――ジミー・マッギル/ソウル・グッドマンという役について、今回改めて感じた部分はありましたか?

安原「チンピラがのし上がっていく、その生命力みたいなものが一番面白いところだと思います。あの生命力があれば何でもできる。そこがこの男のしぶとさであり、たまらない魅力ですね」

――バカなことをしているようで、押さえるところはきっちり押さえる、頭の良い人なんですよね

安原「そうなんですよ。でも、それでいて、裁判の前にトイレにこもって練習していたりするところは本当に可愛いなって思います。途中でちょっとまじめな方向に行くのかと思えば、やはりそちらにはいかない。今後は、またギャングたちが出てきたりするんじゃないでしょうか。そういった裏の世界、裏の社会みたいなところで活躍していくのも楽しみです」

――この役を演じるにあたって、一番難しいのはやはりスピードですか?

安原「翻訳の人も大変だと思うのですが、日本語にすると言葉が膨大な量になるので、それをあの尺の中に突っ込んで、それでいてちゃんと意味を伝えなければいけない。それが難しいところだし、常に心掛けておかないといけない部分だと思っています。ただ速い、なんとなく面白い、だけじゃダメなんですよ。この部分、この意味が大事だということをしっかり押さえて、ちゃんと伝えられないとギャラがもらえない(笑)。なので、なるべく台本をよく読んで、取り組みたいと思っています」

――膨大なワードの中のどこに重点を置くか、というところですね

安原「英語は音楽みたいなところがあるんですけど、日本語は音に全部意味があるので、ひとつも音をこぼせない。実際は平気でこぼしているんですけど(笑)、できるだけこぼさないように、ひとつひとつの言葉を大事にするように心掛けています」

――口の動きにあわせるのも大変そうです

安原「ディレクターが伊達さんで本当に良かったです。伊達さんはそのあたりにあまりうるさくない人なので。口パクにものすごくうるさいディレクターっているんですよ。そうするとおそらく、こういうタッチの仕事は面白くならない気がします。あわせることに雁字搦めになっちゃうので。あまりあわせることに重点を置くと、それに精一杯になって、面白がれないし、面白くなる前に仕事が終わっちゃう。逆に、あの量のセリフを突っ込みながらも遊んでいく感覚。それがハマったときは、本当に気持ちいいんですよ」

――そこで遊べるのは安原さんだからこそという感じもしますが

安原「いやいや、とんでもないです。僕はこの作品で、さらにセリフ術を勉強させてもらおうと思ってますから。昔よく羽佐間さんに、『お前は速すぎて何を言っているかわからない』と言われたので、そこをもっと修行したいと思っています」

――抑揚のつけ方などは元の演技にあわせたりするのでしょうか?

安原「名優さんたちの美味しいところは真似します。英語だと急にカーンと上がったり、ドーンと落ちたりするじゃないですか。日本語でもできるなら同じようにやってみたいと思っています。もちろん、日本人はそんな喋り方しないだろう、みたいになるのは嫌なのですが、急にポーンと飛ぶような感覚は嫌いじゃないです」

――声をあてる前に、そのあたりの演技はじっくりと観察なさるのですか?

安原「どちかというと、映像を見ながら声を出して練習するのではなく、台本を読む時間を長くするようにしています。画面を見るのはその後ですね。あわせるという作業はできるだけ最後にしたい。スタジオに行って、相手のセリフを聞きながらやりとりすることを大事にしたいと思っています。そのやりとりが決まると本当に気持ちいい。今は失敗しても録り直せばいいという時代ですから、もう自由にやっています。遊びを入れるにしても、アドリブの応酬をするにしても、ディレクターが止めるまではOKなんですよ。そういった掛け合い、本番での交流を一番大事にしたいので、あわせるという考えはあまり持たないようにしています。その結果として、偶然ピッタリあっているというのが理想です」