【レポート】

AMDの次世代アーキテクチャ「Polaris」、そしてグラフィックスビジネスにおける今後の製品戦略

 

AMDは、2016年半ばに市場投入を計画中の次世代アーキテクチャGPU"Polaris"(ポラリス:北極星)で巻き返しを図る。同アーキテクチャは、FinFET(3D構造の半導体プロセス)に最適化するとともに、シングルスレッド性能を高めるなどして、大幅に消費電力あたりのパフォーマンスを向上させるべく開発された。

Radeon Technologies Groupを率いるRaja Koudri氏

AMDは、2015年9月9日に、より独立性を持った企業内グループとして、GPU部門を「Radeon Technologies Group」(RTG)として立ち上げたが、その製品戦略などを、さる12月3日に米カリフォルニア州ソノマ市において記者向けに説明した。

Polarisこと北極星は、太古から航行などの道標としても知られるとおり、AMDにとって次世代アーキテクチャ"Polaris"は、その名が示す通り、同社製GPUの方向性を示す画期的な進化を目指す。

その最大の特徴は、省電力性能の向上だ。RTGを率いるRaja Koudri氏(Senior Vice President and Chief Architect, Radeon Technologies Group)は、Global Foundriesの14nm FinFETプロセスで製造された最初のPolarisアーキテクチャチップを披露し、競合製品とのパフォーマンス比較を公開した。

AMDのRadeon Technologies Groupは新GPUアーキテクチャ“Polaris”を2016年半ばに市場投入する計画を発表

Polarisアーキテクチャの強化点

その様子は、YouTubeでも公開されているが、Intel Core i7-4790Kをベースとしたシステムにおいて、STAR WARS BATTLE FRONTを動作させるPolaris GPUと、GeForce GTX 950の比較デモを実施。Polarisベースのシステムが90W弱のシステム消費電力で1080p/60fpsのミディアムセッティングを動作させられるのに対し、GeForce GTX 950では150W前後を必要とするとして、Polarisの省電力性をアピールした。

STAR WARS BATTLE FRONTのデモでは、Polarisの省電力性をアピール

Polaris搭載システムの消費電力は85W前後

対するGeForce GTX 950搭載システムは150Wを超えることも

このデモに使用したPolarisのベータチップは、12月3日の記者説明会で公開されたが、撮影は許されなかった。ただし、Kudori氏が「最初のPolarisチップは、モバイル向けに設計されたものであり、デスクトップ向けにもメインストリーム製品として展開することを計画している」と説明するとおり、かなり小さなチップに仕上がっていた。

その一方で、メモリについては「メインストリーム製品は、GDDR5を継続して利用していく」というとおり、HBM(High Bandwidth Memory)は採用されていない。その一方で、「今後、複数のGPUを展開していく」(Kudori氏)として、HBMを採用するPolarisアーキテクチャGPUの存在についても開発を進めていることを示唆した。

Polarisは、FinFETプロセスに最適化された設計が施される

FinFETプロセスは、パフォーマンスと省電力性の両面で、これまでの28nmプロセスを上回る特性をもたらす

Polarisのベースとなるのは、大幅にアーキテクチャを刷新した第4世代のGCN(Graphics Core Next)だ。AMDでGPUのアーキテクチャ開発を指揮するMike Mantor氏(Corporate Fellow、Graphics Architecture)は、この第4世代GCNアーキテクチャにおいて「命令キャッシュサイズを増やすことで、シングルスレッドパフォーマンスを向上させた。また、コントロールフローなどにも手を入れ、省電力でもすぐれたパフォーマンスを発揮できるようにしてた」と説明する。Kudori氏は、現時点ではアーキテクチャの詳細は明かせないとしながらも、

  • 第4世代GCN CU(Compute Unit:グラフィックスコアそのもの)
  • コマンド・プロセッサ
  • ジオメトリ・プロセッサ
  • マルチメディアコア
  • L2キャッシュ
  • メモリコントローラ
  • ディスプレイエンジン

に手を加えたことを明らかにしており、VR世代の3Dコンテンツで必要とされるジオメトリ演算性能の向上や、メモリコントローラの刷新による新しいメモリ圧縮技術の採用、次世代コンテンツ対応のマルチメディアエンジンやディスプレイエンジンを統合していると言う。

Polarisアーキテクチャで強化された機能

Polarisアーキテクチャの主要機能

このうち、マルチメディアエンジンについては、4K解像度のH.265エンコード/デコード機能を統合しているほか、2016年から本格的に普及が進むとされるHDR(High Dynamic Range)コンテンツのサポートなどが盛り込まれる。また、ディスプレイエンジンについても、4KやHDRコンテンツのサポートを強化すべく、HDMI 2.0aやDisplayPort 1.3への対応が図られる。

HDR対応は次世代ビデオコンテンツから

RadeonシリーズのHDRコンテンツ対応について説明するKim Meinerth氏

RadeonのHDR(High Dynamic Range)対応については、すでに現地時間の12月8日に明らかにされているが、AMDがHDR対応と呼ぶのは、2016年前半に市場投入されることが期待されている次世代Blu-rayの「Ultra HD Blu-ray」や、AmazonやNETFLIXが年内に開始する予定のHDRビデオのストリーミング配信のことだ。すなわち、HDR対応ビデオエンジンがマルチメディアコアに統合されるとみるのが自然だろう。

AMDでHDR機能の開発を担当するKim Meinerth氏(Senior Fellow and System Architect、Radeon Technologies Group)は、「映画館では見えていた暗いシーンが、家庭用ビデオコンテンツでは見えない。これは、映画やビデオコンテンツそのものは、より幅広い階調で撮影されているにもかかわらず、テレビ向けのコンテンツでは、十分なダイナミックレンジを与えられていないのが最大の要因だ」と説明する。

現在の一般的なPCディスプレイ環境では、人間が認識する視覚よりも、色や輝度の面で大きく劣っている。これを、HDRに移行することで、より自然な画像が見られるようになる

そこで、米国のコンテンツ業界では、家庭用コンテンツもRGB各色10bitでエンコードすることで、より自然な映像表現を実現すべく動いているのだという。また、テレビやディスプレイなどの映像機器についても、2016年はHDR対応が加速するものとみられ、年末にはより高輝度なLCDや有機EL製品が登場する見込みだと言う。

とはいえ、高価なHDR対応テレビを待つ必要はない。すでにPC用ディスプレイでは、RGB各色10bit出力に対応した製品も数多く存在する。Meinerth氏は、「HDR対応は、1ピクセルあたりの輝度や色情報が豊富になるため、1080pでHDRコンテンツを見ると、4KをRGB各8bitのSDR出力でコンテンツを見たときよりも、よい映像に映るはずだ」と説明する。

もともと、現行GPUの多くは、RGB各10bit出力などをサポートしているが、WindowsやMacOSといったOS側がRGB各8bit出力にしか対応していない。Adobe Photoshopなど、一部のアプリケーションでHDR表示を可能とするプラグインが供給されるにとどまっているが、Meinerth氏は「ビデオコンテンツのHDR化が進めば、いずれOS側でも対応せざるをえなくなるはず」とし、2016年はゲームタイトルのHDR対応や、映像関連ソフトのHDR対応も進むとみている。

HDRコンテンツ再生をサポートすべく、現行のRadeon 300シリーズとPolarisで、HDR対応の高性能トーンマッピングアルゴリズムを開発する計画だ

そこでAMDは、Polarisにとどまらず、現行のRadeon 300シリーズGPUについても、トーンマッピングアルゴリズムの改良や、ファームウエアの改良によるHDMI 1.4bへの対応を果たすことで、HDRコンテンツ対応を実現する考えを示す。

RadeonシリーズのHDRサポート計画

ソフトウェアのオープンソース化によりエコシステムの強化を狙う

さらに、AMDはドライバを含むGPU関連ソフトウェアのオープンソース化を推進し、ゲームやマルチメディアコンテンツなどが、よりGPUに近い階層で実行できるようにする「OpenGPU」を打ち出した。

AMDはGPUソフトウェアのオープンソース化を加速すべく「GPUOpen」を提唱

このGPUOpenのコンセプトは、Mantleによって、DirectX 12や次期OpenCLの“Vulkan”など、GPUをよりダイレクトにコントロールできるAPIが整備されたことを受け、よりGPUを効率的かつ高性能に使えるソフトウェアを、AMDのみならず、ゲームデベロッパやソフトウェアデベロッパの協力を得て、オープンソースコミュニティーで幅広く開発できる体制を作りたいという考えのようだ。

ゲーム分野では、視覚効果(Visual Effect)やドライバユーティリティ、ツールおよびライブラリやSDKがオープンソース化される

GPUOpenのポータル1号はGitHubが選ばれた。すでに、AppleやMicrosoftもオープンソースコミュニティの構築に活用しているポータルサイトだ

GitHubで公開予定のグラフィックリソース

AMDは、OpenGPUの第1段階として、TressFXなどのAMD独自技術やライブラリなどを、GitHubを介してオープンソースコミュニティーに提供していく。現時点では、ゲームデベロッパのOpenGPUサポートなどについては明らかにされていないが、将来的には、ゲームエンジン独自の機能の一部がオープンソースとして提供されるようになれば、ゲーム性能や描画品質の向上に繋がるというのが、同社の目論見だ。

さらに、OpenGPUでは、Linuxコミュニティに対し、カーネルドライバのオープンソース提供を開始し、GPUコンピューティングや組み込み機器向けに最適化したドライバ開発ができるようにもする。

GPUOpenはNVIDIAに遅れをとっている機械学習やHPC分野などのGPUコンピューティングのパフォーマンスを向上させる切り札としても期待される

Linuxコミュニティには、カーネルドライバもオープンソースとして公開される

Linuxコミュニティには、カーネルドライバもオープンソースとして公開される

悪く言えば、AMDのソフトウェア開発リソースでは手が届かない部分にも、オープンソースコミュニティを利用して、新たな実装やパフォーマンス向上(最適化)、バグフィックスなどを加速する試みとも見えなくはない。また、GPUアーキテクチャを丸裸にしてしまうかもしれないリスクもある。

しかし、Radeon Technologies Groupとして、再出発を図ろうとするAMDのグラフィックスビジネスにかける意気込みが感じられる試みであることは確かだ。

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