今年のCESでAV技術をウォッチする関係者の度肝を抜いた展示があった。ソニーが「技術展示」として公開した「Backlight Master Drive」(BMD) がそれだ。現在、テレビ製品の最前線では4Kに加え「HDR」の導入が進んでいる。簡単にいえば、BMDもHDRをよりうまく再現するために開発された技術といえる。

HDR時代のテレビは輝度が要

CES 2016開催前日のプレスカンファレンスで公開された、4Kテレビ向けの次世代技術「Backlight Master Drive」。プレゼンターは、Sony Electronicsのマイケル・ファスーロ氏

HDRは、光のダイナミックレンジを広げて再現性を高める技術で、カメラや写真の世界では何年も前からおなじみかもしれない。カメラのHDR機能は「同じ写真データの中で光の濃淡の表現を最適化して表す」ものだが、テレビのHDRはそれとは異なる。

ここ最近のテレビで言われるHDRは、これまで狭い幅で伝送されていたデジタル映像データを、大きな幅でやりとりし、輝度を高めたテレビで光の濃淡をよりうまく再現しよう、というものである。例えば、夕日を反射してきらめく水面やスポットライトがあたるステージ、夏の日差しなど、強い明るさの部分がリアリティをもった明るさで表現されるようになる。暗い部分も表現力が高まり、「暗い中のほのかな色」まで見えるようになる。

HDRを正しく再現するには、明るい部分をとにかく明るくできること、そして逆に、暗い部分を本当に暗くできることが重要だ。液晶はそうした「コントラストのある絵作り」が苦手なデバイスだが、これまでもバックライトを工夫することでハードルを超えてきた。

具体的にいえば、HDR対応機種はパネル (導光板) の裏側にバックライトを並べる「直下型バックライト」でカバーするものがほとんどだ。一般的な液晶ディスプレイで使われる「サイドライト」では、明るいところと暗いところを細かく分けるのが難しく、HDRの精細なダイナミックレンジ表現には向かない。

プレスカンファレンスでBacklight Master Driveの説明に用いられたスライド。直下型のLEDバックライトの数を飛躍的に増加させたという