なぜIBMがクラウド事業に突き進むか

では、なぜIBMがクラウド事業へとまい進するのかという点だが、「高収益」で「安定した事業」という理由が大きいと考える。かつてのIBMは「メインフレーム」と呼ばれる巨大な中央集権型コンピュータ(サーバ)を主軸に、事務機器メーカーとして周辺のハードウェア機器を販売するメーカーだった。

ハードウェア販売は高い売上を実現する一方で、競争の激化から利益率は低くなる一方ということもあり、IBMはしだいにサーバや一部ストレージを除いたハードウェア事業からの資産売却による撤退を始め、2000年代にはソフトウェアのライセンス販売とコンサルティングを中心とした事業体制へとシフトしていった。

ただ、市場の変化はIBMの想定以上に激しかった。同社はハードウェアからは完全に撤退していなかったが、その理由は高収益なサーバ事業を中心にあえて残すことで、これを軸にコンサルティングとソフトウェア販売で収益を上げるモデルを想定していたからだ。

だが、市場のトレンドとしてはクラウド利用が進んでおり、ハードウェア販売が不振に陥ったことで、残りのコンサルティングとソフトウェアも含めた収益モデルにも影響が出始めた。そのため、前述のSoftLayer買収やデータセンターへの大規模投資、「Watson」を活用した新しいサービスの開拓など、ニーズの大きい分野への移行を推し進め、ユーザーの要望に応えようとした。

またクラウド事業の副産物として、顧客ユーザーをデータセンターで抱えることで「一定の収入が安定して入る」というものがあり、エンタープライズ市場における「景気によって企業の設備投資が大きく増減する」といった現象を緩和する効果も期待できる。いずれにせよ、事業シフトの過程で売上の減少が続くIBMだが、このクラウド戦略が成功すれば、遠からずその効果は業績に現れることだろう。