さて、崎陽軒の「シウマイ弁当」は、駅弁からスタートしたのは確かだが、今ではその枠を越え“横浜名物”とまでいえる存在となった。駅での販売はもちろん、デパートやスーパー、自前のレストラン、横浜スタジアムなど販売チャネルは多岐にわたり、今やその知名度は全国区だ。このように、各地の駅弁がその土地の名物となり、全国に名が知れわたるかどうかが生き残りのカギともいえる。群馬県の横川・高崎で根を張る「峠の釜めし」や、北海道・森駅を発祥とし函館名物にまでなった「いかめし」などは、シウマイ弁当と同じく全国区への歩みをゆるぎないものにしている。

知名度の高い「峠の釜めし」(左)と「いかめし」。このほか、高崎の「だるま弁当」や富山の「ますのすし」も名をはせている

では、どのように全国区になっていくのか。「峠の釜めし」も「いかめし」も、都内で行われているあるイベントの常連メニューとなっており、それを足がかりにして首都圏にファンを増やした面がある。そのイベントが京王百貨店・新宿店で毎年1月に行われている「元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」だ。同イベントは、期間中の売上が6億円を超える京王百貨店が手がける最大級の催しで、1966年から51回も続く歴史を誇る。

イベント内で行われる「駅弁大会」で上位に選出された駅弁の人気に火が付き、全国区に躍り出たということも少なくない。事実、いかめしは第1回大会で1位を獲得。以降、ランキングの常連となり、全国に知れわたるようになった。

取材した当日は、首都圏に今年初の大雪が降り、交通機関に大ダメージが生じた日だったが、会場内は多くの“駅弁ファン”でにぎわっていた。それでも担当者によると「例日よりも少ない客入り」だという。客層をチェックしてみると、筆者が注目している外国人客はほとんどみられなかった。むしろ、お目当ての駅弁ブースにサッと並び、弁当を手に入れると併設された休憩所で味わう手慣れた客が多いように感じられた。歴史が長いイベントだけにリピーターが多いのだろう。また、新宿ではなく、浅草から秋葉原、有楽町にかけての“インバウンドの通り道”ともいえる地域周辺の百貨店で、このような催しが行われれば、客層は違ってきたかもしれない。

会場を見わたすと、牛肉素材と海鮮素材が駅弁の2強という印象(写真左・中央)。前述した台湾の駅弁も販売されていた。日本の多くの駅弁と異なり、透明パッケージを採用する(写真右)

余談だが、この日は「のどぐろと香箱蟹弁当」ブースの行列が目立った。北陸新幹線開通でわく石川県の名産であること、テニスの錦織選手が「のどぐろが食べたい」と発言して話題になったことが影響しているのかもしれない。

長い列が生じていた「のどぐろと香箱蟹弁当」のブース

いずれにせよ、“駅弁は駅で買うもの”という至極まっとうな常識から離れなければ、窮地に追い込まれている駅弁の浮上は困難だろう。インバウンド観光客という新しい需要取り込みと、駅以外の販売チャネルの確保といったことが、駅弁復活の課題になるといえる。

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