煙草が体に与える悪影響はさまざまなものが知られているが、あなたは「COPD」をご存じだろうか。「Chronic(慢性的)Obstructive(閉塞性の)Pulmonary(肺の)Disease(病気)」の略で、日本語で「慢性閉塞性肺疾患」と訳される。COPDは別名「タバコ病」とも呼ばれるが、気管支の壁に炎症が起き、肺胞が壊れるなどして正常な呼吸ができなくなる病だ。実は日本人の死因第9位にもかかわらず、認知度は3割程度と低い。

GOLD日本委員会はこのほど、「肺の生活習慣病 - COPDは全身に及ぶ病気です」をテーマに2015年度日本COPDサミットを開催した。同セミナーでは、東京大学大学院 医学系研究科呼吸器内科学 長瀬隆英教授、獨協医科大学 呼吸器・アレルギー内科 石井芳樹主任教授、国立病院機構栃木医療センター 加藤徹臨床研究部長らが登壇。COPDが単に肺の炎症性疾患ではなく、肺がんや糖尿病、心筋梗塞などに悪影響を与える全身性の疾患であることがさまざまな角度から語られた。

2015年度日本COPDサミット会場に設置された「世界一大きな肺模型」。写真は煙草の影響を受けた肺。タールによって黒く変色しているのが分かる

COPDを防ぐには「禁煙」を

健康な人であっても、加齢と共に肺の機能は下がる。これが若い頃から煙草を吸っていると、不自由な生活を強いられるばかりか、時に死亡してしまうほど肺機能が低下してしまうことがある。「COPDを防ぐためには、まずは禁煙をすることが大切です」(長瀬教授)。

また、COPDを発症すると肺がん・肺炎・肺線維症などの肺の病気を合併しやすくなるだけでなく、骨粗しょう症や消化器の疾患、うつ病など全身に悪い影響を与えるほか、また糖尿病の予後が悪くなることが分かっている。

「喫煙しているだけでも肺がんになりやすいのですが、COPDになるとさらにリスクが高まることが分かっています。COPD患者は喫煙量が同等であっても、肺がんによる死亡率が約7倍高くなります」(石井主任教授)。

煙草の煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露(ばくろ)することで生じる肺の炎症性疾患がCOPD。推計患者数は530万人ほどいると推計されているが、実際の治療者はその氷山の一角だ

受動喫煙が生むCOPD

「自分は煙草を吸わないから関係ない」という考え方は誤りだという。厚生労働省研究班の発表によれば、受動喫煙による年間死亡者数は毎年約6800人で、そのうち約4600人は女性。同セミナーでは2011年の交通事故死亡者数が4611人であることが示された。すなわち、交通事故での死亡者と受動喫煙による女性の被害者はほぼ同数であると推計されることになる。

また、夫婦間で見ると、喫煙する夫の「喫煙本数」が多いほど、そして喫煙する夫との「同居」期間が長いほど妻の冠動脈疾患が増加することが示された。

「喫煙終了後も3~5分にわたり、煙草の煙の10%を占めるPM2.5が呼気から排出されることが分かっています。残り90%の『ガス成分』は、洋服、毛髪、家具などに染み付き毒ガスを数時間の間、発生し続ける。そう考えると、受動喫煙も一種のDVと言えるかもしれません」(加藤臨床研究部長)。

COPD患者に見られる息切れ進行の悪循環。COPD患者は運動を避けるようになり、運動機能が低下することでさらに息切れを起こしやすくなる。右図では煙草の煙によって肺胞壁が破壊され、粘膜、気管支周辺の炎症および線維化が見て取れる

喫煙は意思だけで簡単に止められるものではないが、COPDに関する正しい知識を得ながら少しずつでも禁煙をすすめていくことが重要だ。今後さらに多くの人が禁煙できる世の中になることを期待したい。