地獄あんかけ、台湾まぜうどん、台湾味噌煮込み、どてきし、昭和カレーうどん、イタリアン煮込み……。全国の中でもとびきり個性的な名古屋メシをさらにアレンジしたメニューが百花繚乱。ユニークな創作うどんの数々を味わえるのが、名古屋市千種区の「手打めん処 三朝」だ。

「手打めん処 三朝」の「超デカッ! 海老カレーうどん」(1,000円)はインパクト大。そして味も手抜きなし!

名古屋メシがポイントのアレンジ系

三朝へは地下鉄の千種駅・今池駅・吹上駅からそれぞれ徒歩10分ほど。住宅街の細い通り沿いにある隠れた名店だ。まずはその"創作うどん"の一例を紹介しよう。「超デカッ! 海老カレーうどん」はデカい海老フライが2本も乗って1,000円。安すぎである。スパイシーかつクリーミーなルゥに極太麺を合わせた"名古屋流カレーうどん"は元祖店直伝で激ウマだ。

「どてきし」(850円)には名古屋名物のどてがたっぷりかかっている

名古屋名物のどてをたっぷりかけた「どてきし」(850円)は、赤味噌で煮込んだこってり味のどてに卵黄を落としてまろやかな味わい。麺は店主の佐枝慎一さんが最近力を入れているという幅広きしめんをチョイス。ほかにも、カレー+台湾ミンチ(激辛ミンチ)で異なる辛さが競演する「台湾カレーうどん」(800円)、カレーうどん+煮込みのハイブリッド「カレー煮込みうどん」(950円)は、新・名古屋メシの次なるブレイク候補だ。

三朝店主の佐枝慎一さん。「常に試作品はあるけど、正式にメニューにするのは季節に1品くらい。今はちゃんこにこみを考案中」とのこと

こうしたメニューに対して佐枝さんは、「うどん屋は昔からのメニューをずっと変わらず守っている店が大半だけど、俺に言わせりゃそれは時代遅れだよ」と話す。伝統を守ることがよしとされる業界にあって、常に新しいメニューの開発に情熱を注いでいる創作意欲旺盛なうどん職人だ。

"台湾"系うどんは激辛も

そんな佐枝さんが今、力を入れているのが"台湾"系うどん。これは、名古屋メシの一角を占める台湾ラーメンをうどんに応用したもの。台湾ミンチと呼ばれる激辛ミンチをトッピングし、三朝には「台湾カレーうどん」「台湾まぜうどん」「台湾鍋焼き」「台湾味噌煮込み」「台湾カレーライス」などがある。

「台湾まぜうどん」(850円)は、最新名古屋メシとしてブレイク中の台湾まぜそばのアレンジ版。天かす入りなのがうどん店らしい。ミンチの辛みがもちもち麺の持つ小麦の甘みとからみ合い、箸が泊まらなくなる

激辛系も豊富で、「激辛みそ煮込み」に「激辛カレーうどん」、さらには「地獄あんかけ」「地獄釜あげ」なんていうおどろおどろしい名前のものも。

「地獄あんかけ」(1,000円)は3種類のトウガラシを使用した激辛地獄。辛い・痛い・熱いの三重苦……いや三拍子? 筆者がこれまで経験した中で一番の辛さかも

隠れご当地麺のアレンジは細かすぎて……

名古屋らしさの打ち出し方もマニアック。きしめんを用いた「白いあんかけ志の田つけめん」(900円)なんて、地元の人でもどこまでがアレンジでどこまでが名古屋らしいのかピンと来なさそう。こちらは名古屋で愛されている「志の田うどん」をアレンジしたものだ。

「白いあんかけ志の田つけめん」(900円)。うどんのあんかけは一般的に醤油ベースのつゆを使った黒っぽいあんだが、白醤油ベースなので白っぽく、見た目通り上品な味わい

名古屋のうどん店では、きしめんのつゆに代表されるたまり醤油ベースの色の濃いつゆがポピュラー。だが、多くの老舗には愛知県が主産地である白醤油ベースの白つゆがあり、合わせる具によって赤(たまりベースのつゆ)と白を使い分けている。

志の田うどんはこの白つゆ系の代表的一品で、具は刻んだ油揚げとネギ、かまぼこ。地味な存在ゆえに地元の人も地域限定と気づいていないが、他所にはない名古屋特有の隠れご当地麺だ。そこで白いあんかけ志の田つけめんは、志の田うどんの白つゆをあん仕立てている。う~ん、細かすぎて伝わらない、かも……。

実は手打ちにこだわる実力派の老舗

こんなに創作メニューが多いとウケ狙いの新参店と思われるかもしれないが、実は昭和6年(1931)創業の堂々たる老舗で、ご主人は3代目。手打ち麺はもっちりかつコシがあり、ひと口すすれば丁寧な仕事ぶりと確かな技術が伝わる。

また、家業の後継者でありながら10代で修行に出て、しかもその修行先は名古屋流カレーうどんの元祖の店だったとか。この元祖の店では、スパイシーかつクリーミーなルゥに極太麺を合わせたカレーうどんを提供しており、このタイプが今日、名古屋中に広まっている。三朝では本家本元直伝の味をベースにトリプルスープにするなど、さらにバージョンアップさせている。

「カレーうどん」(700円)はポタージュのようなクリーミーなルゥが極太麺によくからむ。元祖直伝の味を独自に進化させ、名古屋流の中でも一、二を争う逸品

変わりダネメニューも含めて味はどれもこれもハズれなし。おまけに丼+麺のセットで900円など価格もいたってリーズナブル。さらに言えばこんなにウマいのに少々奥まった場所にあるためか、知る人ぞ知る穴場的存在でもある。

あんかけスパのアレンジ版の「ピリからあんかけきしめん」。筆者は夏に食べたが「もうひと工夫必要」(店主)と幻のメニューに。テスト的に登場するメニューもあるので、目新しいものがある時は迷わずチャレンジを!

名古屋はきしめんや味噌煮込みなどご当地麺が豊富で、うどん消費量も多く、また実力派の店も多い"うどん王国"。直球も変化球もイケるこの店で、その奥深さを味わっていただきたい。

●information
手打めん処 三朝
愛知県名古屋市千種区千種1-4-25
営業時間: 11:00~15:00、17:00~21:00
定休日: 水曜日

※記事中の情報・価格は2015年11月取材時のもの。価格は税込

筆者プロフィール: 大竹敏之(おおたけとしゆき)

名古屋在住のフリーライター。雑誌、新聞、Webなど幅広い媒体で名古屋情報を発信。Webガイドサイト「オールアバウト」では名古屋ガイドを務める。名古屋メシ関連の著作を数多く出版。『名古屋の喫茶店』『名古屋の居酒屋』『名古屋メン』『続・名古屋の喫茶店』(リベラル社)は自腹リサーチをコンセプトにしてご当地ロングセラーに。10月上旬にはご当地グルメコミックエッセイ『まんぷく名古屋』(KADOKAWA、森下えみこ著)に案内人として登場。