BCNは11月19日に記者会見を開き、デジタル家電などのいわゆる黒物家電の市場動向の分析結果と、年末商戦の展望を発表した。同社が大手家電量販店(全国22社)のPOSデータを集計している「BCN ランキング」のデータをもとに分析したものだ。会見では、高付加価値モデルが年末商戦の目玉になるとの展望が示された。

発表はBCNのチーフエグゼクティブアナリストである道越一郎氏が行った。データに基づく詳細な分析には定評がある

苦戦中の市場でも売れている製品とは

昨今のデジタル家電市場は、台数ベースで前年を下回るジャンルが多いものの、いくつかのジャンルは金額ベースで上回る、あるいは回復傾向を見せるというパターンが目立ち始めているという。こうしたジャンルでは、高付加価値な製品群が人気を博しており、市場全体を引っ張るほどの影響力を発揮するに至っているという分析だ。ここでは、液晶テレビ、レコーダー、ノートパソコン、音楽プレーヤーについて内容を紹介していこう。

テレビ市場とレコーダー市場

まず、前年比でマイナス成長が続いているテレビ市場だが、4Kテレビに関しては売れ筋が大型化し、販売台数も大幅な成長を見せている。もう少し詳しく見ていくと、昨年(2014年)までは30型台(32型、37型)が売れ筋のトップだったが、この1年は4Kを中心に40型台(40型、45型など)が徐々に台数を伸ばした。40型台の製品は、4Kを含む全体でも30型台に並び、やや追い越すほどに至っている。

テレビの買い替えサイクルは7~8年と言われており、2007~2008年前後に30型台の液晶テレビを購入したユーザーが、もう少し大型に乗り換えたいという需要が出ている

レコーダーでは、いわゆる全録レコーダーの人気が上昇。市場で一定シェアを占めるとともに、販売金額も前年をやや上回る水準に回復してきている。これはパナソニックの新製品投入によるものだが、魅力的な製品の登場で市場全体が活性化する好例と言えるだろう。

「全録」の定義は6チューナー以上。これまで東芝の独擅場だったが、パナソニックが一気に巻き返している

携帯音楽プレーヤーは「ハイレゾ」

携帯音楽プレーヤーは近年、スマートフォンへの置き換えが進み、大幅に前年比割れが続いていた。これが2015年の夏ごろから平均単価が上昇傾向にあり、直近の10月には金額ベースだけながら、前年比でプラスに転じている。詳細を見ていくと、昨年11月以降、ハイレゾ対応のプレーヤーが好調を維持し、単価も3万円付近まで上昇している。市場全体で見ても、ハイレゾ対応機の全体構成比が20%近くまで伸びており、今後もこの傾向は続く見込みだ。

ハイレゾ端末自体はほぼソニーの独占という状況だが、市場の活性化にはもう1社ほどライバルがほしいところ

パソコン市場は「軽量」

不調が続くパソコン市場で気を吐くのは、1kg未満の軽量ノートパソコン。これまでNECやパナソニックなどの高価格帯モデルが多かったが、ASUSが低価格モデルを投入したことで市場が活性化し、販売台数、金額ともに前年比で大幅な伸長を記録した。全体構成比で見れば、軽量ノートパソコンはまだ10%弱といったところだが、潜在的なニーズは高い。

1kg未満の軽量ノートは、ASUSの低価格モデルが大きな起爆剤に。価格帯が異なるNECやパナソニックにも好影響が出たかたちだ

好調な市場は、それぞれ「4K」「全録」「軽量」「ハイレゾ」がキーワードとなっており、高付加価値モデルが売り上げを底上げしているのがわかる。こうした高付加価値の製品が手ごろな価格になってきたために、売り上げが伸びているわけだ。全体としてみれば、高級モデルに人気が集まっているということは、デジタル家電は高くても理由があれば売れる余地がある、ということでもある。このことから、「年末商戦では価格と付加価値のバランスがとれた、ワンランク上のデジタル家電が目玉になるのではないか」という分析結果だった。

消費者心理としても、単に安いだけのものを買うより、一芸に秀でたもののほうが購入意欲もわく。高画質やハイレゾといったわかりやすい機能面での付加価値だけでなく、デザイン、素材などの価値を加えてくることも考えられる。各メーカーにも、こうした市場動向をうまく捕らえて、商機を逃さず魅力的な新製品を投入してもらいたい。