金融(Finance)と技術(Technology)をかけ合わせた造語となるフィンテック(Fintech)。2015年は日本において「Fintech元年」と言われるほど、多くの人から注目を集める分野となった。

自動家計簿・資産管理サービス「マネーフォワード」やビジネス向けクラウドサービス「MFクラウド」シリーズを提供するマネーフォワードは、昨年7月に「Fintech研究所」を設立した。これまで月に1回程度、勉強会を開催してきたという同研究所は、1月15日に新年初となるイベントを開催した。

そこで、マネーフォワード 取締役 兼 Fintech研究所 所長の瀧俊雄氏は、2015年のFintechの振り返りと同時に、2016年の動向を予測した。急成長しているFintech業界だが、2016年はどのような動きがあるのだろうか?

2015年、何が変わった?

国内サーチ数を見ると、2015年、Fintechは右肩上がりで注目が上がっていった1年であることがわかる。

「Fintech」の国内サーチ数トレンド

「中でも大きなフックとなったのが政策面の変化」と瀧氏は言う。

「金融審議会と経済産業省という2つの大きな舞台において、ハイペースで検討が進み、いくつか実態をおびた政策が見えてきた」(瀧氏)

例えば、金融庁では「決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ 」や「金融グループを巡る制度のあり方に関するワーキング・グループ」が発足され、Fintechに関する検討がなされてきた。経済産業省でも、「FinTech研究会」が開催され、新産業としての政策検討がなされた。

今後の政策面の動向について、瀧氏は「予想というより、すでに見えている注目トピックス」として、以下の7つの項目を挙げた。

  • 銀行によるFintech企業への出資
  • 携帯電話番号を利用した送金サービス
  • ブロックチェーン技術に関する検討
  • 銀行システムのオープンAPIの検討作業部会
  • 銀行と利用者の間の「中間的業者」への制度整備
  • キャッシュアウトサービス
  • ビットコインにおけるマネロン規制・利用者保護

「1年くらい前の世相から考えると、かなり未来に起きることじゃないかと思っていたことが具現化している。政策的なスピード感は、他国に負けていない印象」と瀧氏は言う。

また、金融機関やSIerでも変化のある1年だった。

「メガバンクから地方銀行に至るまで、さまざまなFintechの動きが見られた。また、NTTデータや日立などさまざまなSIerが、これまではR&D的な要素が強かったFintechの業界において、より具体的な実アクションが見られるようになり、目まぐるしいスピードで変化してきた」(瀧氏)

銀行ではAPI提供などの動きが見られ、ブロックチェーンといった技術も注目されるようになった。

しかし、「まだまだ日本のFintech企業の数は少ない」という。

「欧米の統計では、日本のFintech企業の数は100社弱と表現されることがあるが、アメリカではしっかりファンディングを受けた企業だけでも1300社以上挙げられる。まだまだ日本では、起業促進させる余地がある」(瀧氏)

日本のFintech企業数

2016年、Fintechはどうなる?

マネーフォワード 取締役 兼 Fintech研究所 所長 瀧俊雄氏

瀧氏は、ガートナーが提唱している、技術的なトレンドやキーワードの変遷のあり方を示す「ハイプ・サイクル」を元に、2016年のFintechを予測した。

この「ハイプ・サイクル」では、テクノロジーのライフサイクルを、「黎明期」「"過度な期待"のピーク期」「幻滅期」「啓蒙活動期」「生産性の安定期」の5つのフェーズに分けて考えられている。

「昨年の状況を考えると、広いテーマを持ち、単純には理解することが難しいFintechに対して、期待値が高まった1年ではないだろうか。一度注目を集めると、その後一度落ちる(幻滅期)ことになる。今、ひょっとするとFintechはピーク("過度な期待"のピーク期)で、いったん幻滅期を迎えるかもしれないが、その後に回復期(啓蒙活動期)と安定期を目指すようになる。安定期では、Fintechという言葉は世の中で、ある種過去のものになっていて、次のテーマが生まれてくるタイミングとなるだろう。このサイクルは3~10年で回ると言われているが、Fintechは昨年1年で最初の山を登りきった印象を受ける。もう1年後には、安定期に向けて登り始めるあたりにいるのではないだろうか」(瀧氏)

では、安定期を迎えた後は、Fintechはどのような状況になっているのだろうか?

「より決済の中でも、違う習慣が根付いているのではないだろうか。融資においてもいろいろなビッグデータの使われ方が模索されたり、資産運用においてもお金のデザインが提供しているロボアドバイザーが常にチョイスの1つに存在しているなど、さまざまなキーワードの中でのイノベーションへ、関心が移っていくだろう」(瀧氏)

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各社さまざまな検討や実証実験が行われているFintech。2016年も動向に注目していきたい。