――そのほかのキャストで三谷さんが注目している人は誰ですか。

僕の中では緒形拳さん、勝新太郎さんが大河ドラマで演じた秀吉が双璧なので、今回、豊臣秀吉を演じる小日向文世さんには、お二人を越える秀吉を演じて下さいとお願いしました。今まで描かれてきたものとは違う「人間・秀吉」を描きたいという思いがあり、彼がなぜ朝鮮征伐をしたのか、人間味にあふれ「人たらし」と言われていた明るい彼がなぜ暗黒の世界へと入っていったのかを上から目線ではなく、信繁を通じて等身大に描いてみたいです。小日向さんが演じると相当いいものになると期待しています。あと、まだ見てないですが藤岡弘、さんの本多忠勝はスゴい、という話をよく聞きますね(笑)。

――今回、脚本を書くにあたってのこだわりは?

僕が書く以上、もしかしたら通常の大河ドラマよりユーモラスなシーンは多いかもしれませんが、コメディーにしようとか、笑わせようというつもりは全然ありません。僕にとってのユーモアとは「人」を描くことにほかならないんです。年表はあくまで歴史を俯瞰で見たものであって、そこには「笑い」も「人物」もいません。そこから目線をどんどん下げていくと、それぞれの登場人物たちの顔や言葉、息づかいが見えてくる。僕にとってのユーモアは、彼らをひとりの人間として描いた結果にすぎないんです。

――ここまで書かれてみての感想をお聞かせ下さい。

物語の前半は天正壬午(てんしょうじんご)の乱という、本能寺の変(1582年)の後、関東で起こった話なんですが、ものすごく難しかったです。どうしても僕らは信長・秀吉・家康を中心に歴史を見てしまうので、その時、地方で何があったのかについてほとんど知らない。今回も勉強しなければいけないことがたくさんありました。でも、それは逆に楽しくもあって、「こんなことがあったのか」と視聴者のみなさんに早くお伝えしたいんです。ホントにすごいんですよ(笑)。北条・上杉・徳川の争いの中で「昨日の敵は今日の友」みたいな世界が本当にあって、最終的に誰が覇者になるのか、という。資料を読みながら「これは『三国志』だな」って思いました。これだけの迫力、権謀術数が渦巻く歴史ドラマは今まで誰もキチンと描いてないと思います。歴史を知らない人ほど楽しめるのではないでしょうか。

――兄・信幸と弟・信繁という、兄弟の関係性に込めたい思いは?

二人はすごく裏表というか、兄は弟を尊敬し、弟は兄を尊敬しつつ、同じ分だけコンプレックスを持っている、そういう描き方をしています。僕の中ではもちろん真田信繁の物語ではありますが、それと同じくらいの比重で真田信幸の物語でもあるわけで、この長い歴史を二人がどう乗り越えていったのか、常に信繁の心には信幸がいて、信幸の心には信繁がいる、そういうイメージで脚本を書いています。

――ちなみに、三谷さんは一人っ子ですが、兄か弟が欲しいと思ったことはありますか。

僕ですか? 子どもの頃は『三匹の子豚』といった童話を読むと、末っ子が一番立派なことが多いので、ダメな兄が欲しいなとは思ってましたね(笑)。

――その思いは今も変わりませんか?

今さら「兄が欲しい」とは思いませんけどね(笑)。ただ、信幸は決してダメな兄ではなく、悩む率は弟より多いかもしれないけど、彼なりに懸命に生きている姿を描きたいと思っています。