日本のTVアニメ視聴者の間で、「お布施」という言葉が使われることがある。自分たちの愛好する作品を支持する意味をこめて、映像ソフト(Blu-ray、DVD)などの関連商品を買うことを指している。

言ってしまえば単なる「ファンの買い物」だが、それを「お布施」と呼ぶのは、その金額によるところが大きいだろう。1クール(3カ月)ごとに40~50本ものアニメが入れ替わり「無料」で地上波放映されている一方で、ひとつの作品を支持しようとした時の金額は高くなりがちなので、それが購買行動を「お布施」と呼ばせる所以となっている。例を挙げると、近年Blu-rayでのリリースが主流で、多くの特典が付属する映像ソフトは1本およそ6,000~9,000円、放映期間によるが平均して1作品あたり全5~10本。1作品分コンプリートするとなると、「お布施」は映像ソフトだけで10万円に迫ることもある。

このほかにもグッズやCD、イベントなど、すべて追いかけようと思うと大変な出費になっていくし、制作会社側の「取り分」を気にして、「円盤(映像ソフトを指すネット用語)を買うだけで良いのか」と購買行動に悩むファンすらもいる。それくらい、「好きな作品の作り手」の取り分に意識的だ。

そんな状況を受けてか、アニメ専門のクラウドファンディングプラットフォーム「OFSEA.IO」の立ち上げが発表された。このプラットフォームの立ち上げ人はアニメ業界関係者ではなく、2015年に設立されたばかりのベンチャー企業の代表で、職務経歴で言えばエンジニアだ。

なぜまったく異なるフィールドから、Webサービス立ち上げを決意したのだろうか。本誌では、「OFSEA.IO」運営元のeurie代表・池内孝啓氏にインタビューを実施。まだティザーサイト公開段階のため話せることは少ないとしながらも、立ち上げの目的を語っていただいた。

eurie代表・池内孝啓氏

――さっそくですが、「OFSEA.IO」立ち上げの理由を教えてください。

日本のアニメファンが持つクリエイターへの投げ銭に対する前向きなカルチャーと、クラウドファンディングの仕組みは相性が良いと思っていまして、少額からアニメ作品への支援ができるような仕組みを作りたいと考えたからです。

――サービス名の由来は、やはりアニメへの「お布施」というネットスラングから取られているのでしょうか?

はい。仰るとおりです。読みは「オフセア」で、アニメファンが使う言葉としての「お布施」から取っています。

とはいえ、「お布施」という言葉が先行すると、コアなアニメファン以外には誤解を生んでしまう懸念もありましたので、Webサービスらしい字面にしました。「.IO」は近年よくWebサイトで使われるドメインで、「IN/OUT」にかけています。また、これは後付けに近いんですが、「OFSEA」を分解すると「OF SEA」になり、イルカの祖先からとった社名「eurie」とのイメージの近似も意識しました。

――「お布施」というネットスラングは、TVアニメの作り手への資金還元の意志を示すものだと思うのですが、このプラットフォームでは、TVアニメの作り手が関係するプロジェクトは進行予定でしょうか?

深夜アニメ、ファンが「円盤」の購買について考えているような作品のプロジェクトを公開すべく、現在アニメーション制作に関わる企業にアプローチしているところです。

深夜帯に放送されているアニメは、作品のみならず制作会社自体にファンがついていることも多くありますし、コアなファンがいればいるほど、このサービスを利用してくださるのではと考えています。

「OFSEA.IO」

――ご自身の好きなアニメやクリエイターについて教えてください。

うーん……たくさんありすぎて困ってしまいます(笑) そうですね、今敏監督の『パプリカ』を劇場で見た時、大きな衝撃を受けました。『イブの時間』『逆さまのパテマ』を手がけた吉浦康裕監督の作品も素敵だと思います。

――同プラットフォームのターゲットにされている、深夜帯のTVアニメで好きな作品は?

最近のものでは、P.A.WORKSの「SHIROBAKO」を興味深く拝見しました。「お布施」の行き先であるアニメ制作現場を舞台にした作品ですし、放映終了後もイベントを開催するなど、今も多くのファンを抱えている作品だと思います。同社が手がけること自体へのファンの期待度も高いですよね。このほか、京都アニメーションの「響け! ユーフォニアム」も好きです。

――今名前の挙がったような制作会社にもアプローチをかけているのでしょうか?

具体的な企業名はまだ出せる段階にないのですが、今現在活躍している会社にご協力いただけるよう動いているところです。

――アプローチ先の関係企業の反応はどうでしたか?

まず、クラウドファンディング自体の認知があって、どういった仕組みでプロジェクトを動かしていくのかが通じる下地があるのは助かりました。率直な反応としては、「上手く行くならやってみたい」「本当に人が(プラットフォームに)来るの?」というような声をいただきました。

プロジェクト掲載の可否は、アプローチ先の約半数から前向きにご検討いただいている、というような状況です。クラウドファンディングでファンから支援を集めるということ自体が特別なことではなくなるように、これからもアプローチを続けて行きたいです。

――プロジェクトの立ち上げから提案しているとのことですが、これまでもそういった企画職などを経験されてきたのでしょうか?

いいえ。データ分析を行う企業「アルベルト(ALBERT)」でサービス開発からマネジメントまで経験させていただいた後、2015年に独立して起業しました。アニメ業界の関係者ではないのですが、いちファン、いちIT技術者という立場だからこそ行動を起こせることがあると思っています。

――では、ゼロからアニメ業界にアプローチされているのですね。会社内プロジェクトなどではなく、独立したきっかけは何だったのでしょう?

昔からテレビアニメや劇場アニメをよく見ているのですが、素晴らしい作品にであって感動したとしても、その気持ちや体験を作り手に還元できる場がほとんどないことに、1ファンとして歯がゆさを感じていたのが根底にあります。

もちろん、アニメ作品に還元する手段として、すでに「『円盤』を購入する」、「映画館に足を運ぶ」などの方法はあります。しかし、製作前、また制作段階など、これらの手段に到達する前であっても、何か作り手に手渡す方法があれば、ファンとしても嬉しいし、それがクリエーターへの応援に繋がれば、よい循環を生むのではないでしょうか。

日本のアニメという文化の継続発展という意味でも、現状よりもより多くのお金をスムーズに流していく仕組みづくりは必要だと考えています。

起業に関しては、前職の起業マインドを大切にする社風に感化されたのは大きいですね。同社は昨年上場し、人数も在籍当初の20人から100人にまで増えるなど、会社の成長を見届けられたことも手伝って、独立を決めました。

――話が戻るのですが、プロジェクトの公開ペースはどれくらいになりそうですか?

アニメ制作にまつわるプロジェクトを想定しているので、いわゆるTV放送の「クール」に沿って動いていくと思います。

とはいえ、作品の放映に対する支援だけをプロジェクト化するのではなく、イベントなどを含め、作品を継続的に支援できるような場にしていきたいです。過去の人気作のプロジェクトも今後進行できればと思います。

――プロジェクトに対してユーザーが行う支援額はおよそどれくらいになりそうですか?

各プロジェクトのオーナーの意向によるので定額にはならない想定なのですが、1,500円~数千円まで、目安として「円盤」(Blu-rayディスク)よりもやや安いくらいのほうが、支援者も抵抗なく参加できるのではと考えています。逆に、より付加価値の高い数万円~のプランを用意していただいてもよいかと想定しています。

――クラウドファンディングは近年国内でも浸透してきており、大手企業が運営する日本発のプラットフォームも複数出てきています。ある程度市場が成熟してきた中で、あえて「アニメ」というピンポイントのジャンルを狙った新規プラットフォームを立ち上げた狙いは?

確かに国内にもさまざまなプラットフォームがすでにあり、それぞれの「色」をお持ちです。しかし、海外から始まったクラウドファンディングのムーブメントのイメージからか、スマートウォッチなど「かっこいいモノ」への支援プロジェクトが主流だと感じています。

こういった「場」では深夜アニメの支援プロジェクトが多く立ち上がるのは難しいでしょうし、先行事例に準ずるとすれば、ガジェットのような精密機器を輸送するケースを想定しないといけないので、ローンチまでに物流コストへの対策をより突き詰めていかなくてはなりません。

アニメというジャンルに特化するデメリットとしては、プロジェクトの数が(他のプラットフォームと比べて)どうしても少なくなるところでしょうか。しかしながら、間口を狭めたからこそ求められる独自の機能があると思っているので、そういった方向に向かって進んでいきたいです。一例としては、制作した作品を OFSEA.IO で支援者向けに配信できる機能追加を今後搭載できないか、試行錯誤しているところです。

――最後に、同プラットフォームに注目している読者へ、一言お願いいたします。

アニメを観て得た感動を作り手に還元する方法は、現状、「『円盤』を買う」など限定的な方法しかないと思っています。ですが、ソフト化は放映半ば~放映後に行われるので、作品を「作っている」放映前の段階、そして放映中の作品への気持ちのやり場は整備されていません。ティザーサイト公開後、メールで「こういうのを待ってました」というコメントをいただき、大変励みになっています。

ティザーサイトでも公開していますが、今年の早春からサービスを公開できればと考えています。ファンの皆さんにはこの歯がゆさを解消する「円盤」とは別の仕組みとして利用していただけたらと思います。良い作品が生まれ、良い作品を楽しめる循環を生む手助けをしていきたいです。