「国立情報学研究所(National Institute of Informatics:NII)」は、ロボットを東大の入試に合格させることを目指す「東ロボ」プロジェクトを行っていることで知られているが、他にも色々とユニークな研究を行っている。今回のSC15の展示で発表されたのは、プリント基板をそのまま水道水に漬けて冷却するという常識破りの冷却法である。

もちろん、普通のプリント基板を漬けてしまっては、水は電気を通すので動作しなくなってしまう。これを防ぐ仕掛けはパリレン(Parylene)によるコーティングである。パリレンは真空中で分子単位で蒸着されるので、狭いところにも入り込み、バリア特性の高い膜を形成することができる。このため、従来から、体内に埋め込むペースメーカーなどのコーティングに使われている。

このパリレン蒸着で100μm程度の膜を作って、SC15の展示で水道水に漬けた状態でのプリント板の動作をデモしていた。膜が薄いとピンホールができたりして水が入り込みやすいという問題があり、一方、膜厚を増やすと、熱が伝わりにくくなり冷却特性が犠牲になるとのことである。

また、コネクタを抜いたりするとコーティングが破れてしまうので、原則として部品の交換はできない。研究者は、クラスタサーバなどの場合、システムの寿命が来て廃棄される時点で、7割以上のノードが生き残っていれば交換は諦めても良いのではないかと言っていたが、次にまとめる絶縁性の液体を使う浸漬冷却との比較で、どちらが得かということになると思われる。

水道水に直接漬けた状態でプリント板を動作させるNIIの展示

ミネラルオイルを使う浸漬冷却

「ExxonMobile」のSpectraSynという合成の「PAO(poly-alpha-olefin)」という油に漬けて冷却するという方法がある。東工大のTSUBAME-KFCが使っている「Green Revolution Cooling(GRC)」の液浸システムが有名で、SC15でも展示を行っていたが、最近は、空の箱だけの展示で面白くないので、3年前のSC12での写真を掲載した。このような液浸槽にラックを横倒しにしたように置いて、薄型サーバを収容している。

SpectraSynは車のエンジンオイルのようなもので、値段もその程度で安いが、問題点としては、引火性があり、GRCが米国で一般的に使っている粘性の低いものは日本では消防法で使えず、東工大では、粘性が高くかつ引火点も高いものを使わざるを得なかったという。また、粘性が高いので、引き上げた場合にミネラルオイルがなかなか切れず、プリント基板などの交換がやり難いという問題があるという。

同社はCarnotJetと呼ぶオイルの循環システムを使っていて、動作中はもう少し表面が波立って見えるのであるが、この展示では動作させていない感じである。

SC12で展示されたGreen Revolution Coolingの液浸層。縦方向にブレードが挿入されている

SC15でミネラルオイルを使う液浸システムを展示していた会社に、「LiquidCool」がある。GRCの液浸槽は、大きな容器にラックを横倒しにして沈めたようなものであるが、LiquidCoolのものはプリント板単位で個別に密閉されており、かつ、高発熱部品には銅色のキャップが付けられ、パイプから直接、温度の低いオイルが供給されるようになっている。

データセンターでは、部品交換の時に、ミネラルオイルが床にポタポタと落ちるのを嫌うのであるが、次の写真に見られるClamshellという構造ならば、修理などの際には専用のポンプでオイルを吸出し、残ったオイルをぬぐい取れば良いという。ただし、普通のサーバを漬けてしまえばよいGreen Revolution Coolingよりも、コスト的には高くなりそうである。

Clamshellと呼ぶLiquidCoolのミネラルオイルによる浸漬液冷