まだまだ日本では賛否両論聞かれる「同棲」。結婚に先立って一緒に暮らすカップルの数は増えているものの、ネガティブな意見も根強い。一方、恋愛大国フランスに目を向けると、多くのカップルが結婚を意識することなく一緒に暮らし、そのまま家族となっている。同棲や結婚の考え方が日本とは根本的に異なっているのだ。

愛し合うふたりをじゃまするものは何もない!?

子の婚前同棲を親も自然に受け入れる

フランスでは恋愛関係がある程度安定して続くと、一緒に暮らし始めることが多い。理由はおそらく世界共通、まずは愛する人とずっと一緒にいたいから。そして、負担の大きい家賃など、ふたりで折半することで経済的に楽になるからだ。ごく普通の男女のあり方として認められているので、後ろめたさとも気負いとも無縁だ。

子の同棲を親もいたって自然に受け止める。大抵の場合、子のパートナーを温かく家族に迎え入れ、気さくに付き合う。むやみに反対することも結婚の意思を探ることもない。人生の喜びは愛し愛されることと信じるフランス人ならではのおおらかさだ。

結婚を決めるタイミングもそれぞれで、例えば妊娠したとしても、あわてて「できちゃった婚」を決断することはない。フランスでは、結婚していなくても社会的に家族と認められ、法律に守られるからだ。婚外子差別は一切なく、相続に至るまで完全に平等に扱われるので、妊娠・出産を経ても結婚しないカップルは珍しくない。

同棲しても結婚しないもうひとつの事情

結婚・PACS・事実婚、どんな形でも家族は家族

実は、フランスでは離婚がとても難しいのだ。当事者間の合意がある場合、日本でなら離婚届を提出するだけで離婚が成立するが、フランスではそうはいかない。どのような場合でも、必ず弁護士を立てて裁判所を介さなければならない。手続きに1年以上かかることもざらだという。つまり、手間も費用も恐ろしくかかるのが離婚なのだ。

これは、フランスの民法が成立時に、キリスト教カトリックの影響を強く受けているからに他ならない。「富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、死がふたりを分かつまで」と教会で誓う言葉は、飾り物ではないのだ。

もちろん、現代のフランスでは離婚は合法だ。しかし、その手続きが極めて難しいとなれば、結婚自体に慎重になるのは自然だろう。同棲の先に見えてくるのが結婚ではなく、「PACS」(パクス: 税金や社会保障で結婚同様の優遇措置が受けられる)や、より自由な結びつきの「事実婚」であることが多いのは、こうした事情も関わっている。

フランス大統領も愛に生きる

最後に、間違いなく国を代表するひとり、フランス大統領フランソワ・オランドの私生活を紹介しておこう。彼はフランス国立行政学院在学中に同級生セゴレーヌ・ロワイヤル(2007年大統領候補・現政権閣僚)と知り合い、同棲を開始。4人の子どもをもうけ、30年近くの歳月を事実婚カップルとして過ごした。

次のパートナーのバレリー・トリルベレールとも同様に事実婚で、2014年1月、女優ジュリー・ガイエとの関係が明るみに出るまで続いた。現在は、その女優との交際が続いているとかいないとか。大統領の恋は静かに見守られている。

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筆者プロフィール: 岡前 寿子(おかまえ ひさこ)

東京在住の主婦ライター。ご近所の噂話から世界のトレンドまで、守備範囲の広さが身上。渡仏回数は10数回にのぼり、2年弱のパリ在住経験がある。所属する「ベル・エキップ」は、取材、執筆、撮影、翻訳(仏語、英語)、プログラム企画開発を行うライティング・チーム。ニュースリリースやグルメ記事を中心に、月約300本以上の記事を手がける。メンバーによる書籍、ムック、雑誌記事も多数。