LAのエンターテインメント業界でマルチに才能を発揮するカイ・パトリックさんの日々はとにかく目まぐるしい! 今日はニューヨークで日本のお笑い芸人・アジアンの撮影に立ち合い、明日はLAでセレブ俳優の演技指導。日本のCMに出演したり、3カ月間アクティングコーチとして演技指導のクラスを持ったりしたこともあるそうです。華やかな生活に見えますが、大好きな業界で仕事を続けるために4つの仕事をかけもちすることが必要だったと言います。

カイ・パトリックさん/アメリカ、ロサンゼルス/39歳/アクティングコーチ、キャスティングディレクター、プロデューサー、俳優

■これまでのキャリアと今の仕事に就いた経緯は?

小さい頃から映画やテレビの世界に憧れていて、最初は俳優になりたかったのですが、大人になるにつれどんどんシャイになってしまったのです。高校時代もハワイ大学時代も演劇のクラスをとっていたのに、とにかくシャイが災い。知らない人の前ですべてをさらけ出すなんてムリ! でも克服したい! 最初は家族や友人の前でわざと恥をかくようなことをして、そのうちデパートのウィンドウ前でボディビルダーの真似をするなど、徐々に挑戦の範囲を広げました。これは効果がありましたね。人に笑われても、この世の終わりではないって気づいたとき、このキャリアをスタートできたと思います。

俳優になるのは競争も激しく、仕事がないことのほうが多いというのが実情です。アメリカでは、俳優になっても平均5年くらいでやめる人がほとんどです。でも「他にできることがない」と思っていた私は、とにかくこの業界で"何か"していれば、いつかチャンスがやってくると信じていました。

ありとあらゆることをした結果、今は4つの仕事をしています。アクティングコーチ、キャスティングディレクター、プロデューサー、俳優に落ち着きました。なぜなら、(1)いつも忙しくしていられる、(2)4つの収入があれば生活できる、(3)4つの分野にまたがっているとキャリアも知識も相乗効果で伸びていく、からです。

■現在のお給料について教えてください。

年収はマチマチです。1カ月で年収の半分くらい6~7万ドル(約720万~840万円)を稼げるときもあれば、生活費が払えないくらい少ないこともあります。でも、ここ5年くらいは年収が12~15万ドル(約1,500~1,800万円)に落ち着いています。この額に満足しているかって? もちろん! でももっと多くたって困りませんよ(笑)。

■今の仕事で気に入っているところ。満足を感じる瞬間は?

一番は「アーティスティックな自由度が高い」ことでしょうか。つまり、自分でいくらでもクリエイティブなことができるということです。自分のイマジネーションを自由に巡らせて、お金を稼げるのです。さらに大切なのは、アクティングコーチとして生徒たちの恐怖感、「これはできない」という戸惑いを、演技上だけでなく、性格的な面からも取り除く手伝いができることです。クラスを通じて、彼らは自信をつけ、自分を大切にするようになり、決断が早くなります。演技の授業は俳優だけでなく、一般の人の生活にも役立ちます。この点に最もやりがいを感じますね。生徒やクライアントが成功すると、すごく嬉しいです。一緒にがんばってきたチームメイトですから!

演技指導のために来日したこともあるパトリックさん。演技の勉強は、個人の悩みを解消するきっかけにもなるという

■今の仕事で大変なこと、嫌な点は?

次にお金が入るのがいつなのかわからない……これが一番、大変な点。毎日働くこともあれば、まったく働かない日々もあるこの仕事。だから多くの人は安定した仕事を求めて、やめていきます。ハリウッドでは、「他の仕事をしている自分を想像できるなら、そうしたほうがいい」と俳優はアドバイスされます。世界でも一、二を争う競争の激しい仕事です。現実的に考えても、宝くじに当たったり、宇宙飛行士になる確率のほうがまだ高いと思います。この仕事で辛いのは、夢を諦める人を目の当たりにすることです。才能がある俳優なのにいつしか情熱を失い、最後には諦めてしまうのを見るのは悲しいです。