より良いもの目指した結果、機能的には(他社製パブリッククラウドよりも)先に進んでいる」と述べている。IoT市場においてはMMI(マンマシンインタフェース: 人と機械の間で情報伝達を行うデバイスやソフトウェア)が重要だが、Microsoftは同分野の研究を長年続けてきた。この点についても「M2M(Machine to Machine)からIoT、最終的には人とつながることに価値を見いだしたい」という。樋口氏はIoTデバイスの多様化を、自社のSurface HubやHoloLensといったデバイスと機械学習などのIT技術を例に挙げ、「別々に存在したものがクラウドやIoTでつながり、それが人につながっていく」と説明した。

日本マイクロソフトの樋口泰行氏。同社は事務局を務める

近年の日本マイクロソフトは国内にデーターセンター設置してから、Microsoft Azureを用いたビジネスを開く展開している。シェア拡大の理由について樋口氏に尋ねると「最近はオンプレミスサーバーを自社で購入する企業はかなり減ってきている。その環境変化に合致したのだろう。『Azure Stack(IaaSやPaaSの機能をオンプレミスで利用可能にするパッケージ)』や他社製パブリッククラウド、企業内クラウドなどにシームレスに対応し、その裏でもインテリジェンスな機能が多数存在するため選んでもらっている」と、Microsoft Azureの強みを語った。

日本マイクロソフトのIoTに対する視点。ここではユーザーを意味する「IoYT」と称している

IoTビジネス共創ラボにおける日本マイクロソフトの役割は事務局ということだが、容易なクラウドとIoT導入を実現すると同時に遠隔監視や予兆保全、資産管理などのシナリオをパッケージ化する「Azure IoT Suite」や、IoTデバイスとソリューションバックエンド間でセキュアな双方向通信を認定する「Azure Certified for IoTプログラム」を提供。後者は2015年9月から米国本社で始めたプログラムだが、認証済みデバイスなどをリスト化することで、ユーザーのIoT導入支援につなげる意図がある。既に8社のゲートウェイパートナーが申請を開始し、内1社認証を取得済みだという。その他にも、「Azure IoT Hub(何百万台ものIoTデバイスとクラウド双方向通信やセキュリティ保護を確立するサービス)」を2月3日から最終版として提供を始めている。

「Azure IoT Suite」の概要。ここでマルチプラットフォームを強調していた

「Azure Certified for IoTプログラム」の概要。既に日本の企業も申請を始めているという

さらにIoT市場の需要喚起として、製造や流通といった各種業界の意思決定者5,000人を対象にしたイベントやセミナーを開催。既に3月10日には1回目の勉強会を予定している。さらにパートナーマッチングや先進事例のモデル化などを行いながら、1年以内に100案件の送出を目指すという。加えてIoT技術者不足を改善するため、無償トレーニングも提供する。年90回以上のトレーニング開催を予定し、合計1万人の技術者育成を目指す。

日本マイクロソフトが行う、IoT技術者の無償トレーニング内容

最後に活動目標として八幡氏が「1年以内に(顧客企業を)100社に拡大する」と語った。その理由として「日本は製造業の土壌がある。長年付き合いのある企業は3,000社、常に取引のある企業は2,500社以上。各社からIoT市場への参画をほのめかす声を頂いている」からだという。今回の取り組みがIoT市場へどのようにコミットし、成果を生み出すのか現時点では分からない。だが、IoTへの取り組みは世界レベルで切磋琢磨する時代となった。IoTビジネス共創ラボには次世代のICT市場を盛り上げる役割を期待したい。

阿久津良和(Cactus)