ウェーバーの挑戦

重力波を直接捉えるための挑戦のさきがけとなったのは、米メリーランド大学の科学者ジョセフ・ウェーバー(1919年~2000年)だった。彼は1950年代から重力波に着目し、1965年に「共振型」、もしくは「ウェーバー・バー」と呼ばれる重力波検出装置を開発した。

これは巨大なアルミニウムの円柱をぶら下げて設置し、重力波が通過した際に円柱がゆがむのを検出することで、重力波の存在を証明しようというものだった。そして実際に、1967年に重力波「らしきもの」を検出する。しかし、もしかしたら別の原因で円柱が揺れただけかもしれない。確証が持てなかった彼は、遠く離れた別の場所に同じ装置を設置し、同時に観測することで、別の原因で揺れるという偶然を排除しようとした。

ジョセフ・ウェーバーと共振型重力波検出装置 (C)UMD Department of Physics

そして1968年から69年にかけて、この2台が同時に検出に成功し、「重力波が見つかった」と世界的なニュースになった。これを受け、世界中で同様の検出器が作られて観測が始まった。

しかし、ウェーバー以外に検出に成功した例はこれまで一度もない。円柱の素材を、アルミニウムから重力波に反応しやすいと考えられているサファイアに変えたり、装置の置く場所の温度を絶対温度2度以下に冷やしたりと、より検出しやすくするための改良が重ねられているが、現在までウェーバー以外の装置が、重力波を検出したという反応を示すことはなかった。

現在では、ウェーバーが60年代に検出したのは何かの間違いで、また2台の検出器が検出に成功したように見えたのも、単なる偶然でだったという見方がなされている。ただ、ウェーバーのこの挑戦が、世界中で重力波の研究に火をつけたのは間違いない。実際、1970年代からは、現代につながる、レーザー干渉計を使った重力波の検出に向けた動きが始まっている。

星の動きから重力波が間接的に見つかる

1967年、アントニー・ヒューイッシュとジョスリン・ベルの2人は、数秒から数ミリ秒と言う短い間隔で電波を出し続けている天体「パルサー」を発見した。当初、その電波が出る間隔あまりにも規則正しかったことから、地球外知的生命体が発信しているのではとも考えられたが、現在では中性子星の一種であると考えられている。

パルサーの「規則正しく電波を出し続けている」という特徴は、星のある場所から電波や光が出つつ、数秒から数ミリ秒というきわめて早いスピードで自転することで、灯台の光のように規則正しく電波を出しているように見えるのでは、と考えられている。

そしてそのような星は、中性子の塊が星になった中性子星であれば説明がつく。中性子星は、質量が太陽と同じぐらいか少し大きいにもかかわらず、半径は10kmほどしかない、とても密度の高い星である。この中性子星が磁場をもっている場合、その磁極からは電磁波が出る。さらに磁極と自転軸が一致していない場合、外から見ると、その電磁波は灯台の光のように規則正しく出ているように見えるというわけである。

現在までにパルサーは約2000個近く見つかっており、私たちの住む天の川銀河の中だけでも、20万個以上のパルサーが存在すると予想されている。また電波だけで無くX線を出すものも見つかっている。

さて、少し時代はさかのぼって1974年、米マサチューセッツ工科大学のラッセル・ハルスとジョゼフ・テイラーの2人は、パルサーの観測を行っていた。その中で、後に「PSR B1913+16」と名付けられることになるパルサーに、少しおかしな動きを発見する。最初に観測したときと、次に観測したときとで、電波の周期が違ったのである。

当時、パルサーの周期は、世界中にあるどんな時計よりも正確だと知られていた。最初、この2人は観測ミスかと思い調べなおしたが、やはり観測するごとに周期が変わっていた。そこでハルスは、このパルサーが別の中性子星と共通の重心をもってお互いが公転している「連星」のひとつなのではないかと考えた。公転しているために、周期が変わって見えるのではというのだ。これは世界初の「連星パルサー」の発見となった。1993年にこの2人は、ノーベル物理学賞を受賞している。

この連星パルサーはそれだけでも大発見だったが、ハルスとテイラーがノーベル物理学賞を受賞した理由は「重力研究の新しい可能性を開いた新型連星パルサーの発見」であった。実は、この連星パルサーは重力波の証明にも大いに役立っている。

ハルスらがPSR B1913+16の観測を続けたところ、公転速度がだんだん遅くなっていることを発見した。その理由についてハルスらは、もし、重力波というものが本当に存在するのであれば、パルサーは質量の大きな星なので、公転運動によって重力波を出しているはずである。もちろんそれは直接肉眼で見えたり、観測したりできるものではないが、この連星が重力波を出しているとすれば、そのせいで公転するエネルギーが徐々が奪われ、公転速度が遅くなっているのではと考えたのだった。

そして実際にアインシュタインの予測を当てはめたところ、その減り方はきれいに一致していた。これにより、重力波が存在する証拠が、間接的にではあるものの見つかったのである。なお、PSR B1913+16はこのあと、約3億年後に両方の星がぶつかる計算となっている。

ハルスとテイラーが発見したPSR B1913+16の軌道周期の変化のグラフ。実線がアインシュタインの一般相対性理論から予測される変化を示したもので、点が実測値。両者はきれいに一致しており、重力波の放出によって徐々にエネルギーを失い、軌道周期が短くなっていることを示している。

理論的に、そして間接的に重力波が存在する証拠はそろった。次は直接的に重力波を捉えなくてはならない。