「自分のデザインで人を笑顔にできる今の仕事に誇りを持っています」と語る李さんは、都内のインテリアデザイン会社で働く台湾人女性。クリエイティブな仕事に憧れ、ふるさとを飛び出したのは弱冠18歳の時でした。日本の美大に入学するだけでは満足せず、大学在学中はニューヨークへも留学。そんな努力家の彼女がフレッシュな笑顔で語った、将来の夢とは?

李 欣(リ・シン)さん/台湾出身/日本在住/25歳/インテリアデザイン会社勤務

■これまでのキャリアと今の仕事について教えてください。

母がデザイン関係の仕事をしていたので、自然とデザインの仕事に興味を持つようになりました。小さな頃からデザイン分野で台湾より数歩進んでいる日本人のデザイナーや建築家に憧れていたので、家族とも相談した結果、日本でデザインを学ぶという考えに至り、高校卒業と同時に単身日本へ。都内で語学学校に通う傍ら美大の予備校でも学び、無事に武蔵野美術大学の建築学科に合格できました。

また大学3年生の時に交換留学制度に応募し、ニューヨークの美大で1年間インテリアデザインを学びました。日本に来てから英語を使う機会がほとんどなかったので、米国留学前はスカイプでフィリピン人の先生と会話の練習をして英会話の基礎をたたき込んだことが懐かしいです。卒業制作では、店舗のデザインと、そこで売りたい実物の商品を作りました。 徹夜続きで大変でしたが、とっても面白かったですよ!

就職活動を経て、現在は大手ゼネコンのグループ企業で空間・インテリアデザインを担当しています。私は三ヶ国語を使える事もあり、海外プロジェクトを担当することが多く、現在は東南アジアや中華圏などで、高級ホテルや分譲住宅のデザインを担当しています。クライアントは世界展開をするグローバル企業で、ホテルの新築プロジェクトに携わった際には、入社して半年にも関わらず現地へ出張する機会を与えて頂きました。海外を行き来して現地の文化や地域性に触れ、デザインに活かせる今の仕事に、やりがいを感じています。

■現在のお給料はどうですか?

台湾最大の都市・台北で同じ業種で就職した場合と比較すると、今のお給料は2~3倍くらいでしょうか。その分、日本は物価も高いのですが……。

日本のデザイン系の会社は激務で知られていますが、幸運なことに私の会社はワーク・ライフ・バランスにも気を配ってくれています。残業代もしっかり頂けますし、スケジュールは自分で管理できて休みも取りやすく、満足しています。

■今の仕事で気に入っているところ、満足を感じる瞬間は?

やはり自分がデザインに携わった建物が、実際に完成した時ですね。私自身、観光でも出張でも滞在したホテルで訪れた国の印象が変わります。自分がデザインしたホテルで過ごしたお客様がそこでリラックスした時間を過ごし、素敵な旅のお手伝ができていると思うと、とても嬉しいです。

■逆に今の仕事で大変なこと、嫌な点は?

母国語では尊敬語や謙譲語の表現が無いので、入社当初は敬語が上手に使えずとても苦労しました。そのため電話でよく聞かれることをピックアップして、適切な返答をシミュレーションして書き出した「マイ敬語ガイドブック」を個人的に作っています。

語学学校で習った日本語は、実は大学では殆ど使いませんでした。英語でも同じですが、日本人の同級生は省略など若者言葉で話し、誰も「です」「ます」などとは言いません。最初は正直、彼らが何を話しているか分からなかったのですが、次第に慣れて自分も使いこなせるようになった所で社会人に。お客様に若者言葉は使えませんから、入社後しばらくは、ビジネス用語集をインターネットで調べていました。

■日本人のイメージは? あるいは理解しがたいところなどありますか?

気配り・気遣いが非常に細やかなイメージです。仕事でもお客様が求めている以上の事を予測し、サービスを提供している現場を目の当たりにし、日々感心しています。その気配りが日本の「おもてなし」文化につながっているのだと思います。電車の中やホームでの待ち時間なども、皆騒がずに秩序を守っていますね。ただ、自分もそうしなければというプレッシャーが常にあります。

一方で、周りを気にしすぎているなぁと感じる時もあります。職場でのちょっとしたおしゃべりでも、周りを不快にさせないように全員が気をつけて話している印象があります。私は美大出身で、4年間割と個性的な人に囲まれて過ごしてきたので、会社に入り最初はどんな話題を選べば話せば良いのか悩んだ事ところがありました。台湾人は思ったことをそのまま表情や言葉で表現する人が多いので、日本では相手が言っていることの真意が解りかねる事がたまにあります。

■最近TVやラジオ、新聞などで見た・聞いた日本のニュースは何ですか?

東京オリンピックのデザインを巡るニュースです。新国立競技場やエンブレムのデザインがどうなるのか、1人のデザイナーとして注目しています。特にエンブレムのニュースは、どういった背景があったのかは分かりませんが、私の仕事でも同様の問題は起こりうる可能性があるので、とても気になりました。

■あなたの「マストビジネスアイテム」を教えてください。

常にバッグに入れているのは、三角スケールとメジャーですね。三角スケールは図面を使う打合せには必需品なので 常に持ち歩いています。メジャーはプライベートで良い家具や凝った内装を見かけた時に、職業柄寸法を測りたくなるのでこちらも必須です!

仕事でもプライベートでも、三角スケールとメジャーは手放せない

■休日の過ごし方を教えてください。

週末は美術館巡りをすることが多いです。お気に入りは六本木ミッドタウンの「21_21 DESIGN SIGHT」。台湾の家族を連れて行ったこともあります。

また仕事のためにも都内のホテルを見学したり、レストランで食事したりすることも最近多いかな。

それと、台湾にいる家族への電話も欠かせません! 私に限らず台湾人は両親や親戚との繋がりがとても強く、私も週に一回以上は必ず電話やSkypeで話をしますよ。

■将来の仕事や生活の展望は?

今はまだ分からないことが沢山あり、先輩や上司に迷惑をかけてばかりいますが、いつかは自分の事務所を持ちたいという夢があります。「和色」と呼ばれる落ち着いた色彩や、空間と運営が一体となった徹底したホテルのホスピタリティ、また歴史と文化が感じられる建築関係の独特な専門用語などなど、日本人では当たり前と思っている事でも、外国人の私からすれば日々新たな発見の連続です。そんな日本独自の素晴らしさを、外国人である私の感性を通じてデザインとして世界に発信できる日がくればと思っています。

デザイン見学も兼ねて、都内のホテルで食事