いよいよ1月10日にスタートする『真田丸』で起死回生を狙うNHK大河ドラマ(毎週日曜20:00~20:45)。脚本に三谷幸喜を迎え、主演は堺雅人と手堅く、NHK有働由美子アナウンサーをナレーションに起用するなど話題を作りだしている。それもそのはず、前作『花燃ゆ』をはじめ、ここのところ大河ドラマは低迷から抜け出せず、かつてのようなヒット作が生まれていない。

『真田丸』は安定の布陣で航海へ

『真田丸』主演の堺雅人

2016年の大河ドラマは、戦国時代に活躍した名将・真田幸村(役名は信繁)が主役。吉田松陰の妹・文(ふみ)では「マイナーすぎる」という声が相次いだ前年の『花燃ゆ』と比べると、王道に戻った。

舞台も『真田丸』は、より描きやすい時代が選ばれている。幕末期から明治維新を扱った『花燃ゆ』も人気のある時代であることに間違いないが、時代考証に厳しい目が向けられた。400年前の戦国時代と比べると、130年前の明治維新あたりは現存する資料が多く、忠実に作られていない場面があると、違和感を覚える視聴者が多かったようだ。

負の連鎖はとまらず、ドラマの肝である脚本家問題も『花燃ゆ』にはあった。時代劇がめっきり減るなか、現代劇は書けても時代劇を得意とする脚本家が育っていないこともあって、『花燃ゆ』の場合は1人の脚本家をたてずに、複数体制を前面に出した。しかし、それも「主人公のキャラクターがブレる」と迷走を指摘する声につながり、裏目に出てしまった。

そんな中、いよいよ"航海"がスタートする『真田丸』。ヒットメーカー・三谷幸喜が脚本を手がけ、『半沢直樹』(TBS系)で最高視聴率42.2%をたたき出した"視聴率男"の堺雅人が主役、脇を固める俳優陣も手堅い印象だ。話題性はまだ足りないとばかりに、ナレーションには、NHK朝の情報番組『あさイチ』の顔である有働由美子アナウンサーを起用する。

大河ドラマの視聴率と傾向

『花燃ゆ』主演の井上真央

ここのところ、大河ドラマは試行錯誤を繰り返している。最大の理由は視聴率が振るわないからだ。2015年の『花燃ゆ』は、歴代ワースト平均視聴率タイとなる12.0%を記録してしまった。これは、2008年に平均24.5%をたたき出した『篤姫』の半分に当たる。

『花燃ゆ』は初回から16.7%と振るわず、初回記録も過去最低。最低と最終回視聴率は、不評のレッテルが貼られた『平清盛』の7.3%(最低)、9.5%(最終回)より上回ったが、最低視聴率は2桁を割り、9.3%だった。

民放のように視聴率が収入に直結するわけでもないが、1話あたり5000万以上、時には1億円をかけると言われる大河ドラマの場合、かつては平均20%超えが最低条件、80年代は30%超えも当たり前だったが、過去10年で20%を超えたのは『天地人』(2009年)と『篤姫』(2008年)、『功名が辻』(2006年)の3作品だけ。ここ数年は平均15%さえ超えることができない作品が相次ぐ。

2000年はじめの低迷期は、女性脚本家の大石静による、女性を主人公にした『功名が辻』で挽回したことがあった。これはかつて橋田壽賀子が脚本担当し、それぞれ平均30%以上だった『おんな太閤記』(1981年)、『春日の局』(1989年)の成功例に習ったものだが、『八重の桜』や『花燃ゆ』は期待むなしく、ターゲットの女性を十分に取り入れることができなかった。

王道路線で数字が期待された岡田准一の『軍師官兵衛』や、福山雅治の『龍馬伝』も結局は平均20%を切り、大台を超えられなかった。そうこうするうちに、気づけば同時間帯トップは、バラエティながら企画によっては20%をたたき出す日本テレビ系『世界の果てまでイッテQ!』に塗り替えられ、日曜8時に家族そろって大河ドラマをみるという習慣は、すっかり消滅してしまったようである。

●過去10年のNHK大河ドラマ視聴率(単位は%)
2015年『花燃ゆ』(主演:井上真央)初回16.7/最高16.7/平均12.0
2014年『軍師官兵衛』(岡田准一)初回18.9/最高19.4/平均15.8
2013年『八重の桜』(綾瀬はるか)初回21.4/最高21.4/平均14.6
2012年『平清盛』(松山ケンイチ)初回17.3/最高/17.8/平均12.0
2011年『江・姫たちの戦国』(上野樹里)初回21.7/最高22.6/平均17.7
2010年『龍馬伝』(福山雅治)初回23.2/最高24.4/平均18.7
2009年『天地人』(妻夫木聡)初回24.7/最高26.0/平均21.2
2008年『篤姫』(宮崎あおい)初回20.3/最高29.2/平均24.5
2007年『風林火山』(内野聖陽)初回21.0/最高22.9/平均18.7
2006年『功名が辻』(仲間由紀恵、上川隆也)初回19.8/最高24.4/平均20.9

朝ドラ、紅白から学べ! 大河ドラマ復活へのカギ

築かれた視聴習慣を取り戻すのは至難の業だが、NHKでは、朝の連続テレビ小説、いわゆる朝ドラのように復活できた例もある。『あまちゃん』を分岐点に、"良妻賢母"にも"職業婦人"にもとらわれず、楽しく生きる女性を主人公にしたものがヒットし、40代、50代の新たな視聴者層を取り込むことに成功した。

固定ファンを味方にできれば、『まれ』のような不満の声が多い作品でも、平均19.4%をキープできる。朝ドラは視聴者の新旧入れ替えが成功できたと言えそうだ。人口比率でみると、高齢者層をターゲットにした方がその場の視聴率は確保しやすいが、次第に番組の勢いはなくなっていく。

『真田丸』制作統括の屋敷陽太郎氏

そういう意味では、『紅白歌合戦』も分岐点に立った番組と言えるかもしれない。2013年には北島三郎、今年も森進一が同番組からの引退を発表するなど、世代交代が進んでいるのもその象徴と言え、2000年代中盤に3度40%を割り込んだ第2部の視聴率は、2014年まで40%台をキープした。

大河ドラマにおいては、どのようにシフトチェンジを図るべきか迷いの渦中にいる。『真田丸』主演の堺雅人は「あまり損得ばかりを考えると、縮こまったつまらないドラマになってしまう」、制作統括の屋敷陽太郎氏も「数値目標を考えだすと現場が濁る」と、視聴率には一喜一憂しない考えを強調しているが、やはり、せっかく作るからには多くの人に見てもらいたいもの。そろそろ大河復活のカギを、この作品でしっかりと見つける必要がありそうだ。

数字はビデオリサーチ調べ・関東地区世帯視聴率。