プロジェクト25実行委員会『ワーキングピュア白書 地道にマジメに働く25歳世代』(日経BPコンサルティング/2015年10月/1500円+税)

地道にマジメに、やりがいを求めて仕事をしたい――このように考えている20代半ばの若者にとって、現代日本の労働環境は必ずしも適しているとは言いがたい。法令無視のブラック企業、常態化する長時間労働・サービス残業、低賃金、パワハラなどなど、現代の日本では労働を巡る問題が百出しており、本人がいくら地道にマジメに働こうと思っていても、環境がそれを許容してくれないことが多々ある。むしろマジメになればなるほど苦しくなっていくような気がして、未来が見えずに絶望的な気持ちになってしまう人もいるかもしれない。

本書『ワーキングピュア白書 地道にマジメに働く25歳世代』(プロジェクト25実行委員会/日経BPコンサルティング/2015年10月/1500円+税)は、そんな「地道にマジメにやりがいを求めて働く若者世代」(本書では、彼らを「ワーキングピュア」と呼ぶ)のための本である。ワーキングピュアと本書で定義された若者たちは、その名が示す通り純粋な若者たちで、それゆえに傷つくこともある。そんな時にどのようにして立ち直り前に進めばよいのか、本書には多くの事例やアドバイスが載っている。「自分ではマジメに働きたいと思っているのに、どうもうまくいかない」という人は、ぜひ本書を手にとってみてほしい。自分のいま抱えている問題をストレートに解決できる答えはなかなか見つからないかもしれないが、解決のヒントはつかめるかもしれない。

先輩世代の体験に学ぶ

本書は大きく3つのパートで構成されている。

パート1では、様々な業種で実際に働く25歳世代の若者たちの仕事にまつわる生の声が紹介されている。彼らが働いている業界は人材開発会社、大手商社、介護福祉施設、美容室と非常に多岐に渡っているが、いずれの人たちも何らかの点で問題を抱えている。

パート2では、若者世代よりもさらに上の世代(30代~50代)の体験談が紹介されている。過去にどのような壁にぶつかり、どうやってそれを乗り越えたかといった形式で、仕事との向き合い方や若者世代へのアドバイスが語られる。

パート3は映画監督の周防正行氏、元プロ野球選手・監督の古田敦也氏、小説家の朝比奈あすか氏の鼎談である。多様な分野の第一線で活躍するプロ3人が自らの若者時代を振り返り、さらに現代の若者世代へのアドバイスやメッセージが語られる。

パート2以降のアドバイスは、いま自分が抱えている問題に必ずしても合致するとは限らない。今の30代~50代と25歳世代では時代の違いもあるし、業種による違いもあり、アドバイスがすべてそのまま使えるというわけではないからだ。それでも「仕事との向き合い方」という面ではいずれも参考になる部分があるに違いない。

ベンチャー企業で体を壊し、会社の悪い面に気づく

本書のパート1のエピソードで僕がもっとも興味深く感じたのは、休日出勤が常態化しているベンチャー企業で体を壊し、最終的には転職をした25歳の高山さん(仮名)の話だ。

高山さんは大学在学中にアルバイトをしていたベンチャー企業にそのまま就職し社会人としてのキャリアをスタートさせるが、日々営業目標達成のプレッシャーに晒され、月100時間を越える残業を薄給で強いられた末、体を壊して異動することになる。異動した先でも人間関係で悩み、最終的には転職をすることになった。

普通の感覚なら会社が月100時間を越える残業を強いてきた時点で「おかしい」と気づきそうなものだが、高山さんがそれを「おかしい」と気づくことができるようになったのは、体を壊して土日休める部署に異動して気持ちの余裕が出てきてからだという。休日返上でノルマに追われていたころは、特におかしいということに気が付かなかったそうだ。休日出勤も上司に命令されてやっていたわけではなく自主的に行っており、いま振り返ると「明るい宗教団体」のような会社だったと高山さんは回想する。

この高山さんのエピソードから、僕は「あえて立ち止まり、一歩引いて自分の今の状況を客観視する」ことの重要性を強く感じずにはいられなかった。一生懸命に何かに打ち込むことは決して悪いことえではないが、あまりにもひとつのことに囚われすぎると視野はどんどん狭くなる。本書の想定読者である「ワーキングピュア」な人たちは地道でマジメなので、特にそのような傾向が強くなってしまうのではないだろうか。高山さんが自身の体験を通して気づいた「体を壊してまで働くことはない」という事実は、すべての若者世代が忘れずに覚えておかなければならないものなのだと僕は思う。

社会や制度のありかたを考えるきっかけにも

本書は基本的にマジメに働く若者たちにエールを送るという趣旨の本なので、現代日本の抱える労働環境の問題をどう解決していくべきか、といった提言は含まれていない。それでも本書を読めば(特にパート1を読めば)、社会や制度がこのままでよいと思う人ほとんどいないはずだ。

地道にマジメに働く若者が理不尽なことで苦しまないためには、どのような社会や制度が必要なのか、本書をきっかけに考えてみるというのもよいだろう。いろいろな読み方だできる一冊だと思う。


日野瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)がある。