最新のITテクノロジーと融合しはじめた世界最大のリテーラーイベント

NRFが主催する「RETAIL'S BIG SHOW 2016」公式サイト

「いかに売るのか?」個人消費は、いうまでもなく経済の大きな柱のひとつだ。小売業界はその最先端で研究を重ねている。2016年1月17日から20日(現地時間)にニューヨークで開かれた祭典「RETAIL'S BIG SHOW 2016」は、世界中の小売業界や流通業界が注目するイベントだ。全米小売業協会が主催するこのイベントでは、最新のリテールビジネス事例やソリューションが紹介される。講演者は300人を越え、世界的なブランドを持つメーカーやリテーラーが顔を揃え、最新の事例や研究結果を披露する。

The National Retail Federation(NRF:全米小売業協会)は、世界最大のリテール協会であり、デパートストアやチェーンストア、カタログ、インターネットリテーラーまで広範なジャンルを世界規模でサポートする団体である。前身であるNational Retail Dry Goods Associationの設立が1911年。以来、消費資本主義の本場である米国において、百年以上にわたる歴史を持ち、同イベントも今年で105回目を迎えている。

The North FaceのAIプラットフォーム。IBMの人工知能ワトソンと連携している。対話的に答えていくことで、目的の商品へとたどり着く

IT技術が絶え間なく進化する現代。100年前では想像もつかなかったようなIT技術が至る所で紹介されている。たとえば人工知能もそのひとつ。アウトドア用品や登山用衣服などを手がけるThe North FaceがIBMの人工知能ワトソンと提携し、ユーザーを対象に60日間にわたり同社のオンラインショップで検証を行ったことを披露している。現在でもベータ版として公開されているが「WHERE AND WHEN WILL YOU BE USING THIS JACKET?」と尋ねるワトソンと対話していくことで目的の商品へとたどり着ける。実際に試してみると、その精度はもちろん、楽しさも提供してくれる。心地よく満足のいく買い物ができそうだ。75%のユーザーが再度利用したいという意向を示し、ユーザーの滞在時間も以前よりも2分増加しているそうだ。

NRFが発表している「Top 100 Retailers」。米国内のビッグリテイラーたちの熾烈な競争がみえる

NRFが発表しているリテーラーのランキング「Top 100 Retailers」は、米国内でのセールス金額をもとに試算されたもので、各年のランキングがWebページにも掲載されている。

米国内でのセールスにおいて、2008年から2015年を通じての1位は、不動のウォルマート。だが、2009年度版(2008Sales)の19位からランキングに現れるAmazon.comは、2010年度版(2009Sales)の26位を経て、2011年度版(2010Sales)の19位、2012年度版(2011Sales)の15位、2013年度版(2012Sales)の11位、2014年度版(2013Sales)と着実に順位を上げてきた。2015年度版(2014Sales)は9位と前年同順位だが、米国内売り上げで20%を超える対前年成長率を維持している。オンライン販売を専業として行うAmazonの売り上げが、消費大国である米国のリテール全体の中でも際立つ伸びを示している。

2015年末に見られたスマートフォン経由による購買の著しい増加

著しい成長を見せるEC市場だが、なかでも最近各社から発表されているスマートフォンやタブレットを中心としたモバイル経由での購入上昇の兆候は見逃せない点だ。

中国の電子商取引大手アリババ・グループ・ホールディングスは、2015年11月11日のバーゲンセール取引額が1日で912億元(約1兆7620億円)に達し、売上高の68%がモバイル機器での受注だったことも明らかにしている。Amazonも2015年の感謝祭から年末にかけてのホリデーシーズン期間中、70%のユーザーがモバイル端末を通して購買していることを発表した。

また、Adobeが1月に発表した最新の米国のリサーチ結果では、2015年のホリデーシーズンにおけるオンライン消費を昨年比12.7%増と推定している。スマートフォン単体でのトラフィックが、デスクトップを追い抜く期間があったことに触れている。クリスマスや年末の期間とあって、各社工夫を凝らしたキャンペーンを展開するホリデーシーズンではあるが、例年に無いスマートフォンの勢いが特徴として出始めていることがわかる。

日本においても、同様の傾向が経済産業省のデータから読み取れる。昨年5月に公開された「平成26年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」では、2014年のBtoC-EC市場規模を12兆7,970億円(昨年度比14.6%)と試算、BtoC-EC分野のトピックスとしてスマートフォン経由の売上げの上昇を採り上げている。ヤフーや楽天、千趣会、ニッセン、スタートトゥデイといった日本ECプレイヤー達の直近のスマートフォン経由での売上げが2014年の時点で目覚ましく上昇している。中には、売上げの過半数がモバイル経由である企業も現れている。

FRB(連邦準備制度理事会)が公開している「Consumers and Mobile Financial Services 2015(PDF)

これらスマートフォンを含むモバイル端末による購入については、世代で見た象徴的なデータもある。FRB(連邦準備制度理事会)が2015年の3月に出した「Consumers and Mobile Financial Services 2015」は、消費者のモバイルによるオンラインバンクや購入動向の米国内での調査レポートだが、2011年から2014年の間、過去1年間のモバイルを使った支払いの有無について世代を区切ってヒアリングしている。各年を通して18-29の世代が常に高い数値を示すが、徐々にその世代が高齢層へと広がっていく様子がうかがえる。モバイルコマースは当面衰えることはなく拡大を続けていくことになる。

モバイル経由での購買が増えるなかでは、あらためてモバイルファーストな取り組みが重要となってくる。当然、Amazonやウォルマートもスマートフォンアプリには力を入れている。

モバイルファーストな時代にまず優先的にすべきこととは?

オムニチャネルというキーワード。"オンラインと実店舗を融合させ顧客にシームレスな体験を提供する"、"デバイスを問わずすべての顧客接点を統合する"など、多義的に言及されることが多い。このキーワードに戸惑う声もWeb上に散見される。各小売店のIT化の状況や規模によって、ケースバイケースで随分とやることが異なってくる。

EC化が進んでない店舗では、実店舗との融合は先の話になるだろうし、集客や顧客のリスト化が進んでいないECサイトでは、適切なタイミングでのキャンペーン戦略も限られてくる。取り扱う商品によってシームレスな体験も変わってくるだろう。NRFは、オムニチャネルについてまずすべきことを「OMNICHANNEL RETAIL INDEX 2015」と題した資料で提示している。120のリテーラーの200Webサイトを通じて調査し、そのポイントをまとめたものだ。何からはじめれば良いのかに戸惑う場合の指針のひとつになる。

1.Mobile-OPTIMIZED EMAILS モバイルに最適化されたEmail
54%のリテーラーがこれを利用している

2.MOBILE-OPTIMIZED SITE モバイルに最適化されたWeb
95%がモバイルに最適化されたWeb

3.ONLINE CUSTOMER SERVICE OPTION
35%が商品ページにライブチャットシステムを導入、75%がモバイルサイトにクリックコールを設定している

4.FLEXIBLE SHIPPING OPTIONS 柔軟な配送オプション
77%が店舗からの自宅配送を行っている一方、わずか28%しかオンラインで購入し、店舗で受け取ることを認めていない

5.RETURNS 返品
70%がオンラインでの購入品の店舗での返品を認めている

6.MARKETING OMNICHANNEL SERVICE オムニチャネルサービスをマーケティングする
46%がオムニチャネルサービスを展開していることを店舗に掲げている

7.LOYALTY PROGRAMS ポイントサービス
48%がオンライン / オフラインで互換性のあるポイントサービスを行っている

8.INVENTRY LOOK-UP 在庫調べ
49%がモバイル端末での店舗在庫情報を提示している

本質的なメッセージを伝えられるか?

NRFのWebサイトにはカタログを中心としたリテールを展開する企業Coldwater Creekのストーリーも掲載してある。1984年に設立した同社は、店舗を400店構える盛況をみせるが、不景気の煽りを受け2014年に廃業にいたる。同社は再建へいたる道程のなかで、原点回帰となるカタログへの復帰を図る。店舗ではなくオンラインに焦点をあてたカタログビジネスは2015年の春にスタートし、400%から500%にのぼる売上げ増加を達成したという。

カタログが持つ創造性やストーリーは、編集者やライター、モデル達が創意工夫を凝らして商品の魅力を引き出す。それは、価格表や機能表だけでは伝えられない魅力だ。

日本においてもカタログを展開する企業は数多くあるが、紙媒体を中心に落ち着きのある層をファンとして取り込んできた実績がある。これはなかなか歴史の浅いインターネット企業には真似ができないチャネルだ。

オープンで開かれたデジタルの世界では、いわゆるデジタルネィティブたちが毎年出現しては、顧客として増え続けていく。この層を従来の層と同様にWeb、媒体を問わずいかにファンとして取り込んでいくのがとても重要になっていくのだと思う。